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いつか一緒に

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今日から二日間おそろいの衣装を来て、音羽達は楽器を持って色々なところに出没する。
大型の楽器は持ち運びが大変なので、音羽はミニハープ、土浦はピアニカ、志水は小太鼓を持ってだったが…。

「明日コンサートやります。みんな来てねー!」
「午後二時から講堂です。」

さすがは火原と柚木、しっかりと観衆にアピールを忘れない。

「火原先輩…何か疲れていません?」
「え?」

次の場所に移動しながら音羽は火原に話し掛ける。

「まあ、疲れもするよね?火原。あれだけ追い回されれば。」
「ゆっ、柚木!」
「追い回される?」
「CMを見てファンになった子たちが押し寄せたんだよ、朝ね。」
「ええっ!?本当ですか?すごい…芸能人みたいですね、火原先輩。」
「そんなんじゃないよお…。マジ怖かった。」

顔を青ざめさせ両手で覆う火原を、音羽は苦笑しながら覗き込む。

「元気出して下さい、火原先輩!」

話しながら歩いていると、ちょうど2年2組の前を通りかかった。
途端にきゃあああっと言う歓声が廊下に響き渡る。

「すごい歓声だね。」
「何やってんだ?日柳のクラス…ってことは…」
「加地君のロミオか。ナルホド。」

男性陣は納得したように教室の方を見た。

「そう言えば、日柳さんに是非ジュリエットを…みたいなこと言ったんだって?」

柚木は音羽を見ながら言う。

「…何で知っているんですか?」
「噂だよ。よく断れたね。」

はあ…と溜息を吐きながら音羽は肩を落とした。

「声がすると思ったら、やっぱり日柳さん!」

そこへ控え室から加地が顔を出す。

「加地君、お疲れ様。手伝えなくてごめんなさい。」
「ううん。ジュリエットが日柳さんじゃないのが残念だけど、演奏じゃあしょうがないもんね。あ〜、聴きたかったな。外での演奏。」

とても残念そうに加地は言う。

「というより次の上演中に日柳さんに演奏してほしいくらいだよ、『ロミオとジュリエット』。そうしたら最高だなあ。」
「映画の?」
「ううん、バレエ音楽だよ。知らない?」
「プロコフィエフ?」
「そうそう。」
「私は映画の方が好きだなあ。」
「映画のは綺麗な旋律だよね。日柳さん、弾いてくれないかな?」
「え?ここで?」
「うん。そうしたら次の公演も頑張れるんだけどなあ。」

加地のキラキラした笑顔に音羽は困ったように笑う。

「あー、音羽ちゃん!いいところに!!ちょうど公演が終わったところだし、ジュリエットの衣装を着てみてよ!!」
「えっ!?嫌よ!」
「散々逃げ回ってくれて…今日は逃がさないからね!!」
「ちょっ…待って…ヤダってば…!」

お借りしまーすと、美緒と直に引きずられて音羽は教室に消えていった。
少しもしないうちに教室からキャーキャー騒ぐ声が聞こえてきたかと思うと、直ぐに音羽が押し出されるように廊下に現れた。

「さすが日柳さん。とってもよく似合うよ!」
「あ…ありがとう。」

頬を染め俯き加減に礼を言う音羽に、加地はミニハープを渡す。

「これはもう、ぜひ弾いてもらわなきゃ。」
「…一回だけよ?」

音羽が教室から椅子を持ってくる間に、火原が周囲に声をかけた。

「どうもー。突然ですが、コンニチワー!2年2組による『ロミオとジュリエット』、今日は夕方からもう一回やるのでよろしくね。ということで『ロミオとジュリエット』から1曲、聴いてください。弾くのは、コンクールメンバーの日柳ちゃんです!おれ達は明日コンサートするから見に来てくださーい!!」

ルネサンス風の衣装を纏った彼女が奏で始めると、その一角が静寂に包まれる。
まるで映画のワンシーンのような風景に、通りがかりの人達も思わず立ち止まる。
中には顔を赤くしている男子生徒や、口をぽかんと開けている女性もいる。
ミニハープだけを見て爪弾く音羽の頬は恥ずかしさからほんのり染まっていて、それがまた彼女に魅入ってしまう原因なのだが…
音羽のゲリラライブに、加地は幸せそうな表情を見せた。


2013.10.21. UP




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夢幻泡沫