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花は輝き月は笑む

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流石は筆頭!お目が高うございます!!
随分とお綺麗な姫御前(ひめごぜ)でいらっしゃいますな。
浅井のところなんぞ何のその、この日の本随一の美男美女に違いありませんぞ!

政宗が無礼講だと口火を切って始まった宴のあちこちで、上段に座る当主夫妻を誉めちぎる声が聞こえてくる。
鮮やかな青の直垂を纏う政宗は上機嫌に酒を飲み、自ら家臣等にも振舞っていた。
その姿を視界の端で見ている桃花の口から、緩く息が洩れる。
固めの杯を交わした際に正面から目に入った彼の姿は秀逸だった。
しっかりと整えられた髪や衣装。
すらりとした姿勢に優雅な立ち居振る舞い。
それらを引き締めるように鈍く光る金属製の眼帯。
言葉に表すのが陳腐なぐらい、格好良かったのだ。
思わずポカンと魅入ってしまった桃花に、政宗は彼女の視線をしっかり受け止めながらフッと口角を上げてみせた。
その不遜な態度も彼の見目麗しさに拍車をかけるだけで、熱を持つ頬を自覚しながら俯くしかできなかった。
思い出してしまえば、頬に朱が差す。
隠すように顔を下げた桃花に、佐助がこっそりと声を掛けてきた。

「桃姫ちゃん、どうかした?」
「…何でもありません。」
「そう?具合でも悪くなった?」
「いいえ、平気ですよ。」

右側の最前に、幸村と佐助の席は設けられていた。
慣例に則るならば一番下座のはずなのだが、そこは政宗が伊達男と言われる所以を如何なく発揮した。

同盟ならば俺と信玄公は同列だろう?
加えて言うならば、桃の親父なんだから俺の義父にもなる。
その名代を下座に置くなんて伊達の名が廃るぜ、you see?

と、鶴の一声で桃花の横に幸村達の席を設置してしまった。
それを宴の前に衣装を整えてもらう時に喜多から教えてもらい、桃花の心は少し軽くなった。
政宗の心配りをありがたく思い、彼と暮らすのも悪くないかも…と奥州での暮らしがほんの少しだけ楽しみになったのだ。

「旦那ってば竜の旦那にからかわれたからって、何も飲み比べを始めなくてもいいと思わない?」

呆れたような佐助の声に彼の視線の先を見る。
そこにはこれまた鮮やかな赤の直垂を着た幸村が、政宗の正面に座りこんで盃を空けていた。
彼も奥州筆頭に負けず劣らずの秀麗さを惜しみなく見せつけていた。
その若い二人が対峙して杯を重ね、周りからは蒼紅の対決を囃し立てるような声。
先の戦とは全く異なる雰囲気は、差し詰め男子学生のサークルの飲み会と言ったところだろうか。

「…私が言うのもなんですけど、婚儀の宴ってもっと厳かなものではないんですか?」
「あは〜、俺様もそう思う。」

眉間に皺を寄せて止めようとしている小十郎と違って、佐助は近づこうともしない。
見ようによってはやけっぱちになって、目の前にある慶事の膳に箸を伸ばしていた。

「…お疲れ様です、佐助さん。」
「ありがとう、桃姫ちゃん。俺様の苦労が分かってくれるの、桃姫ちゃんだけだよ。」
「それだけ、父上にも幸村様にも信頼されているってことです。」
「…桃姫ちゃんがいなくなったらさ、上田での生活は桃姫ちゃんが来る以前に戻るでしょ?あの頃はそれが当たり前だったのに、今は帰ると物足りないなって…きっと思っちゃうんだろうね。」

苦笑う佐助がボソリといった言葉に、桃花も胸が苦しくなる。

大丈夫、きっと奥州でやっていける。
庇護してくれる人が幸村様から伊達様に変わっただけ。
私はこの世界で生きていける…。

「…そう言ってくれて嬉しいです。」

桃花はにっこりと笑った。
けれど、それを見た佐助の顔は歪んだ。


2014.08.11. UP




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夢幻泡沫