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花は輝き月は笑む
39
ゆっくりと歩く彼女に合わせて、政宗も歩いている。
男の人にとってはかなりの遅さだろうに、文句を言うことなく周りの景色を楽しんでいるようだ。
彼が伊達者、伊達男の起源だとよく分かる。
女の扱いも間違いなく慣れているだろう。
そんな人が何故、己などを構うのか。
桃花が本気で頭を捻っていると、どうやら立ち止まってしまったらしい。
「どうした?」
振り返った政宗が優しい声音で聞いてきた。
「…いえ。」
「疲れたか?」
「いえ、大丈夫です。」
「政宗様、用がおありで桃姫様の御部屋までいらしたのではありませんでしたか?」
「Oh, そう言えばそうだったな。」
喜多に言われて思い出したのか、二人の後ろにいた小十郎から受け取った壺を桃花に手渡す。
「桃にやる。開けてみな。」
「…これは?」
「いいから開けてみろよ。」
悪戯を仕掛ける少年のように屈託なく笑うと、政宗は畳みかけるように催促する。
少し戸惑ってから恐る恐る開けた桃花の目に飛び込んできたのは、小さな可愛らしい星々だった。
「わぁ…」
小さく歓声を上げて、桃花は嬉しそうに喜多を振り返る。
そして片手で器用に懐紙を取り出すと、彼女の手の上で広げた。
「桃姫様?」
「喜多さんにもお裾分けです。」
迷うことなくザラザラと中の物を懐紙の上に取り分けていく。
「桃姫様!このようなことをっ…」
「片倉様も手をお出し下さい。」
呆気に取られている小十郎にも同じことをしてから、桃花は政宗の方へ振り向いた。
「ありがとうございます、伊達様。」
「…それが何だか分かっているのか?」
「金平糖、だと思うのですが…」
「That's right. 何だ、知っていたか。」
「はい。」
少し拗ねたような顔をして政宗は頭を掻く。
それから不思議そうな顔で己を見る桃花に聞いた。
「何故、喜多や小十郎に分けた?」
「…珍しい物ゆえ、なかなか口にする機会もないだろうと思い…あの、いけなかったでしょうか?」
「No, その通りだ。喜多、小十郎、取っておけ。」
「有難く頂戴いたします。」
考えていた以上に穏やかな時間を過ごせたようだ。
良かったですと二人へ淡く笑う桃花に、政宗もフッと和らいだ表情を見せる。
正直なところ、桃は知識を持っていると思う。
金平糖など、南蛮と貿易でもしていない限り手に入るもんじゃねえ。
知っていたことにも驚いたが、それを簡単に下の者に分け与えてしまった。
この時代では考えられないくらい素直と言うか、何に対しても疑わなさ過ぎる。
毒殺騒ぎがあったのに、食い物を貰っても躊躇いもしねえ。
世間知らずもいいところだな。
珍しいものではあったが、舞や歌もできるとは予想外だった。
どういう育ちをしたかは知らねえが、虎のおっさんが可愛がるはずだ。
真田幸村や猿が大切にするのも分かる。
もっとkittyのことを知りてぇ。
それに…初めて見たに等しい我が妻の笑顔をまた見たい。
これは前に喜多が言ったように、執務を抜け出すか。
口の端を上げながら、政宗は悪巧みに頭を巡らせた。
2014.11.24. UP
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夢幻泡沫