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いつか一緒に

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「さて、そろったかな。」

ピアノ部門のコンクール当日、学内コンクールのメンバー分のチケットを用意した柚木が声をかける。

「チケット…ありがとうございます。柚木先輩。」
「いいよいいよ、気にしないで。」

冬海の言葉に柚木は笑顔を向ける。

「火原からだけはもらおうかな、チケット代。後輩じゃないしね。」
「ええーっ!!」
「楽しみ…です。土浦先輩の演奏。」
「だよね!」

志水のマイペースな発言に音羽も笑顔になる。

「それより、日柳ちゃん大丈夫だった?明日出発なんだよね。無理に誘っちゃったかな?」
「大丈夫です、火原先輩!土浦君の演奏は絶対聴きたかったので。ありがとうございます。」
「そう?ならよかった。」

気を遣った火原にお礼を言う音羽に、彼もまた笑顔になる。
そんなやり取りを何の気なしに見ていた月森に、

「見すぎだよ、月森君。」

くすくす笑いながら柚木は声をかけた。

「穴があいてしまうよ。」

ハッとした月森は気まずそうに視線を逸らす。

「どうかしましたか?柚木先輩。」
「ううん、何でもないよ。それじゃあ、そろそろ行こうか。」
「はい!」

柚木の言葉に音羽達は会場の中に入った。



土浦の演奏は圧巻だった。
いつまでも拍手や歓声が止まないほど、彼の演奏は会場を虜にした。

「優勝なんてすごいなあっ。さすが土浦!」

会場で会った加地が嬉しそうに笑顔を振りまく。

「うん!スゴイよかったよね、土浦。コンクールだってこと忘れて、聴きいっちゃったよ。」
「加地くんも来ていたんだね。」
「そうですよ。僕も誘ってくださいよ、柚木さん。」
「うん、ごめんね?」

加地の言葉に柚木は微笑む。

「さて…と、次は日柳さんだね。」
「そうだよ、日柳ちゃん!土浦に続けーだね!!」

火原と柚木の言葉に音羽の足が止まる。

「プ…プレッシャーかけないでくださいよぉ…」
「おやおや。」

慌てて両耳を塞ぐ音羽を柚木は面白そうに見る。

「が…頑張って下さいっ。音羽先輩…っ!」
「大丈夫だよ、日柳ちゃん。」

冬海と火原が慌ててフォローを入れる。

「それじゃあ明日もあることだし、そろそろ帰ろうか。」
「そうですね。」
「土浦君に一言、おめでとうって言いたかったけど…インタビューやら色々忙しそうだったもんね。明日かな〜、残念。」
「特に…自由曲が素晴らしかったです…。『革命』でしたね…」
「そうだね。次も楽しみだね。」

柚木がいらない一言をさらりと口にする。

「だからっ、プレッシャーをかけないでくださいよぉ。」
「あはは。ごめんごめん。」

泣きそうになる音羽に、柚木は心から楽しそうに笑って謝った。



「はあ…」

軽くハープを鳴らしていた音羽だったが、コンクールのことを考えると緊張してきてしまった。
荷物は全て用意し終わった。
コンクールも、着いてすぐ開催されるわけではない。
それでも…

「ダメだ…散歩しよう…」

音羽はふらりと家を出ると、のんびりと歩き始めた。
気付くと月森の家の前まで来ていた。
何となく来てしまったのはいいけど、さすがにこんな時間に突然…
ウロウロと玄関の前を右往左往していた音羽の目の前に、突然月森が現れる。

「っ!!蓮!?」
「一体…何をしているんだ、こんな所で!明日出発だろう?」
「あ…うん、そうなんだけど…緊張しちゃって、何となく散歩に出たら蓮のお家まで来ていてね。蓮の顔を見たら落ち着くかな…って。」
「…そんなことでどうするんだ。」
「ごっ…ごめんなさい。迷惑だったね。」

慌てて距離を取る音羽に月森は何か言おうと口を開きかける。
微妙な空気が2人の間を流れた。

「…帰るね。遅くにごめん。」

音羽が踵を返し歩こうとした途端、

「…っ、迷惑なわけじゃないんだ!」

背中が衝撃と共に温かくなった。

「ちょっ…蓮?」

音羽は抱きしめられたそれをはがそうと、月森の腕に手をかける。

「そうではないんだ…」
「え…?」
「ただ…いつまでも俺に頼られても困る。俺も留学するからずっとそばにいられるわけではない。」
「…分かっているの。自分でどうにかしないといけないと言うことは…。それでも…」
「俺も…音羽も共に音楽を続けていれば、きっと道はまた交わるだろう。学内コンクールの時のように、これまでのように。音羽が俺のことを応援すると言ったように、俺もきみを応援する。…遠くにいてもだ。」

音羽の髪に顔を埋めて囁くように言っていた月森は、ハッと気付いて慌てて彼女から離れる。

「すっ…すまない…」

月森は動こうとしない音羽に恐る恐る窺うように声をかける。

「音羽?」
「蓮…ありがとう…」

ゆっくりと振り返った音羽は目を潤ませながらふわりと笑った。

「最高の応援だわ。私、頑張るから…」

もう帰るね、と音羽は笑顔を残したまま月森の家を後にした。


2013.11.18. UP




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夢幻泡沫