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いつか一緒に
50
「あれ、みんなは?」
音羽が着替えて戻ってくると、土浦と加地しかいなくなっていた。
「ああ、それぞれのクラスの奴に呼ばれて行ったよ。まあ…火原先輩は追っかけの子から逃げて…って感じだけどな。」
「ホント!?すごいね。」
「お前は追いかけまわされないのな。」
「…女の子が女を追いかけまわして何が楽しいの?」
はーっと溜息を吐いてバカなことを言う土浦を軽く睨む。
「そんなもんか?じゃあ、少し回るか。」
「いいねっ。お腹すいちゃった。」
「じゃあ何か食べようか。」
加地を先頭に階段を下りていく。
「加地君、着替えなくて平気?」
「うん。どうせまた着替えなきゃだしね。」
振り返りながら加地は答える。
「ねえ…そう言えば…」
「何だよ、加地?」
「後夜祭って自由参加のダンスなんだよね?」
「ああ。」
「土浦は?出ないの?」
「俺!?出るわけねーじゃん。ダンスなんてできねーよ。」
「そうなの?」
「そうだよ…」
何を言い出すのだと言わんばかりに、土浦は即否定する。
「日柳さんは?」
「…帰る。」
「え?出ないの?」
「お前、結構な人数から申し込みされてなかったっけ?」
「…ちゃんと断ったよ?」
気まずそうに視線を逸らしながら音羽はもごもごと答える。
「断ったって…それでも当日に申し込んでくる奴もいるんだろ?」
「だから帰るの。女子としては…ちょっと寂しいけどさ。それとも土浦君、一緒に踊ってくれる?」
階段の段差もあり上目遣いで見上げてくる音羽に、土浦は目元を勢いよく染めあげる。
「僕と一緒に踊ってくれませんか?」
音羽が土浦と言い合っていると、加地がすっと手を差し出してきた。
その行動に、音羽も土浦も目を丸くする。
「私!?や…あの…」
「ダメ…かな?僕も相手がいないから…。転校してきて初めての文化祭だから目一杯楽しみたいし、いい思い出にしたいんだ…」
少し寂しそうに言う加地の横で、土浦は白けた顔をする。
土浦は知っているのだ。
加地が女子から殺到するほど後夜祭の相手を申し込まれていたことを。
「…初めて…だよね。私でよければ…」
そっと加地の手の上に自身の手を置く音羽を見て、土浦は眉間を押さえた。
「土浦君?」
「いや…簡単だな…オイ。」
ふうと深く溜息を吐いて、土浦は気持ちを切り替えた。
「ところでさあ…蓮って今も練習しているのかな?」
「してんじゃねーの?」
「ちょっと様子を見に行ってみない?」
「げっ!?あいつのところに?」
「いいね、行こうよ。」
音羽の提案に加地は楽しそうに賛成するが、土浦は露骨に嫌そうな顔になる。
「アイツのことだから『練習のジャマだ。出ていってくれないか。』とかなんとか言われるのがオチだろ。」
顔真似も入れて眉を顰める土浦に、音羽は笑い声をたてる。
「似ている、似ている!」
「うれしくねーよ!」
「せっかくの文化祭なんだから、差し入れでも持っていこうよ。何がいいかな?」
「嫌がらせのように、手とか汚れそうなもんでいいんじゃねーの?」
ニヤッと笑いながら嬉しそうに土浦は提案する。
「たこ焼きとか、ソース系とか。」
「うわ…たこ焼き食べている蓮って想像できない。」
3人は早速たこ焼きを買いに走りだした。
「失礼しまーす!」
バタンと開く扉に月森が振り向くと、ニコニコ笑う音羽を先頭に3人が入ってきた。
「お疲れ様、月森君。少し聴こえたけど、さすが月森君。素晴らしい演奏だね。」
「差し入れ持って来たよ〜!休憩しない?」
「ったく、何でお前だけ練習してんだよ。協調性のない奴だな…」
三者三様の言い分に月森が口を開きかけると、音羽がすかさず塞ぐ。
「まあまあ、とりあえずたこ焼きでも!」
彼女が差し出すそれを、月森は未知のものを見るように睨みつけて固まっていた。
「あ…あれ。蓮…?」
「知らねーんじゃねえの?こいつ。」
「…知っている。」
馬鹿にするなと露骨に顔を歪めて月森は土浦に反論する。
「食べたことは?」
「ない。」
きっぱりと言い切る月森に、3人は苦笑するしかない。
「じゃあ…ハイ。」
爪楊枝にたこ焼きを1つ差すと、音羽は月森の口のそばに持ってくる。
彼女が自然とした行為に、男3人は目を見開いて固まった。
「…いや、いやいやいや。『ハイ』じゃねーだろ…日柳。」
「え?あっ…そうか。ごめん、蓮。」
「…いや。」
音羽の手を掴んでたこ焼きを食べながら彼女の手を見る。
「おいしい?」
「…まずくはない。でも、これは手が汚れるな。」
見事に土浦達の企みを読み取る月森に、音羽はアハハーと視線を逸らす。
「えっと…蓮、文化祭はもうまわってみたの?」
「いや…」
「それじゃあ、みんなで一緒にまわろうよ!」
ニッコリと笑って言う音羽に、3人は拒否することはできなかった。
2013.10.25. UP
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夢幻泡沫