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いつか一緒に
55
そのまま音楽室へ行くと、ピアノの蓋を開け鍵盤を見つめる。
ゆっくりと指を乗せ練習を始めるが、頭の中では天羽の言葉がよみがえってくる。
『ずいぶん仲良くなったな…って』。
『主に月森君?』…
その途端、指がもつれ音を外してしまう。
「〜っとと…」
普段ならあり得ないことに、土浦はガクッと項垂れてしまう。
「うわー…気にしてたんだ、俺…」
その時、扉が開く音と共に声が掛けられた。
「きみだったか、土浦…。何故そこで音を外す?」
「げっ!うっわ…今の聴かれたのかよ。」
ファイルを抱えて立っている月森に、土浦の顔は青ざめる。
「準備室の方に資料を返しにきただけだ。練習を続けてくれ。」
「お優しいことで…」
「コンクールの曲か?」
「ああ。」
情けなさと恥ずかしさからか、土浦はええい、くそっ…と頭をガシガシと掻きながら半ば自棄になって答える。
「…」
そんな彼の様子を、月森は考えるような仕草をしながら見る。
「…何だよ?」
「いや…きみがコンクールに出ると聞いた時、少し驚いた。好きではないと思っていたからな。」
「…小さいコンクールだけど、正確さ云々の前に比較的…将来性とか音楽性を重視してくれるコンクールだって聞いてさ…」
軽く息を吐きながら、土浦は自身の気持ちを確かめるように言葉にする。
「まあ…今だって好きか嫌いかで言ったら…好きじゃないさ。だけど、逃げてばかりもいられないしな。」
「…」
「…んだよ?」
黙って目を丸くする月森を、土浦はジロっと睨む。
「…いや、以前は土浦…きみが学内コンクールの後もピアノを中心にやっていくとは思ってもいなかったな。だって、きみ達には音楽以外の他の道もあるわけだろう…?」
遠くを見つめて呟くように言う月森の言葉は、土浦の癇に障った。
即座に眉間に皺を寄せ、突っかかるように声を低くする。
「…はあ?…っだよ、ソレ。音楽しかない自分とは違う…って?嫌味な奴だな、相変わらず…。音楽科だからって何なんだよ。大体、普通科の俺達に壁を作っているのはそっちだろう?」
「…別にそういうつもりで言ったわけではない…」
「そりゃ、留学目前の音楽科のエリート様から見たら…」
そこまで言って、土浦はハッと気がつく。
『きみ達には音楽以外の他の道もあるわけだろう…?』
違う…俺じゃなくて…日柳のことか。
まさかコイツ…気がついたのかよ。
自分の気持ちに…
「…ただ俺は音楽しか知らないから。」
少しだけ困った表情を浮かべながら言い直す月森に、土浦は盛大な溜息をもらす。
「…嫌な奴だよ、やっぱりお前。俺で確認取るんじゃねえ!」
「確認…?」
欲しい答えは…アイツのだろう…?
…まさか、俺の日柳への気持ちを知っているからあえて…か?
月森の思考を深読みしながらジロリと視線を流すが、
「何なんだ、土浦。何が言いたい?」
月森の冷めた視線に頭を抱え直す。
ないな…それはない。
月森はそんなに器用な奴じゃない。
『きみ達』って言ったことだって、絶対無意識だよなコイツ…
ピアノに凭れかかるように肘をつく土浦に、月森は更に言いつのる。
「だから、さっきから何が言いたいんだ?土浦。」
「何でもねーよ!言いたいことがありすぎて、もう面倒くせえ…。俺は練習がしたいんだ。とっとと行けよ、月森。」
シッシッと追い払うように手を振りながら、土浦はピアノに向かい直す。
「ったく…もうコンクール直前で時間もないってのに、邪魔すんなっ!」
「何だ…自信がないのか?土浦。」
軽く笑いながら言った月森の言葉に、土浦は見事に反応してしまう。
「あ〜、もう!お前こそ何なんだよ、月森!!」
「いや…何か動揺しているみたいだなと。さっきも君らしくないミスだった。」
「誰のせいだよ、誰の!!」
「それは、俺には分かりかねる質問だな。」
ふう…と盛大に溜息を吐き、月森はこともなげに言い切った。
「そもそも、その規模のコンクール…きみのピアノなら確実だろう?」
余りにも当然のように言う彼に、土浦は月森を凝視してしまう。
「どうした…やはり自信がないのか?」
「…いや…」
不意に天羽の『雰囲気が変わったって言うか…』という言葉を思い出す。
一気に疲れを感じ、土浦は目をぐっと抑えた。
「分かったから練習させろよ…」
「ああ…邪魔したな。すまない。」
そう言って踵を返す月森の足音を聞きながら、土浦は自身の性格を恨めしく思う。
月森に伝えなくても一向に構わないのに…。
伝える必要などないのに…。
ああ〜、ったく!
「月森!!」
目を合わせてはっきりと言葉にした。
「お前が思うよりずっと大きな存在だよ、音楽は。…俺にとっても、日柳にとってもな。だから…みくびるんじゃねーよ。」
2013.11.11. UP
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夢幻泡沫