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花は輝き月は笑む

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「Hey, 猿か。こんなところで何をしている?」
「あらぁ?竜の旦那自ら、桃姫ちゃんのためにお茶を運んでくれるの?」
「猿飛っ!調子に乗るんじゃねえ!!」
「構わねえ。遠路ご苦労だったな、猿。真田幸村は中にいるのか?」
「いるけど…今は入れないよ。」

すっと目を細めて牽制する佐助に、政宗の後ろにいた小十郎達が主を守るように前に出てくる。
互いの出方を窺うように鋭くとばされた視線が容赦なく相手にささった。
それも束の間。
ふっと眼を細めた佐助は両掌を軽く伊達方に向けて、苦笑しながら呆れたように言葉を放った。

「やだなぁ、右目の旦那方。同盟国のご当主様に手を出す馬鹿なんてそうそういないでしょ?俺様だって同じだよ。」
「…ならば、そこを退くんだな。」
「だから今は無理って言ってるでしょ?少しぐらい待ってよ。」
「でもさ、折角入れた茶が冷めちゃうし?」
「丁度いいんじゃない?桃姫ちゃん、猫舌だから。」
「へ〜、そうなんだ。」

楽しそうに笑う成実に、佐助も同じく返す。
そんな二人のやり取りに小十郎は短く舌打ちをする。

「成実、そんな奴を相手にするな。馬鹿がうつるぞ。」
「ちょっ!右目の旦那ってば酷い!!」
「うるせえ!猿飛もいい加減に其処を退きやがれ!」
「小十郎、calm down. しょうがねえだろ、甲斐の虎の宝を貰うんだからよ。どんだけの宝が出てくるか、大人しく焦らされようぜ。」
「政宗様っ!」
「…政宗殿か?」

声を荒げた小十郎が呼んだ名に気づいたのか、閉ざされた向こうから静かな声が聞こえてきた。

「ああ、真田。アンタんとこの忍びに足止めされてるんだが、そろそろ入ってもいいか?」
「…そうでござるな。お入り下され。」

その言葉にスパンと襖を開けると、中の様子を一瞥する。
部屋の中程に幸村が座っていた。
その隣に、明日には我が妻となる桃花が俯いている。
一見して寄り添うように見える光景に、政宗の胸の内がチリリと焦げる。

「Hey, 真田。道中ご苦労だったな。」
「なんの。桃殿を無事にお送りすることは、此度の某の務めゆえ。」
「その送り役が人の正室に横恋慕とは冗談が過ぎるぜ?」
「なっ!?何を申されるのでござるか!よっ、横恋慕など…政宗殿はいつも破廉恥でござるっ!!」
「…おい、『いつも』とは聞き捨てならねえな。なら、何してたんだよ?」
「真田の旦那は桃姫ちゃんを励ましていただけだよね〜?」
「う、うむ。」
「まあ、いい。桃、come here.」

顔を赤くして抗議する幸村にハンと鼻をならすと、手慣れたように先程まで桃花が座っていた場所へ移動した。
当然のようにドカリと座り、桃花に来いと己の隣を扇で指す。

Kittyは賢い。
まだ契りを交わしていない俺となら立場は同じ、と考えているはず。
それなら横に座らせば、俺の意図を読めるだろう?
なあ、kitty.
アンタは俺の正室になるんだ。
他の男なんか目に入れさせないぜ?

彼女がどのような行動をとるのか面白そうに目を細める政宗に、桃花は困惑した視線を指された場所に向けた。

伊達と武田。
同盟を結んだ言わば両者の代表は、この場では伊達様と私…のはず。
婚儀を執り行っていない今は同等の立場。
伊達様はそう考えているのだろう。
だけど…夫となる人と同じ高さにいるなど、この時代の人達は受け入れるのかしら?
ましてや伊達様は奥州を統べる存在なのに。
いくら本人が言ったからといって、あの場所へ行ってもいいのだろうか?

動けないでいる桃花に、小十郎が口添えする。

「桃姫様、政宗様は傍へ来いと仰せでございます。」
「…はい。」

チラリと幸村を見れば、大丈夫だと頷かれる。
桃花はゆっくりと指された場所に座った。

「よく無事に辿り着いた。小十郎から聞いたが、気分はどうだ?」
「…だいぶ良くなりました。申し訳ありません。」
「いや、気にしなくていい。茶を持ってきた…まあ、温くなっていそうだがな。」

手ずから己の前に置く政宗に、桃花はひれ伏す。

「…ありがとうございます。」
「Hey, kitty. 堅苦しいのは御免だぜ?」
「竜の旦那、桃姫ちゃんは緊張してるんだよ。アンタなんだから、それくらい分かるでしょ?ついでに言うと桃姫ちゃん、足が悪いんだよね。横座も長くはできないから、常に楽な姿勢でいるの許してくれない?出来れば床几も用意してくれると嬉しいんだけど。」
Are they the truth?
「…あの…」
「ああ、悪い。猿が言ったことは本当か?」
「猿?あ…はい。」

視線を軽く佐助に向けて、桃花は肯定する。

「竜の旦那…さっきから猿、猿って!俺様、猿じゃないからねっ!桃姫ちゃんも『猿』で通じなくていいからっ!!」
「佐助、うるさいぞ。政宗殿、佐助が申したことは真でござる。是非とも配慮願いたい。」
「All right. 床几は直ぐに用意させる。桃も楽な姿勢を取れ。」
「…ありがとうございます。」

礼を述べる桃花を満足そうに見てから、政宗は話題を変えるように左側に座る小十郎達を見た。


2014.07.21. UP




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夢幻泡沫