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花は輝き月は笑む
30
…懐かしい夢を見た。
そう、この時から耐えるしかないって諦めたんだ。
ストレスを溜めないなんて無理だったから、何度も発作を起こしてしまったけれど。
ここまで大きなものは何年振りだろう?
…きっと環境の変化のせい。
異なる世界に来た。
何もかも違う生活を送った。
戦を体験した。
結婚なんてものまでしてしまった。
元の世界では考えられないことばかり。
その上、精神的にも色々とあったし…。
はあ…迷惑かけちゃったなぁ。
心臓の痛みは消えていないが、弱まっている。
浮上する意識の中で止め処なく思うのは、マイナスのことばかり。
…結局、毒は飲まされたのだろうか?
どっちにしろ、そう言う話が出るだけで怖い。
伊達では私の味方になってくれる人は誰もいないの?
私は…ここにいてもいいの?
うっすらと滲む涙を零すまいと、桃花は瞼を持ち上げた。
「…桃殿っ!!気付かれましたか!?」
第一声が勢いよく耳に飛び込んできた。
「…」
「桃殿、某がお分かりでござるか!?」
「…幸、村様…」
「そうでござる!心の臓はいかがでござろうか?大事ありませぬか?」
「はい…迷惑を掛けてしまい、すみませんでした。」
「そんなことござらん!桃殿が悪いわけでもあり申さん!目が覚められてようござった。」
心底安心したように涙ぐみながら、幸村は破顔した顔を桃花に向ける。
起き上がろうとする彼女を制して肩に夜着を掛け直すと、襖の向こうに佐助ぇ!!と怒鳴った。
「旦那、そんな大声出しちゃ…桃姫ちゃん、気付いたの!?」
「ええ。」
「気分はどう?心の臓はまだ痛い?」
「まだ少し痛みますけど、だいぶ和らぎました。お薬、ありがとうございました。あの…私、どれくらい寝ていましたか?」
「たぶん二日ぐらい。薬飲んだ後はずっと旦那にしがみついていて、気付いたら意識を失っていたから。」
「えっ…幸村様、すみません…」
「お気になさらず。まことに安心したでござる。」
しがみついたまま意識を失ったなんて…
恥ずかしさで謝る声も小さくなってしまう。
「桃姫ちゃん、喉渇いてない?お腹は?空いているんじゃない?」
「渇いています。お腹も空いています。」
「じゃあ俺様、用意して…」
「あ…の、その前に…同盟はどうなりましたか?」
部屋を出ようとする佐助を引き留めて、一番気になっていることを桃花は問う。
途端に二人の顔が険しくなった。
「…政宗殿が申されるには、毒を盛ってなどいないと。」
「そう、ですか…」
「けれど事実、桃殿は吐血されて倒れ申した。猫とか申すご側室とその父上は、政宗殿によって詮議中でござる。」
「証拠…盛られた毒とかは出てきたんですか?」
「毒を盛ってしまえば出てこない、だからこそ暗殺の手段として多用されているんだよ。まさか同盟国から嫁いできた姫に、しかも婚儀の当日に側室が正室を…なんて油断してた。ゴメンね、桃姫ちゃん。」
「いえ、そんな!佐助さんが謝ることではないです。」
悔しそうに頭を下げる佐助に、桃花は両手をぶんぶん振って否定する。
「桃姫ちゃんが倒れてから一切伊達の者を近づけていないよ。そこは安心して?」
「でも…伊達様も身に覚えがないって仰っているんですよね?」
「そう。だから襖の向こうにお喜多さんがずっといたけど、さっき旦那が叫んだ時にどこかに行ったよ。きっと竜の旦那や右目の旦那に桃姫ちゃんが目を覚ましたこと、伝えに行ったんじゃない?」
「喜多さんが…」
「同盟に関しては某などが口を出していいものではありませぬ。此度の件は既に甲斐へ報告し申したが…お館様がどう仰られるか、でござるな。」
腕を組み、難しい顔で幸村が今後の予測を立てる。
「…面倒なことになってしまってすみません。」
「桃姫ちゃんは悪くないでしょっ!?」
「そうでござるっ!」
「とにかく、まずは精をつけなくちゃ。俺様、粥でも作ってくるね。」
「…佐助さんが?」
「俺様を舐めてもらっちゃ困るよ、桃姫ちゃん。あっという間だから、起きて待っ…」
「桃、入ってもいいか?」
佐助が立ち上がろうとした時、襖の向こうから声が聞こえた。
聞き覚えのあるそれに、幸村と佐助の雰囲気が鋭くなる。
桃花は戸惑うように二人を見たが、どうぞと短く返した。
2014.09.22. UP
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夢幻泡沫