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いつか一緒に

07



「只今より星奏学院内音楽コンクールを開催いたします。」
「仲いいね〜、お二人さん。遠目から見てると衣装のせいか、新郎新婦に見えたよ。」

突然後ろからがしっと抱きつかれ、音羽は驚く。
後ろを向けば、ニヤリと笑った天羽がいた。
音羽の肩に手をまわしたまま、彼女の顔を覗き込む。
天羽とは取材の一件の後、なんとなく仲良しになったのだ。

「天羽さん…何言っているの…。それより、どうしてここに?」
「これこれ。関係者ってやつ。」

と、天羽は腕に付けた腕章を見せる。

「舞台裏も取材したいじゃない?なのに金やんが面倒くさがってなかなか許可もらえなくてさぁ。」
「…大変ね。」
「今回のコンクール、月森君はもちろん注目株だけど…土浦君もかなりのモノよ。追加参加者な上に、普通科で運動部ときてるから。みんな本当の実力が気になってしょうがないみたい。」

天羽の情報に、音羽は思わず頷く。
そんな彼女を見て天羽は、もちろんいろんな意味で日柳さんもだけどね…という言葉を心の中でつけ足した。



土浦が弾き始めると、その音色にコンクール参加者も目を瞠る。

「もしかしなくても…相当うまい?」
「う…ん。」

タッチがすごく柔らかく、すごく繊細な音色を奏でる。
見た目が体育会系の彼からは想像できなかった。
音羽が以前聴いた時よりも、はるかに上手くなっているのが分かった。
他の参加者も選ばれるだけあって聴いていて楽しかった。
今回のコンクールの優勝候補と言われている月森の演奏には圧巻の一言だった。
透きとおるような高音…艶のある低音。
様々な表情を見せる安定した音に引きこまれる…
音羽はステージ上の彼を見て優しく目を細めた。

「完璧…だね。」

柚木の言葉は、参加者の気持ちを代弁したものだった。

「月森君の後はやりづらいな…」

火原が思わずといった感じでボソッと言った言葉に、土浦は音羽へ近づく。

「…大丈夫か?」
「どうだろう…ね。」

音羽は曖昧に笑ってギュッと目を閉じた。



「演奏者7番。普通科2年2組、日柳音羽。メンデルスゾーン作曲、『結婚行進曲』。」

アナウンスと共に音羽はステージに歩き出す。
その姿は凛としたオーラが纏っていた。
音羽はお辞儀をすると、ハープを抱える。
そしていつものように瞳を伏せるとおでこをコツンとハープに付けた。

さあ、一緒に楽しみましょう…

単音から始まる音楽。
段々と音が増やされ、華やかな空気が広がる。
決して華美ではなく、どちらかと言えば清らかな雰囲気が会場を包む。

「…この音は…」

月森が驚いたように呟き、ステージに近づいていく。
他のメンバーもステージに歩み寄っていた。

「普通科が…この音を出すのか?」
「何て正確な技術なんだろうね。」

金澤も柚木も驚きを隠さない。

「あいつ…ハープでもこんな音を出すのかよ。」

土浦は呆れたように溜息を吐いた。
音羽の音はあれだけ盛り上がっていた場内を静寂に変えた。
彼女が爪弾く音だけが静かに流れる。
ペダルを踏むたびに揺れるハープが、これからの幸せな未来を目に浮かばせる。

「…正に『ひらかれしもの』だな。これから先が希望に溢れているような演奏だ。技術に関しても高度なテクニックを持っている。何故このような生徒が普通科なのだ…?」

溜息と共に、審査委員長から呟きが漏れる。
この場で結婚式を執り行ったら必ず幸せになれる…
そんな想いを誰もが持つような演奏。
アルペジオをふんだんに散らし微笑みを浮かべたまま、音羽は弾き終えた。
まるで花嫁のような姿の彼女が立ち上がった瞬間、割れんばかりの拍手が会場を包む。
それに応えるようにゆったりとお辞儀をすると、音羽はステージから下がった。



「音羽…なのか?」

ステージ袖に戻った彼女に月森が近づく。
それに少しだけ躊躇った後、音羽は微笑みを浮かべて彼を見た。

「…久しぶり、ね…蓮。」
「今まで何を?」
「うん…色々あって…」

目を伏せてそっと笑った音羽の笑みがとても儚げで、月森は何も言えなくなってしまう。

「…音が変わったようだが…ムーサイには愛されたままだな。」

やっとのことでそれだけ言うと、音羽を軽く抱きしめた。



第一セレクション、審査結果。
1位 月森蓮   『サパテアード』
2位 日柳音羽  『結婚行進曲』
3位 柚木梓馬  『朝』
4位 土浦梁太郎 『パガニーニの主題による変奏曲』
5位 志水桂一  『チェロ協奏曲変ロ長調』
6位 冬海笙子  『ロマンス ト長調』
7位 火原和樹  『双頭の鷲の旗の下に』


2013.04.15. UP




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夢幻泡沫