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花は輝き月は笑む

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「紹介する。伊達藤五郎成実、片倉小十郎景綱、鬼庭綱元、俺の重臣だ。何かと顔を合わせることもあるだろうから、覚えておけ。」

呼ばれた順に頭を下げる彼等に、桃花も会釈で返す。

伊達三傑が目の前に揃っている。
何と言うか、壮観だなぁ。

頭の中でどこかのんびりと考えている桃花に、更に紹介された人物がいた。

「一番奥に控えているのが、喜多だ。小十郎と綱元の義姉にあたる。桃付きの侍女頭を務めるから、何でも相談しろ。」
「喜多にございます。桃姫様におかれましては無事のご到着、祝着至極に存じ上げます。」

片倉小十郎と鬼庭綱元のお姉さん…
って、あの喜多!?
幼い頃にテレビで見たあの女傑の人!?
うわっ、私の侍女頭にそんな人が!?
そもそも侍女なんていらないんだけどっ!!

目を大きくした桃花は、慌てて手を膝の前に合わせる。

「…桃と申します。よろしくお願い致します、喜多様。」
「まあ、桃姫様!私に『様』など必要ありませんわ。頭を下げられるような身分でもございません。」
「え…でも…」
「どうぞ喜多とお呼びくださいませ。」
「あ〜、お喜多さん。桃姫ちゃんは年上の人や目上の人に対しては誰にでも敬称を付けるよ。忍びの俺様にだって、『さん』を付けてるぐらいなんだから。」

ポリポリと頬を掻きながら、佐助が苦笑しながら助け船を出す。

「桃姫様。差し出がましい事を申しますが、この世には道理というものがございます。身分の高い者が下の者を呼ぶ時に敬称を付けるなど、おかしいことこの上ありません。立ち居振る舞いも同様でございます。どうぞ喜多とお呼びくださいませ。」
「…喜多さん…で勘弁していただけませんか?身分の上下と言われますけど、そんなものを取り払ってしまえば同じ人間です。一人一人が大事にされるべき存在です。それに年上の人と目上の人は、それだけで尊敬に値する…と、教わってきたので…すみませんが…」

段々と尻すぼみになっていく桃花の言葉に、伊達方は驚いて彼女を見る。
そんな考えは聞いたことがなかった。
今の日の本では身分は生まれつきのもので、余程のことがない限り親と同じような人生を送ることが当然とされている。
下がることはあっても上がることなど滅多にないのが、身分と言うものなのではないのか。

「…Han, 誰に教わったのかは知らねえが…面白いことを言う奴もいるもんだな。確かに、身分など取っ払っちまえばただの人間だ。喜多、『様』がつかなかっただけ良しとしな。」
「政宗様!ですが…」
「それが桃の中での精一杯の妥協なんだろう?喜多は桃に付くんだ。主の言うことは聞くもんだぜ、you see?」
「…畏まりました。」
「Okay. しっかりと虎の子を竜の宝珠に変えてくれよ?おい真田、アンタの部屋も用意してある。俺が案内してやるから付いてこい。ああ、ついでに猿も来いよ。」
「だからっ!俺様、猿じゃないしっ!!」

佐助からの再三の抗議を右から左に流し、政宗は部屋を後にする。
伊達三傑も桃花に一礼すると部屋を出た。

「…桃殿。ではまた、明日の宴の時に。」
「…はい。幸村様も佐助さんもこちらまでついてきて下さって、本当にありがとうございました。」
「そんなの桃姫ちゃんが礼を言うことじゃないでしょ?とにかく、今日はゆっくり休むんだよ?」

幸村と佐助も穏やかな顔で部屋を後にした。
残ったのは、桃花と喜多。

「…あの、喜多さん。」
「何でございましょうか?」
「…我が儘を通してしまい、申し訳ありません。でも喜多さんは年上ですし、これから色々と教わりますし…どうしても呼び捨てはできなくて…」

眉を下げて謝る桃花に、喜多は目を大きくする。
けれど直ぐにカラカラと笑うと、大きくなったそれをニッコリと細めた。

「まあ、お気になさらないで下さいませ。桃姫様のことを小十郎や成実殿から聞いて、お会いできるのを楽しみにしておりましたのよ。どうぞ宜しくお願い致しますね。」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。私、本当に何も分からなくて…」
「それも政宗様や小十郎等から聞いております。一つ一つお教えして参りますので、ご心配なされますな。」
「…ありがとうございます。」

漸くうっすらと笑った桃花に、さっそく喜多は一服するように促した。


2014.07.28. UP




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夢幻泡沫