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いつか一緒に

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土浦も戸惑いながらも隣に座る。

「えっと、中学までは向こうの学校に行っていたのは知っているよね?」
「ああ…」
「両親の仕事の関係で、3人で向こうに住んでいたの。だけどパパとママは私が中2の時に事故で…ね。その時にはもうコンクールとかリサイタルとかやっていたから…おじいちゃんやおばあちゃんに無理を言って、向こうに住み続けながら活動していたの。2人に来てもらったり、それこそリックもよく様子を見に来てくれたりしたわ。蓮パパや蓮ママも時間を作って寄ってくれたし、長期の休みには蓮もよく来ていたのよ。」

昔を思い出すようにゆっくりと話す音羽は、土浦には儚く見えてしまう。

「そうか…」
「でも、中3の終わりにおじいちゃんとおばあちゃんも死んじゃって…保護者がいなくなったら音楽活動なんて子どもには無理でしょ?丁度高校に入る年だったし、虚無感と言うか虚脱感と言うか…とにかく音楽から逃げるようにして日本に戻ってきたの。」
「それで普通科に入ったのか?」
「うん。両親が死んじゃった時に『日高』から『日柳』に変わったんだけど、音楽活動をしている間は『日高音羽』のままで通していたから。日本では『日柳音羽』でいれば昔の私はバレないと思っていたんだけど…。まさか学内コンクールに出ることになるとは思わなかったし、音楽に戻ることになるとも思わなかったわ。」

苦笑しながらお茶を飲む音羽を、土浦はどう声をかけていいか分からない様子でただ見ている。

「…だから初めの頃はコンクールに出るのを嫌がっていたのか。」
「…自分から逃げ出しちゃったから。でも今は自分で何とかやっていけそうだし、蓮パパや蓮ママも手伝ってくれるし。だから、大学にも行きたいって…」
「で、その大学は?」
「ハープコンクールで入賞以上すれば大学に推薦しよう…ってリックが条件を出してくれたの。少し前に連絡が来て、特待生として受け入れてくれるって学長が言ってくれたらしいわ。」
「…じゃあ…向こうの大学に行くの、か…?」

土浦は呆然としたように音羽を見る。

「…今、考えているのは…だけど、土浦君と同じ大学に行きたいって言うのも本当の気持ちだし…」
「…」
「火原先輩が言っていた夏休みのことだけど…」

急に話題を変えたように感じる土浦は面食らう。

「夏休みにヨーロッパ各地でリサイタルをするの。その時に大学のこともきちんと聞いてくるつもりよ。」
「ちょっと待て。ヨーロッパ各地って…夏休み全部か!?」
「あ…うん。好評だったら伸びるかもって…」
「何で言わなかったんだ?」
「夏休みのことだからまだ早いかなって思って…ごめんなさい。」
「…いや…悪かった。」
「うぅん、気を遣ってくれてありがとう。」

ふわりと笑って見上げてくる音羽の頭を、土浦は優しく撫でる。

「リサイタルするの、いつ決まったんだ?」
「ハープコンクールで優勝した時。もう恒例みたい。」
「そうか。」
「大学のこともそうだけど…私には保護者がいないから、蓮の家族やリックが頼りなの。音楽を続けるにしても先輩だし、小さい頃からの私を知ってくれているし…。」

重い話でごめんね、と音羽は謝る。

「…家の事情はこんなところかな。いろいろ思うところもあるだろうし、土浦君のこれからのことだから…ゆっくり考えて?」
「音羽…」

自身から彼女が離れていってしまうような錯覚を感じた土浦は、ギュっと音羽のことを抱き締めた。


2014.03.20. UP




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夢幻泡沫