
Main
いつか一緒に
63
長々としたインタビューが終わった音羽は、帰り支度をして楽屋を出た。
会場を後にしようと歩き出したら、入口の所に人影が見えた。
怪訝に思いながらも歩みを進めると、
「日柳…?」
自身の名前を呼ばれてマジマジと相手を見つめる。
「…土浦君!どうしたの、こんな所で?」
「お前を待っていた。」
「え?」
土浦の言葉に音羽はドキッとする。
「あ、いや…その、日柳と話したくて。」
「私…と?」
「ああ。」
「…それで、ずっと待っていてくれたの?」
「まあな。」
「やだ、寒かったんじゃない?楽屋に来てくれればよかったのに。」
「メンバーで行ったんだが、インタビューなんかで忙しそうでさ。他の連中は先に帰ったんだけどな。」
苦笑いながら言う土浦を見て、音羽も同じ表情を浮かべる。
「荷物かせよ。家まで送ってくぜ。」
「え?あ…いいよ、重いもん。」
「いいから、ホラ。」
「…いつものことながら、ありがとう。」
困ったように笑いながらも荷物を差し出す音羽に、土浦も穏やかな笑顔で受け取った。
「で、話って…なに?」
「ん?ああ…それより、リサイタルよかったぜ。」
「あー…ありがとう。」
「チェンバロを使うなんて面白いこと考えたな。」
「あれは…」
土浦は本題を避けるように色々な話題を音羽に振った。
何とも言い難い雰囲気のままで、2人は音羽の家の前まで来てしまう。
「…ありがとう、土浦君。」
荷物を受け取りながら音羽は躊躇いがちにお礼を言う。
「…ああ。」
「ねえ…『話したい』って言っていたことはいいの?」
窺うように見上げてくる音羽を、土浦はじっと見つめ返す。
「…今日のアンコールの『愛の夢』、すごくよかったぜ。」
「ホント?」
「ああ。あれを聴いた火原先輩が『彼女欲しい』って言ってたな。」
「そうなの?」
クスクス笑って揺れている音羽の肩を土浦は優しく掴んで、彼女の視線を自身に向けさせる。
「…土浦君?」
「俺もそう思った。」
「え…?」
「お前の音楽を聴いていて、俺も自分の気持ちを諦めきれなくなった。」
真っ直ぐに真剣な瞳を向ける土浦に、音羽の顔は赤く色づいてくる。
「もう一度言わせてくれ。俺はお前が好きだよ。」
「土浦君…」
彼が言葉を重ねる度に染まっていく音羽の頬に、穏やかに笑いながらも土浦も期待を隠せない。
「『期待はしていない』とは言ったが、もしお前が俺と同じ気持ちなら…すごく嬉しい。」
「ちょ…待って…」
「日柳、顔が赤いぜ?…あとは俺の思い込みではないことを、ただ祈るだけだな。」
「待って…どうしてそんなに落ち着いているの!?」
俯いていた顔を思わずバッと上げ、音羽は真っ赤な顔で土浦を見る。
「あ…ごめん。そうじゃなくて…」
自身の語気が強くなっていることにはっと気が付き、みるみる言葉が萎んでいきながら彼女は顔を両手で隠す。
そんな音羽を見た土浦は、軽く息を吐いて目を閉じる。
「分かってるさ。」
ぽんと彼女の頭に手を置いて淡く笑う。
「お前がその手のことに疎いのは知っているしな。」
「…ありがとう、土浦君。前は…その、思ってもみなかったことで…ただ…びっくりしちゃったけど、嬉しかったの…」
音羽の言葉に、土浦は悟ったように頭を掻く。
「…だから言ったろ?『期待してない』って。」
「そう…じゃなくて…嬉しかったの、土浦君からの告白が…」
「日柳…?」
「あの日からずっと胸がもやもやして…土浦君のことばっかり考えていて…。『愛の夢』だって…最初に思い描いたのは…土浦君だった…」
感情が溢れ出しているのか、音羽の瞳は潤んでいる。
真っ赤な顔を俯かせたまま、震える声で一言ずつ絞り出すように口にする。
「嬉しかったの…土浦君の言葉が…」
「本当か?」
「うん…」
「…月森じゃなくていいのか?」
「蓮はっ…好きだけど、そういう好きじゃなくて…。幼馴染みだし、家族と言うか…兄妹と言うか…」
「俺の思い込みじゃ…ないんだな?」
「違うよ…私は…土浦君が…」
「好きだぜ、日柳。」
「…私も…」
優しく包み込むように抱き締めながら土浦はそっと囁くように告げる。
その温もりにしがみつくように彼の服を掴みながら、音羽は目を閉じて土浦の胸に寄りかかった。
2013.12.30. UP
← * →
(63/69)
夢幻泡沫