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いつか一緒に
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「なあ、日柳…」
「何?」
「お前、これからどうするんだ?」
不意に真顔になって土浦は音羽を見た。
「これから…って?」
「やっぱり音楽の道に進むのか?」
「…うん。がんばるって決めたから。蓮とも約束したし。」
「月森と…?」
「お互いに音楽を続けていれば、いつかまた道が交わるよね…って。蓮はもう留学しているけど、どこでやっていようと彼は彼だし…私は私だし。」
「日柳…お前、月森の留学のこと…」
「何となくだけど、帰ってきたら蓮はいないって分かっていたわ。でも小さい頃と違ってすぐ連絡取れるし、思っていたより寂しくはないかな。」
遠くを見つめて言う音羽を見ながら、土浦は考える。
最近…自分の選択をつき付けられる。
嫌でも考えさせられる…
ヴァイオリンのことだけ真っ直ぐに見つめているあいつを見ると、俺は…あそこまで一途に向き合えるのか?
こんな気持ちで…
「…土浦君?」
黙って見つめてくる土浦に音羽は困惑する。
「…やりたいことがあるのか?」
「分からない…」
「は!?分からない?」
「うん。ただ…ハープを続けたいのは確かだし、もう後悔はしたくないから。」
きっぱりと言い切る音羽の表情は凛としていて、土浦は知らず知らずのうちに見惚れていた。
「ハープが好き、音楽が好き…っていうのが一番の理由かな。こんな簡単なことなのに、どうして忘れちゃったんだか…」
「…じゃあ、俺の理由はお前だな。」
穏やかな瞳を音羽に向け、土浦は自身の想いを言葉に紡ぐ。
「俺は…お前が好きだよ、日柳。」
一度大事なものを手離してしまった経験があるだけに、強く思う。
確かに、もう後悔は…ごめんだな。
「『コンクールが終わったら話がある』って言っただろう?…学内コンクールの最中からずっと好きだったんだ。俺、あのコンクールに参加してよかった。お前に会えたからな。日柳の真っ直ぐなところも、弱いところも、日柳の音楽も、全部纏めて好きだぜ。」
いつの間にか着いていた音羽の家の前で、土浦は真っ直ぐに彼女を見て静かに伝える。
音羽は自身の身に何が起こったか分からないように立ち尽くしていた。
「…ったく、日柳…お前、驚き過ぎだろう?」
「えっ…あ、えっ…?」
「別に返事は期待していないさ。ただ…伝えておきたかった。」
優しく見つめてくる土浦に、彼から言われた言葉が頭の中で駆け巡る音羽はみるみる顔を赤く染めていく。
「…あ…」
「じゃあ俺、帰るな。」
「えっ!?」
またなと去っていく土浦の後ろ姿を、音羽は真っ赤な顔をしたまま口元を覆い呆然と見送った。
「よっ、日柳。音楽棟に行くってことは、今から練習か?」
テストも無事に終わり終業式を迎えるだけになった学校で、普段通りに話しかけてくる土浦に音羽は挙動不審になる。
「えっ…と、あ…金澤先生に用事があって…」
ギギギ…と壊れたロボットのようにぎこちない行動しか取れない音羽に、土浦は
「そっか、気をつけてな。」
と何事もなかったように去って行った。
はあ…と溜息を吐いて歩き出す彼女を、おもしれーと手摺に寄りかかりながら土浦は見ていた。
「なーにしてんの?土浦君。」
突然名前を呼ばれたことで、土浦はドキーンと大きく反応した。
「なっなんだ、天羽か。驚かすなよ…」
「それより何、アレ?最近、あの子の様子がおかしいんだけど。妙にソワソワしてるっていうか、挙動不審というか…」
「別に…」
視線を逸らして答える土浦を、天羽はじっと観察するように見る。
「言った?」
天羽の言葉に、土浦は思わず目を見開く。
「うわっ!言ったんだ、本当に。」
「ちょっ…オイ、大きい声出すなよ。」
ったく…と土浦は額に手をやり、手摺に寄りかかり直す。
「で?返事は?」
「…答えるとでも思ってるのかよ。」
「あの子、自分のことに関してかなり鈍いわよ?」
「ああ。それでも言いたかったんだ。」
静かに問いかける天羽に、土浦もまた静かに答える。
「まあ…意識されまくってて、なんだか楽しいんだけどな。」
「うわあ…サイテー。」
「今まで散々振りまわされたんだから、このくらい許されるだろ?」
「ったく、イイ性格してるわね。」
「ははっ。ケジメを…さ、つけたかったっていうのかな。あいつは全てのきっかけをくれたから。だから…」
空を見上げて薄く笑いながら土浦は言う。
「…困ってるんじゃない?あの子。」
「独りよがりなことは分かっているさ。」
「だけど…まあ、あの子の周りは賑やかよね。加地君はまあ、置いておくとしても…月森君だってそうでしょう?」
眉を下げながら天羽は音羽の周りにいる人たちを思い出す。
「…月森君は言わないのかな?幼馴染みからの告白なんて、相当おいしいじゃない。」
「…だよな。」
分かっていたことだけに、土浦は脱力する。
「そーよ。」
「ったく…こっちは振りまわされっぱなしだっての。…まあ、少しは付け入る隙があるだろう?」
「あはは。言うね、土浦君。いいんじゃない?」
「だろ?」
「案外、土浦君の告白も捨てたもんじゃないかもね。」
「どうだかな…」
二人は穏やかに音羽が去った方向を見ていた。
2013.12.16. UP
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夢幻泡沫