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花は輝き月は笑む
18
「Hey, 小十郎。真田幸村はいたか?」
「いえ。まだ出てきてはおらぬようです。」
「ちっ!あいつはどこに隠れていやがるんだ!?」
自ら先頭に立ち、踊るように刀を振るっている青年の顔がつまらなさそうに歪む。
「あいつと戦うためにわざわざ上田くんだりまで来てやったのに!」
「政宗様、お控え下さりませ。」
「It's boring!こうなったら手当たり次第押さえちまえ。この城を奪い取って虎のおっさんと腹の探り合いをしてやろうじゃねえか。」
「御意。」
「梵〜、落ち着きなよ。」
「てめぇに言われたかねえよ、成。向かってくる敵、全て相手してやってんだろ?」
「そう、もう手応えがなさ過ぎて。それにしてもこの城、女の子がいないよねー。そんな生活の何が楽しいんだか…。」
飄々と答える従弟に、青年とその腹心が眉を顰めた。
「…Ah〜、あいつは面白ぇぐらいに初心だからな。」
「敵ながら猿飛には同情致します…」
深く息を履き出した右目に、青年も肩を竦める。
戦の最中だというのに世間話ができる余裕を見せながら奥へと進んでいく伊達の勢いに対し、真田の兵は歯噛みをしながらも防戦一方になってしまっている。
閉じられている障子戸や襖を次々と乱雑に開け放っていた彼等の目に、戦では見ることのない色彩が不意に飛び込んできた。
「…っ!お下がりください、姫様!!」
「あ…」
くの一にさっと庇われて立ち止まった女に、目を奪われる。
走っていたのであろう、はあはあと息が乱れているが…
手入れの行き届いた艶やかな髪。
白粉を塗っているかと思う程の肌。
淡く彩られた唇。
零れ落ちるような大きな瞳。
どこか夢幻のような雰囲気。
無意識にひゅうと唇が鳴らされ、弧が描かれる。
「ほう…美しいじゃねえか。アンタ、真田幸村の奥方殿か?あいつ、いつの間にこんな見目のいい女を娶ったんだ?」
「黙れっ!!」
「止めとけ。女にやられるような俺じゃねえよ。それにな、女子供に手出しはしねえ。」
「愚弄するなっ!!」
咆える咲に目もくれず、青年はひたすら桃花を見ていた。
桃花の瞳も縫い取られたかのように彼に注がれる。
何て綺麗な人…。
男の人なのに『美人』と言う言葉がしっくりくる。
ここの人達はどうして揃いも揃って美形なんだろうか?
いやいや、それは置いといて…
この人…何で刀を六本も差しているの?
それ以外は割とまともな武具。
鋭い三日月の鍬形がついた兜。
射抜くような左目。
右目には眼帯。
竹に雀の旗印。
まさか、この人は…
「…独…眼、竜…」
「Oh, 俺を知っているのか?光栄だねぇ。」
「何…で…」
「姫様っ!!早く奥へ!!」
「無駄な抵抗は止せ。手荒なまねはしねえ、大人しく武器を置くことだ。」
「馬鹿を申すな!!」
「てめえ!政宗様になんて口の聞き様だ!!」
刀を構えながら主の前に出てきた青年が、眼光鋭く咲を睨む。
「咲さんっ!止めて下さい!!」
「…姫様っ!?」
「武器を、下ろして…下さい。」
「何を仰るのです!?」
「怪我、してほしくないんです。…死んでほしくない。ごめんなさい…でも咲さん、お願いします。」
あなた達も、と体を張って守る侍女達にも桃花は震える声をかける。
言う事を聞かない足を叱咤激励して咲の前に出ると、ギュッと打掛を握りしめた。
「…抵抗は致しません。ですから、咲さん達の身の保証をお願い致します。」
「姫様!?」
「Okay, 約束するぜ。だが、アンタは預からせてもらう。おい、この女達を連れてけ。」
了解ですぜ、筆頭!
傍にいた伊達兵が、激しく体を捩って抵抗する咲と侍女を連れていく。
姫様、姫様!!と振り返りながら呼ぶ声に、桃花は両手を口に添えた。
周りの音に消されないように、これまでの親切の礼が届くように…。
「咲さんっ、お世話になりました。ありがとうございます。」
「姫様!お気をしっかりとお持ち下さい!!幸村様を信じて下さいませ!!」
「咲さんも、お身体を大切に!」
「Ah〜…殺しはしねえ、安心しな。」
まるで今生の別れのようなやり取りに、青年は頭に後ろ手を当てて呆れるように言う。
「…お願い致します。」
「成、このkittyに付いてろ。勝手に動き回るんじゃねえぞ?」
「了解。」
「小十郎は俺についてこい。やっとご登場のようだぜ?」
遠くから己の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
待ち望んだ獲物に口の端を釣り上げると、若き竜は走り出した。
「…姫様、無為なことはお考え無きように。成実…」
「分かってるって。梵、行っちゃったよ?小十郎も早く行けば?」
真田幸村〜!!と城主の名を叫んで走る主に溜息をつくと、桃花に一礼をして彼も走り出す。
「さ、姫様。俺達はこの部屋にいようか?変なこと考えないでくれれば、俺も何にもしないからさ。」
独眼竜に似た従弟は近くの部屋に入り、笑いながら桃花を招き入れた。
「…あなたは…『武の成実』、様?」
「へえー、俺のことも知ってるんだ。」
「先程の人は…『智の景綱』様…」
「…ふうん。」
伊達の双璧が揃っている。
何てこと…
へたりと座り込んで己の身体を掻き抱く桃花を、成実は面白そうに眺めていた。
2014.06.09. UP
作品中に出てくる外国語は、某翻訳サイトのものをそのまま引っ張ってきました。
オンマウスで、日本語が出てきます。
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夢幻泡沫