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花は輝き月は笑む

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「それで?結局どうなったの?」

帰ってきた政宗を捉まえて、成実は開口一番に聞く。

「An?どうもこうもねえよ。元のままだ。」
「えっ!?武田方は何も言ってこなかったの?桃姫が毒殺されかけたって話なのに?」
「…毒殺だと決まったわけじゃねえ。結局、誰が何をしたのか分からずじまいだ。」
「ホント、梵の晴れの門出にケチがついちゃったね〜。やっぱり猿飛辺りが毒を仕込んだんじゃないの?案外、真田幸村のヤツが裏で指示を出してたりしてね。」
「アイツはそんな小細工はしねえよ。それに心酔している虎のおっさんの姫を手にかけるようなことはできないだろう。もう一つ言えばあの時の庇いよう、バカ正直な真田にあんな演技ができるとも思えねえ。」
「…まあ、梵の言う通りだろうけど。」
「それにな、甲斐に行って分かったが…虎のおっさんは桃を相当可愛がってるぜ。」
「へえ〜。何だか意外だな。それだったら余計に何か言ってきそうだけど?」
「桃が文を書いただろ。おっさんに口出しするなってあれには書いたらしいぜ。」
「それで信玄公は何も言わなかった、と。」
「ああ。」
「…桃姫って、本当に虎の子だったんだね。それも、とびきり極上の。信玄公はよく梵に桃姫を嫁がせたねぇ。」
「Shit!そりゃどう意味だ!?」

驚いたように溜息交じりで言う成実に、政宗も眉を吊り上げながらも深く同意する。
信玄が桃花の言うことを簡単に受け入れたことには、彼も驚いていた。
良い妻を娶ったものだと口の端が上がると同時に、苦い思いも抱く。
武田が今回の件に関して口を挟まないと言うことは、武田方の重要案件に伊達は口を挟めないと言うことにもなる。
なにせ、娘の一大事にも関わらず伊達の沙汰を諾としたのだから。
桃花は武田を抑えると同時に、伊達も抑え込んだのだ。
嫁いで早々、己の立ち位置を伊達の重臣に知らしめることにもなった。
彼女はそれを分かっているのだろうか?

「それで、kittyはどうしていた?」
「特に問題はなかったよ。床払いも順調だし、食事も毒味なしで取ってるよ。」
「…そうか。」
「梵が出発前に指示を出したから、安心してるんじゃないの?」
「随分と信用されたもんだ。」

ハンと鼻で笑った政宗だが、その表情は嬉しそうだった。
横で見ている成実は、ニヤニヤするだけで何も言わない。
政宗は奥州を発つ前に城の者に命じた。
桃が口にするものは俺の物と同様、小十郎が用意する。
小十郎がいない時は、喜多が代わりを務めろ。
他の者は余計な手出しは一切無用。
少しでも疑わしい行動を取った奴は、この俺が赦さねえ。
それを桃花に伝えた上で、甲斐へ赴いた。
政宗がいない間、成実は何かと理由を見つけては桃花のところへ顔を出していた。

顔色がよくなってるね。
しっかり食べてるから安心した。
困ったことはない?
必要なものはない?
何かあれば直ぐに俺に言うんだよ。

大丈夫です。
ありがとうございます。

桃花は短く答えるだけだったが、成実は直に会えるのでよしとしていた。

「まあ…さ、後は梵の努力次第ってことで。」
「Ha, 直ぐにでも目のやり場に困るようにしてやるさ。」
「あっ、それは嫌だなあ。俺に回ってくる仕事が増えそうだし。」

うげっと成実は舌を出して眉を顰める。
けれど女に相当の嫌悪感を持っている従兄が正室を大事に扱っているという事実に、満足そうに目を細めた。


2014.10.20. UP




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夢幻泡沫