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いつか一緒に
59
その日の星奏学院は喧騒に包まれていた。
「ねえ、見た!?昨日のテレビ!」
「見た見た!ビックリだよ、史上最年少優勝でしょ!!」
「あのコンクール、ハープ部門の中では最難関なんだって。凄いよね、日柳さん!」
あちこちで聞こえる音羽への賞賛を耳にしながら、土浦は渡り廊下の手摺に凭れかかる。
「よっ、土浦。なんだよオイ、ぼやっとして珍しいな。」
「金やん。」
振り返ると金澤が手をあげながら声をかけてきた。
「日柳の話題が凄いな。」
「そりゃ、史上最年少優勝だから。知り合いがテレビに出れば、騒ぎますって。」
「土浦も優勝おめでとうさん。余裕って感じか?」
「そんなこと…ないですよ…」
土浦の考えるような表情に、金澤は怪訝な顔をする。
「なあ…金やん。」
「ん?」
「音楽科の生徒って、やっぱり全員そっち方面に進学するわけ?」
「まあ、ほとんどそうだな。…ってお前さん、そっちに進むつもりになったんじゃないのか?」
「…」
「この期に及んで何を悩んでいるんだか知らないが、受験なんてすぐそこだぞ?火原みたいになりたいのかあ?」
最後は茶化すように言う金澤に、土浦は眉を顰める。
「…火原先輩、大丈夫なんですか?」
「ああ…まあギリギリな。」
遠い目をしながら溜息をつく金澤を見て、土浦もぼんやりと景色を眺める。
「それはそうと…日柳の奴、これからが大変だな。」
「え?」
「帰ってきたら凱旋リサイタルを開くらしいぞ。」
「へえ…」
「出席日数のこともあるし、期末テストのことだってあるだろうしな。」
「うわー…大変だな、オイ…」
「大学進学にしても引く手数多だろ?日柳は…アイツはどうするんだろうな。」
黙ってしまった土浦をちらりと見ながら、金澤は独り言のように言った。
それから何日かして帰国した音羽が学院へ行くと、わあっと言う歓声と共にあっという間にたくさんの生徒に囲まれた。
「テレビ見ました!おめでとうございます!」
「凱旋リサイタル、絶対に行きます!!」
「サインもらえますか?」
次々振りかかってくる言葉に、音羽は目を白黒させる。
「あの…ありがとうございます。でも、サインは…」
自身の教室にすら行けない状況に、彼女は泣きそうに眉を下げた。
「ごめんなさい、先生に呼ばれていますので…」
漸くそれだけ言うと、逃げるように校舎に走って入った。
「金澤先生〜。」
「お、日柳。おはようさん。」
「…おはようございます。」
いつも通りやる気のなさそうな金澤に、ホッと息を吐きつつ音羽は職員室に入る。
「コンクール優勝、おめでとうさん。」
「ありがとうございます。」
「史上最年少なんてやるなあ。」
「そんな…年齢は、たまたまですよ。」
「ま、それも運のうちだろ?」
ニヤリと笑いながら音羽を見る金澤に、彼女は困ったように苦笑う。
「知らない人からたくさん声を掛けられて、ビックリしました。学内コンクールの時はそんなでもなかったのに…」
「暫くは諦めんだな。っとそうだ、吉羅が呼んでたぞ?理事室へ行くか。」
徐に歩き出す金澤の後を音羽はついて行く。
理事室で冬休みまでの予定を確認した後、音羽は教室へ戻った。
放課後、音羽は図書室で黙々と参考書を解いていた。
休んでしまった分の課題や、期末テストに向けての勉強が山のように溜まっている。
「…分からない…」
完全に行き詰ってしまった問題を前に、音羽は大きな溜息をつく。
「でっけえ溜息。」
不意に後ろから声を掛けられて音羽はハッと後ろを見遣る。
「…土浦君!」
「よっ。今日から登校か?」
「あ、うん。2、3日前に帰ってきていたんだけど、いろいろとバタバタしていて…」
「おかえり。」
土浦の思わぬ一言に、音羽の目が大きく見開かれる。
けれど直ぐに向けられた極上の笑顔に、今度は土浦の方が頬を染めて彼女を凝視してしまった。
2013.12.02. UP
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夢幻泡沫