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花は輝き月は笑む

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喜多を先頭に、侍女達は代わるがわる酒の入った徳利を運ぶ。
そのスピードに負けず、武将達は次々と徳利を空ける。

「Hey, 真田!もう終わりか?」
「何の!これからでござる!!」
「そうこなくっちゃよ!Partyはこれからだぜ!!」

片付けが間に合わず、傍らに転がる徳利は片手には収まらない。
それなのに政宗と幸村は平然と酌をしあって杯を重ねる。

「政宗様、今宵の宴の主役がそのようなことで如何するのですか?」
「そうだよ、梵。梵には大事な役目がまだ残っているでしょ!?」
「Ah!?こんなもんで使えなくなるような俺じゃねえよ!」
「政宗様っ!!」
「竜の旦那ってば!?何てことを桃姫ちゃんに聞かせるのさ!!」

慌てて政宗の杯を取りあげる小十郎に、桃花の耳を塞ぐ佐助。
桃花は何のことだかよく分からずに小首を傾げて佐助を見上げた。

「…何でもないよ、桃姫ちゃんっ!」
「佐助ぇ!破廉恥であるぞっ!!桃殿から離れよっ!!」
「破廉恥なのは竜の旦那でしょっ!?これは不可抗力だからっ!!」
「おい猿、手ぇ放せよ!」
「お願いだから、桃姫ちゃんを穢さないでっ!!」
「Han!仕込み甲斐がありそうだぜ!」

耳を塞がれていても、近くで大きな声を出されれば聞こえてしまう。
ニヤリと笑いながら見てくる政宗に、漸く合点のいった桃花は途端に顔を赤くする。
この人は公衆の面前で何と言うことを…
口をパクパクさせるも声の出せない彼女を、小十郎や佐助は憐れんだ。

「桃姫ちゃん、落ち着いて!大丈夫だから落ち着いて!竜の旦那が言ったことは気にしなくていいからっ!!」
「桃姫様、この件に関しましては猿飛の言う通りでございます。政宗様にはこの小十郎が後程きっちりと話を致します故、この場はどうぞ…」
「…や…あの…」
「Hey, kitty. Pleasure is taken behind. 好い思いさせてやるぜ?」
「政宗様っ!いい加減になさいませ!!」
「いいではありませんか。政宗様が御正室様をお迎えになられた目出度き日ですもの。少しぐらい大目に見て差し上げればいかがです、片倉様?」

小十郎の目つきが一層険しくなり全身に帯電を始めた時、後ろから楽しむような声が掛かった。

「うるせぇ!女が気安く話しかけて…」
「女じゃなければいいのですか?」

この場にいる女性は桃花と侍女だけ。
そう思い込んでいた小十郎は、振り返った先にいる艶やかな打掛姿に目を見開いた。

「…これは猫殿。無礼の段、お許しを。」
「…猫。アンタが何でここにいるんだ?」
「本日は伊達にとって実に喜ばしい日でございます。私も共に祝いとうございますれば。」

一気に熱が冷めるとは、このこと。
政宗寵愛の側室の登場に、宴の場は波を打ったように静まり返った。
各々が席に戻る中で、猫と呼ばれた女性は上段の二人の前に傅く。

「御方様、此度は誠におめでとうございます。」
「…ありがとうございます。」

にっこりと笑う猫に、桃花の心臓がドクンと跳ねる。

…知っている。
猫御前と呼ばれるこの人のことを。
もちろんそこまで詳しくはないが、飯坂某の娘で…伊達政宗の側室だった人。
確か子供も何人か産んでいたはず。
やだ…もしかして大奥バリの女の戦いをしなくちゃいけない、とか?
いくら女子校育ちでも、そんなのは御免だし。
と言うか、あの学校…世間ではお嬢様学校と言われていて、イジメとか派閥争いとかなかったんだよね。
まあ、女の集団だったから裏表はあったけど。
…穏やかに過ごしたいなぁ。

「飯坂宗康の娘、ときと申します。政宗様の側室として、このお城に上がらせてもらっております。政宗様をはじめ皆様には『猫』と呼ばれておりますので、御方様もどうぞそのようにお呼び下さいませ。」
「…猫様、ですね。桃と申します。どうぞよろしくお願い致します。」
「猫、で結構にございます。丁寧なご挨拶、痛み入りますわ。」

猫は余裕からか、コロコロと笑う。

「…猫、今日は部屋に居ろと言っといたはずだが?」
「はい。ですが、やはり私もお祝いを致しとうて参りました。」

苦虫を噛み潰したような顔の政宗にも猫は動じない。
連れてきた侍女から徳利を受け取ると、桃花に差し向けて腰を浮かした。


2014.08.18. UP




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夢幻泡沫