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花は輝き月は笑む
31
上半身を起こそうとしていた桃花を見ると政宗は目を細め、それから小さく息を吐くと短い言葉で彼女の行動を咎めた。
「Ah, you don’t need to rise. 横になってろ。」
「…すみません。」
「目が覚めたと喜多から聞いた。気分はどうだ?」
「だいぶ良くなりました。」
「そうか。しっかり養生しろよ。」
「ありがとうございます。」
小十郎、成実を従えて政宗は枕元に座った。
覗き込んでくるような姿勢に桃花は少したじろいでしまう。
「桃姫様、お気が付かれてようございました。ご無事でなによりでございます。」
「本当にね。桃姫、どこか辛いところとかない?」
「…よくも抜け抜けと。」
「真田幸村…何度も言うが、政宗様は何も御存知ない。」
苦々しい口調で目を据わらせる幸村に、小十郎は困ったように返す。
この遣り取りも、桃花が意識を失っている間に何度もしたのだ。
「仮に百歩譲って竜の旦那が知らなかったとしても、伊達の者がやらかしたんでしょ?こっちだって、何度も同じことを言いたくないさ!」
「だからそれも!猫殿も飯坂殿も何も知らないと言ってるんだって!!」
「知らぬ存ぜぬで通るとお思いかっ!?」
「Stopだ。てめぇら、桃の前だろ?声を抑えろよ。」
幸村の言葉を機に、水掛論が桃花の上で展開される。
段々と張り上げられていく声を、一人だけ冷静だった政宗が制止した。
「あいつらの言う通りだ。この城で起きたこと、知らぬ存ぜぬは通用しねえ。桃…猫と飯坂は死罪に処すことに決めた。」
「…死、罪…」
「そうだ。この伊達政宗の正室を屠ろうとしたんだ、死を持って贖おうが足りねえぐらいだぜ。」
だがな、と政宗は続ける。
その顔は怒りに満ちていた。
けれど、その中に苦しさが混じっているのも否めない。
桃花を正室に望んだのは政宗自身。
あの上田城で出会った時に、一目見て彼女を気に入った。
真田幸村の奥かと早合点し残念に思ったが、そうでないと知った時は心が逸った。
武田信玄の娘であれば、身分的には問題もなく寧ろ正室に相応しい。
強引さは否めなかったが彼女を持ち出し、伊達からしてみれば大甘な条件で同盟を成立させた。
そこまでして手に入れた女が杯を交わしたその日に毒を盛られたとなれば、怒りに頭も湧くだろう。
だが…
飯坂宗康は一城を任せている重臣の一人。
猫御前は初めて側室に召し上げた気に入りの女。
猫はともかく飯坂を簡単に切り捨てる、とまでは割り切れない。
「だがな、俺は奥州筆頭だ。…単刀直入に聞く。アンタ、自分で毒を飲んだか?」
「え…?」
冷たく聞こえた政宗の言葉に、桃花は目を大きくしたまま固まる。
ゆっくり頭を彼の方に向けても、待っていたのは何も逃さないと言う強い意志が表れた目だった。
…私が疑われている、の?
何で…?
死罪と言う言葉を聞いただけで悪くなった桃花の顔から、更に色が消える。
白く飽和した頭の中では何も考えられなかった。
「…私、が?」
「そうだ。伊達に罪を擦り付け、同盟をどうこうしよう…なんて考えてないか?」
「政宗殿っ!!そのような言いがかりは桃殿に失礼であろう!?」
「Han, どうだか。あの宴では猿がずっと桃のそばにいたからな。毒の扱いは忍びが得意とするところだろ?」
「これは異なことをっ!佐助がそのようなことをするはずはござらんっ!!」
「何?俺様がそばにいただけで、桃姫ちゃんが疑われてるの?心外だな〜。」
顔を赤くして怒りを露わにする幸村と、ヘラヘラと笑いながらも目を鋭くする佐助。
一触即発な雰囲気に包まれながら桃花はぼんやりと考えた。
…何故ここまで言われなきゃいけないの?
私は好きで奥州に来たわけではないのに。
好きで体調を崩したわけじゃない、血を吐いたわけじゃない。
幸村様と佐助さんも、そんなことしない。
殺される時は…きっと正面からだと思う。
笑ってゴメンねって。
分からない…私はここに来てよかったの?
私のせいで猫様と飯坂様は、死ぬの?
やっぱり奥州には、伊達には…味方になってくれる人はいないの?
2014.09.29. UP
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夢幻泡沫