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いつか一緒に 番外編

 白いピアノ 



音羽の目が前に広がる光景にキラキラと輝く。

白いピアノ!
うわぁ〜、すっごい!!
これって千の仮面を持つ少女のライバルのお嬢様が弾いていたものと同じ?
綺麗〜っ!

でもそれより気になるのは…

「あれ?土浦君、こんなところで弾いていたの?と言うか…なんか物凄ぉく馴染んでないね。」

純白のグランドピアノの前に土浦が座っている光景に、音羽は堪え切れずに吹き出してしまう。

土浦君が白いピアノを弾いているの!?
白いピアノって…
土浦梁太郎…

「…恐ろしい子!」
「そりゃこっちのセリフだっ!!」

わざとらしく手で口を覆いながら芝居がかって言う音羽に、土浦は顔を真っ赤にして怒鳴り返す。

「…知っているの?」
「ああ…姉貴が全巻持ってるんだよ。新刊が出るたびに無理矢理読ませてくるからな…。」
「おそろしい子…!」
「ほっとけ!!しょーがねぇだろ!金やんがせっかくグランドピアノがあるなら使えってゆーからさ!!」

クスクスと笑う音羽に、恥ずかしさを隠すように土浦は一気にまくし立てた。



「で?何か用だったのか?」
「ごめんなさい、練習中に。実はね、聴きたいCDがこの部屋にあるって聞いたから。」
「CD…?ああ、あれか?」

壁際に収納されているCDの束を土浦は見る。

「すっげえ数のCDだな。」
「うん。教典や楽譜もたくさんあるし。冬海ちゃんってお嬢様なんだなぁ。それに、お嬢様にはやっぱり白いピアノよね!」

うっとりとピアノを眺める音羽を、土浦は呆れるように見る。

「外の色なんてどうでもいいだろ?どんな音色を出すかのほうが大切だろ。」
「そうかもしれないけど!白いピアノは女の子の憧れよ!!」
「…そんなもんなのか?そう言えば、日柳…ハープでもあんな音が出せるんだな?」
「え?」
「第一セレの話だよ。ピアノの音にも驚いたが、第一セレはその時以上に驚いたぜ。それに…」

土浦は音羽をじぃっと見て少し戸惑うように聞いてきた。

「月森とは知り合いだったのか?」
「うん、小さい頃からの知り合い…かな?」
「『かな?』って何だよ、それ。驚いたぜ、あの月森がお前のことを…抱きしめるんだからな…」

言いにくそうに視線を逸らして土浦はもごもごと言う。

…あれは私も驚いた。
蓮はそんなことしないと思っていたから。

月森の取った行動がいまいちよく掴めずに、音羽は曖昧に笑ってごまかす。

「あー…久しぶりに会ったから…じゃない?」
「まあ、いいか。それより日柳、弾き比べしようぜ?」
「…弾き比べ?」
「おう。同じ曲を弾いて、聴き合おうぜ?」

ニヤリと笑って土浦は本棚へ移動した。
指で背表紙を追いながら楽譜を探し出す。

「これなんかどうだ?」
「…『マゼッパ』?また難しいものを…」
「弾けるだろ?」
「一応は…でも暗譜は無理だし、完璧には弾けないよ?」
「コンクールじゃないんだから、完璧なんて期待していないさ。日柳のマゼッパを聴きたいだけだ。譜捲りなら俺がしてやるよ。」

音羽の答えに土浦は満足気に頷く。

「じゃあ俺からな。」
「土浦君は暗譜済み?」
「一応は。」
「やったぁ!それなら私は聴くことに専念しよう。」

土浦が弾き出すと、音羽は近くにあった椅子に腰かけて聴いた。



相変わらず、繊細ながらもスケールが大きく柔らかいタッチで彼は弾く。

「あいつ、こんなのも弾けんのか?」

不意に後ろから声がして音羽は肩を大きく揺らした。
いつの間にか土浦が弾いている音に、弾く姿に惹き込まれてしまっていたらしい。

「悪い悪い、驚かす気はなかったんだが…。マゼッパが聴こえてきて。つい、な。」

後ろを振り返ると金澤が手を上げながら近づいてきた。
音羽の隣にあった椅子に腰かけると、真剣な目で土浦を見る。

「土浦君、上手ですよね。聴いていて落ち着くと言うか…」
「落ち着く、ねえ…。解釈の仕方が似ているのかもな、お前さん達。」
「そうですか?土浦君と私とじゃ全然違う気がしますが…」

土浦を見ながら音羽は首を傾げる。
けれど、答えを求めようとはしなかった。
今は土浦の音を聴きたい。
金澤もそれは同じだったらしく、2人は黙って土浦の音に耳を傾けた。



「…何で集まってるんだよ。」

弾き終わった土浦は少しぎょっとしたように音羽達を見る。
いつの間にか彼のピアノの音を聴き付けてみんなが集まってきた。

「土浦〜、よかったよ!ミニコンサートみたいだった。」
「大袈裟ですって、火原先輩。ほら、日柳の番だぜ。」
「えっ!?日柳ちゃん、ピアノ弾けるの?」

土浦と入れ替わるように立ち上がった音羽を見て、火原が驚きを口にする。

「こいつのピアノ、凄いんですよ。」
「…土浦君、余計なことを言わないで。」

音羽はピアノに向き合うと椅子とペダルを確認した。

「何と言うか、まあ…よく似合ってるな。お前さんと違って。」
「ほっといてください!!」

前髪をポンパドールにしただけの音羽は、まるで絵画から出てきたようだ。
普段着なのに白いピアノとマッチしていて、外国の日常風景を切り取ったかのように見える。
音羽がパラパラと楽譜を捲りながら音を復習っていると、月森が徐に立ち上がった。

「俺が譜捲りをやろう。」
「土浦君がやってくれるって言っていたんだけど。」
「月森がするなら、俺は聴いていたい。」
「ん〜、それなら蓮に頼もうかな。ありがとう、蓮。」

音羽の言葉に頷くと近くにあった椅子を持ちながら、月森がピアノに近づく。
彼が鍵盤と楽譜が見える位置に座ると、音羽は弾き始めた。
その音に、驚きの声が次々と漏れる。

「…何だよ、この音は…」
「暗譜してないでこれかよ…」

金澤と土浦が口を開けたまま音羽を見やる。

「手が…波の様ですね…」
「惹き込まれてしまいます…」

1年の2人は珍しく前のめりになって彼女の指先を食い入るようにみつめた。

「同じ曲とは思えないな。」
「個性があって音楽的で、リサイタルをしたら受けそうなタイプだよね。」

火原が素直に感じたことを述べれば、柚木も目を見開いて音羽を見る。
鍵盤の上をところ狭しと動く音羽の指から可憐な音が紡ぎだされる。

「土浦の音も柔らかいと思ったけど…日柳の柔らかさは半端ないな。」

金澤が目を細めながら音羽を見る。

「あいつは何者だよ…」

それぞれの感想を聞きながら、月森はふっと笑う。
そして静かに音羽を見守るように視線を送った。



彼の知っている以前の彼女の音とは明らかに違う。
それでも女神に愛されていることを物語る音を、音羽は奏でていた。


2013.04.22. UP



『いつか一緒に』合宿中の小話。

白いピアノ+お嬢様=姫川亜○
夢沫の軽い頭の中の単純な図式。
冒頭のやり取りをさせたかっただけです。
○弓さんは夢沫の憧れの女性なんですよー!!




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夢幻泡沫