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いつか一緒に
51
あこぎな商売をしている3年B組の執事喫茶へ行ったり、気配が全くなかった1年A組のお化け屋敷に入ったりして文化祭を満喫する。
「加地くんは前の学校では何やったの?」
「僕?テニス部だったから、そっちがメインだったかなあ…。招待試合したりとかね。」
「へえー。前に体育の授業の時に見たけど、すごく上手だよね。」
「うわあ、嬉しいなあ!ありがとう!!」
満面の笑みを浮かべた加地に、音羽も笑い返す。
後ろを振り返ると、土浦と月森が互いに反目し合っていた。
「…ねえ、蓮。」
「何だ?」
「蓮は…後夜祭、予定あったりするの?」
「後夜祭?」
「ホラ、誰かと踊ったり…」
「踊る…?何のことだ?」
「知らない?後夜祭で自由参加のダンスあるんだよ…?」
「…知らなかったな。」
月森の言葉に音羽は思わず立ち止まってしまう。
すると少し離れたところで土浦が振り返った。
「おーい、日柳。はぐれんなよ。」
「あ、ごめーん。待って!」
慌てて近づく音羽に
「ハイ。」
「ほら。」
と、二つの手が差し出された。
同時に差しだした土浦と加地は、驚いたように互いを見る。
音羽もポカンとしていたが、嬉しそうにふわりと笑うと両腕を絡ませた。
「両手に花?」
「花か〜、いいね。」
「花かよ…」
喜ぶ加地に眉間に皺を寄せる土浦、微妙な反応の月森を引き連れて、音羽は次なる場所に向かって行った。
志水の姉が作ってくれたお揃いのステージ衣装を着てステージに控える。
真っ暗だった会場に一筋のスポットライトが端を照らした。
そこにいた音羽のハープに乗って、火原のトランペットが響く。
すると、2人の後ろにあるスクリーンから例のCMが流れ始めた。
途端にわあっと歓声があがる。
音羽バージョンと火原バージョンが続けて流され、最後は『音楽に恋しよう』と題される。
コンサートは予想以上の盛り上がりで開幕した。
みんなでステージに上がり、決めた構成で次々と曲を奏でていく。
土浦の伴奏、志水の低音に乗るように、音羽のハープが、月森のヴァイオリンが、冬海のクラリネットが、柚木のフルートが、火原のトランペットが旋律を紡ぐ。
お互いに視線を投げかけ、微笑み合う。
音羽は鼻の奥がツンとした。
このメンバーで演奏するのは最後かもしれない…
何だか…さみしいなあ…
6人の演奏が終わると、月森のソロの番になる。
大きな歓声の中でステージ袖に引き上げると、月森はじっとヴァイオリンを見ていた。
「月森君、次だよね。がんばってね!」
「あ…はい。」
火原の言葉に月森は答える。
音羽もすれ違いざまに声をかけた。
「…がんばって。」
「ああ…」
しばらく彼女を見つめてから、月森は舞台へと向かった。
何かを想うようにヴァイオリンを見つめる。
そっと瞳を閉じると、月森は一気に弾き出した。
「『スケルツォ・タランテラ』…か。」
「第二セレクションで弾けなかった曲だよな…確か。」
柚木と土浦が舞台の上を見ながら話す。
「選曲も月森らしいな。」
「すごく難しい曲だもんね、この曲。」
「あいつ、うまくなったな…」
ステージ袖で月森を見ながら土浦はポツリと呟いた。
見事なパフォーマンスを見せると、音羽と入れ替わる。
ハープを見て微笑むと、彼女は弦を見つめて奏で始めた。
「この曲は…」
「ヘンデルの『ハープ協奏曲 第一楽章』…」
「なんて優しい音…愛しそうに弾く音羽先輩も可愛らしいですね…」
冬海が見つめる先には、ハープを抱えた音羽がいる。
指が吸い付くように弦を弾き、音色に深みが増している。
音を紡いで大切に織り上げたものに包まれるような温かさが広がった。
「…これはコンクールが楽しみだね。」
柚木の言葉に火原が驚く。
「えっ!?コンクールって?日柳ちゃんが出るの?」
「僕も確かなことは分からないけど、今度コンクールに出るって噂で…」
「えーっ!?本当なの、月森君!?」
「…音羽はあまり知られたくないみたいですよ。」
火原の騒がしさに眉を顰めながらも、月森は肯定する。
「土浦も聞いているんじゃないか?」
「…ああ。国際ハープコンクールだろ?」
「国際ハープコンクール?」
「ハープコンクールの中で、最難関じゃないか。」
驚きで柚木の目が丸くなる。
「でも音羽先輩なら…きっと大丈夫ですよ…」
「そうだね、志水君。」
「月森君も土浦もそうだけど、今年の2年はすごい子が集まっているんだね。」
火原の言葉に自然とみんなの視線が音羽に向いた。
愛らしいという表現がぴったりとくるような演奏が終わると、会場から拍手と歓声があがる中で音羽はステージ袖に戻ってきた。
「…これはアンコールに応えた方がいいんじゃないかな?収拾がつかなくなるよ。」
しばらく経っても鳴りやまない手拍子に柚木が苦笑交じりに言う。
「ほら、行ってこいって。」
背中を押そうとする土浦に音羽はビックリする。
「え!?蓮でしょ?」
「はあ?お前もだろ?」
「私はいいよ…」
「…音羽、行くぞ。」
溜息を吐きながら尻込みする音羽の手を掴んで月森はステージに上がった。
2013.10.28. UP
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夢幻泡沫