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いつか一緒に

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「この弦楽四重奏には日本人留学生の月森蓮君がいまして、地元でもかなり話題を集めている…」

土浦がテレビを見ていると、月森がテレビに出ていた。
留学先で組んだカルテットがクラシック界で注目を浴びているようだ。
相変わらずやってくれるよな…と土浦は思う。
そのままテレビを見ていると、

「続いても音楽の話題です。昨年行われた国際ハープコンクールで史上最年少優勝した日本人の日柳音羽さんが、ヨーロッパでリサイタルを行っています。チケットが入手困難な状況で、開催者側は急遽追加公演を…」

今度は音羽の特集が流れた。
夏休みの少し前から全く会えないでいる土浦は、思わず画面を食い入るように見る。

「あれ?この子、梁太郎の彼女じゃない?」

後ろから急に声を掛けられて、土浦は大きく肩を揺らした。

「…っだよ、姉貴。急に声を掛けてくるなよ。」
「いいじゃない、別に。梁太郎には勿体ないくらい綺麗な子よね。音羽ちゃんだっけ?ハープは世界一で、ピアノもかなりいけるんだって?ホント、梁太郎には勿体ない!」
「うるせーな。」

姉から好き放題言われて、土浦の眉間に盛大に皺が寄る。

「日柳さんと先程話題に上った月森君は共に星奏学院の高等部に通っていて、現地でも時には一緒に練習するようですよ。」

テレビではコメンテーターがあまり聞きたくない情報を話している。
土浦の眉間が更に険しくなったのを、姉は面白そうに見る。

「あらら…梁太郎、大丈夫なの?」
「…何が?」
「別に…?」

姉からの好奇の視線に、大きな溜息を吐く。

「この2人、うちの大学でも有名よ。星奏のアンタの学年、すごいよね。どこの大学に進学するんだろ?」
「…音大って楽しいもんか?姉貴。」
「はあ?何よ…アンタ、音大に行くつもりじゃないの?」

土浦の思ってもみない質問に、今度は姉が眉を顰める。

「いや…まあ…」
「ふーん…まあ、好きにしたらいいんじゃない?梁太郎って大抵のことは何でも器用にこなすけど、そんな風にいちいち難しく考えて…案外、一番大事なところは逃しちゃいそうよね。」

姉の冷静な分析に、土浦の目が大きく見開かれる。

「ま…とにかく、音羽ちゃんを大事にしなさいよ。メールくらい、ちゃんと送ってあげなきゃ。」

ケラケラと笑いながら姉は自分の部屋に戻っていく。
最後まで余計なお世話をした姉に顰め面をしながらも、携帯電話を取りに土浦も自身の部屋に戻っていった。



「ビッグニュースだよ!!」

久しぶりに天羽の声が校舎に響く。

「今度ある大学の学祭に、月森君率いるカルテットが登場!日柳さんも参加決定!」

新聞を張り出す天羽の側を土浦が通ると、彼女はニヤニヤして見てきた。

「…何だよ?」
「よかったねえ、土浦氏。漸く愛しの彼女が戻ってくるじゃない。」
「お前、どこからそんな情報を持ってくるんだ?」
「この天羽さんの情報網を侮っちゃいけませんぜ?」

ニヤリと笑うと、天羽は土浦の背中をバシッと叩く。

「い…ってえ。」
「ホント、やっと音羽に会えるね。私も嬉しいよ。」
「お前は取材をしたいだけだろ?」
「あはっ、バレた?」
「頼むからそっとしておいてやれよ。」
「お〜、守ってあげますねえ。…音羽に会いたいのは本当よ。かれこれ何カ月も会ってないんだから。」

指を折りながら上を見て数える天羽に、土浦も軽く息を吐く。

「そうだな。」
「何だか月森君と仲いいみたいだから、音羽の中では土浦君を振って月森君と付き合ってたりしてね。」
「…ふざけんなよ!?」

握った拳を震わせながら、土浦は天羽を睨む。

「冗談だって!!」
「笑えねえな…」
「とにかく、楽しみだねっ!」

天羽はそう言うと、逃げるように去っていった。
彼女を睨みつけながらも、土浦は心に蟠ったものをふう…と吐き出す。

やっと音羽が戻ってくる。

口の端を引き上げると、土浦は足取りも軽く教室に戻った。


2014.04.10. UP




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夢幻泡沫