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花は輝き月は笑む

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桃姫様、起きて下さいませ。

遠慮がちな声が桃花を眠りから浅く引き上げる。

…変な夢を見た。
戦国時代にトリップして、居眠りをしていたらお姫様と間違えられ。
真田幸村と猿飛佐助に出会って、拾われて。
上田城では武田信玄と対面した。
そこでこの城に住めと言われ、武田信玄の娘として扱われ。
やけにリアルな夢だった。
自然の匂い。
猿飛佐助からのプレッシャー。
乗馬でのお尻にくる痛さ。
床板の感触。
状況を理解した時の絶望感。
真田幸村と武田信玄の優しい待遇。
生きていけると分かっての安心感。
そう言えば、桃姫って猿飛佐助から呼ばれたっけ。

クスリと笑ってまた眠りにつこうと桃花は意識を手離しかけた。

「桃姫様、起きて下さいませ。桃姫様。」
「…んぅ…」
「桃姫様、朝にございます。」
「んー…」

なぜ『桃姫』と言う単語が聞こえてくるのか分からなかったが、桃花はモソモソと寝返りを打ってその声がする方に背を向けた。

「桃姫ちゃん、起きたぁ?」
「それがまだ…」
「え、まだ!?困ったお姫さんだこと。桃姫ちゃん、起きて〜!朝餉の支度が終わっちゃうよ!!」
「…やぁ…寝る…」
「やぁ…って、そんな声出して…何?誘ってるの?俺様に色仕掛けは通用しないよ?あっ、でもそのお誘いは受けちゃおうかなぁ?」
「…んぅ…うるさい…」
「うるさいって…辛辣だね…。いいから、ほら!早く起きてって!!」
「…あと5分…」
「…胡粉って…寝ぼけてる?大将と旦那が一緒に食べるって言ってるよ?」

急かしに来た男性の『大将』、『旦那』と聞き覚えのある単語が耳に入る。
ぼぉっと霞む目をうっすらと開ければ、イケメンが呆れたように覗き込んでいた。

「…あー…佐助、さん?」
「やっと起きた?おはよう。」
「…おはよう…ございます…」

挨拶を返してから周りを見渡してみるが、見慣れた桃花の部屋ではなかった。
と言うことは…

「…夢、じゃなかった…のね。」
「へ?夢?何か夢でも見てたの?早く布団から出ておいで。俺様は外で待ってるから、これに着替えて。」
「綺麗な着物ですねぇ…」

まだ覚醒しきってないのか、桃花は半身を起して渡された着物を撫でている。

「それ、桃姫ちゃんが着るんだからね?」
「私が?でも…」
「ここにいる咲に着替えさせてもらって。桃姫ちゃん付きの侍女だよ。」
「そんな大袈裟な…」
「咲にございます。」

畏まって手を床につく咲は、桃花より幾分か年上に見える。
桃花は慌てて布団から降りると、同じように咲に頭を下げた。

「咲さんですね?桃花と申します。すみません、どうぞ宜しくお願いします。」
「桃姫様っ!?頭をお上げ下さいませ!!」
「桃姫ちゃん、いいから早く着替えて!旦那を待たせるの、すっごく大変なんだからっ!!」

そう言うと、佐助はさっさと部屋を出ていった。
咲はそれを合図にテキパキと桃花に着付けていく。
いくらも経たないうちに、前日とは違う打掛姿に桃花は変身した。


2014.03.31. UP




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夢幻泡沫