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いつか一緒に
64
「ねえ、この雑誌見た見た!?月森君の特集が組んであるんだよ!」
「ハイ!見ました!!」
音羽達が3年になってから、月森の認知度がじわじわと上がってきた。
今日も火原が雑誌を大きく広げながら話題にする。
音羽がそれに乗って話しているのを、土浦は呆れた様子で眺めていた。
「ん?どうかした、土浦?」
「大学生になってからも、ほぼ毎週高等部に来てますよね…?卒業式でのあの涙は何だったんですか、火原先輩?」
周りが引くほどの号泣で卒業を迎えた火原を思い出し、土浦は冷笑を送る。
「あっ…あれはぁ!!」
顔を真っ赤にして火原は言い訳を重ねるが、土浦は取り合わない。
「とにかく、月森君は向こうでもがんばっているみたいだね。大学でもこの雑誌はすごく話題になっていたよ。」
「そうなんですか?凄いなあ、蓮…」
「凄いって、日柳ちゃんだって今度の夏休みに…」
「えっ?あー…どこからそんな話を…」
急に言葉を濁す音羽に首を傾げながらも、火原は時計を見て慌てた。
「っと、オケ部の時間だ!2人とも、またね。」
「火原先輩、また。」
手をぶんぶん振りながら去っていく火原に、音羽も小さく手を振り返す。
「…さて、俺達も帰るか。」
「ん、そうだね。」
「そう言えば、進路希望の紙が配られたな。」
同じクラスになった2人は、朝のHRで配られたものを思い出す。
「うん。」
「音羽はもちろん音大に行くんだろ?」
「…うん。土浦君は?」
「俺もそのつもりだ。」
恐る恐る窺うように聞いてくる音羽に土浦が即答すると、そっかと安心したように音羽は彼に笑いかけた。
「どこに行くつもりなんだ?」
「…」
「音羽?」
付き合い始めてから名前で呼ばれるようになったことを未だに嬉しく思いながらも、音羽の気持ちは沈んでいく。
土浦と一緒の大学に行きたい。
けれど、それはきっと叶わないだろう。
音羽が行く大学はほぼ決まっているようなものだから。
そして、それは…
「…どうかしたか、音羽?」
俯いたまま話さなくなった音羽を、土浦は気遣わしげに覗き込む。
「あ…うぅん。…土浦君と一緒の大学に行きたいな…って思って。」
「そうだな。」
「土浦君は決まっているの?」
「俺か?いくつか考えてはいるんだけどな…。」
「そっか…」
「ところで、さっき火原先輩が言ってたことだが…夏休みに何かあるのか?」
「あー…うん…」
音羽は口ごもって、また俯いてしまう。
土浦は困ったように彼女の頭に手を置きながら優しく言った。
「無理に言わなくてもいい。だけど、俺はお前のことなら何でも知りたいんだ…」
その言葉に音羽がパッと顔をあげると、土浦の頬は薄く染まっている。
「…ありがとう、土浦君。」
「いや…」
真っ直ぐに見つめてくる音羽の視線から逃れるように横を向きながら、土浦は自身の頬を掻く。
そんな彼を見ながら少し考えた後、音羽はそっと土浦の袖口を引っ張った。
「…家に寄っていかない?話すから…家のこと。」
そう言って笑った音羽の顔はとても寂しそうで、土浦は思わず彼女の手を握った。
「私、着替えてくるね。」
リビングに土浦を通してお茶の用意をした音羽は、2階に上がっていった。
一人残された土浦は、初めて入った音羽の家の中を所在なげに見回す。
すると、飾ってある写真が目についた。
近くまで寄って見ると、小さい頃の音羽や、月森と一緒に写っているもの、リサイタルの時だと思われるものなどがあった。
順々に眺めていると、家族らしき写真も飾られてあった。
何気なしに立ち止まると、
「それ、私のパパとママ。」
着替えた音羽がリビングに戻ってきた。
「若いな。」
「うん、何年か前のだから。」
「俺、リビングにいていいのか?お前の部屋の方がいいんじゃないか?」
家の人が帰ってきたら気まずくなるだろうと考えた土浦は音羽に聞いてみる。
「平気だよ。誰もいないから。」
色々と考えてしまうことをさらりと言った音羽は、固まってしまった土浦のそばに寄った。
「それから、こっちがおじいちゃんとおばあちゃん。」
両親の近くにある写真を指して教える。
「『誰もいない』って…今日のこと、だよな?」
「…うぅん、ずっと。」
「は…?」
「私の両親、5年前に死んじゃったの。それからはおじいちゃん達と一緒だったんだけど、2人も2年前に…ね。」
寂しそうに写真を見ながら言った音羽に、土浦は言葉を失くした。
「私は一人っ子だから、家族って呼べる人はもういなくて…蓮パパと蓮ママは私の両親と仲良かったから、何かあれば頼りにしているけど…」
「音羽…」
「話すこといっぱいあるから…座ろう?」
音羽はそう言ってソファに腰掛けた。
2014.03.06. UP
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夢幻泡沫