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花は輝き月は笑む

04



何を聞いても予想もしない答えが返ってくる。
欲しい答えがここにはない…?

「…ど…しよ…」

顔から血の気が引くのが、己自身でも分かる。
頭を抱え込んで再び座り込んでしまった桃花に、そっと声がかかった。

「落ち着かれよ。まずは名を聞かせてはくれぬか?」
「あ…春原、です。」
「…お姫さんじゃなくて、侍女なの?春原ってどっかの城でもらった名でしょ?」
「いえ…名字ですけど…」
「何と!氏を持っておられたか。これは失礼を致した。某、真田源二郎幸村と申す。こ奴は猿飛佐助でござる。」
「旦那っ!そう簡単に名乗ってどうするのっ!?」
「佐助!控えよ!!」
「…猿飛佐助。これまでの無礼、お許しを。」

呆気なく名乗った真田幸村に猿飛佐助は食って掛かった。
けれど物を言わせぬ口調で諌められると、声を低くしてしぶしぶと自らも名乗った。
そんなことはどうでもいい。
この人達は…今、何て言った?

「真田、幸村に…猿飛…佐助?」
「そうでござる。」
「…嘘、ですよね?」
「偽りなど申して居らぬ。」
「本名…ですか…?」
「本名って本当の名ってこと?春原ちゃん、って言ったっけ?そっちこそ分をわきまえてないんじゃない?」

え…?
だって、猿飛佐助って実在してない人物でしょう?
真田幸村だって…

「真田…信繁の間違いでは?」
「…どなたかと勘違いされておらぬか?」
「勘違いではなくて…」

…って、そうじゃなくて!
さっきから思っていたコスプレ…にしては妙に迫真の演技だし、そんなゲームやアニメを見たことないし。
大体こんな衣装、戦国時代にあるわけない。
真田幸村…さんなんか、それで身を守れるの?
時代考証しなさすぎ。
それに『幸村』って名乗るくらいだから、歴史を知っている人でもなさそう。

でも…
…それなら…ここは、どこ…?

悄然と真田幸村を見上げる桃花の瞳に、彼の首からさげていたものがチャリンと鳴ったのが写る。

「…六文銭?」

ポツリと洩れた彼女の言葉に、真田幸村と猿飛佐助は反応を示した。

「知っておられるのか?」
「真田家の…家紋ですよね?」
「そうでござる。」
「…ここは…」

言葉が続かない。
…信じられない。
だけど、どう考えたっておかしい。
聞き慣れない言葉の数々、けれどテレビでは聞く。
見慣れない物の数々、けれど教科書や資料集では見る。
奇抜なファッションは見なかったことにしても、真田幸村に猿飛佐助。

…ここ、は…まさか…

「戦国…時代?」
「…せんごくじだいなるものは存ぜぬが、今は戦国の世でござる。」

真田幸村の静かな言葉に、桃花の体中から力が抜け落ちた。



茫然自失と座り込む桃花に、真田幸村も猿飛佐助も困り果てる。
野放しにするには不審すぎる。
それに色々と聞いていしまったからには真田幸村は勿論のこと、ないと思われる猿飛佐助の良心までもが放っておくことを咎めた。

「佐助、まずは城に連れて参らぬか?」
「…いいの、旦那?このお姫さんがもし間者だったら、大変なことになるよ?」
「仮に間者だとしても、某が遅れを取る程ではあるまい。」
「まあ…そうだね。俺様もいるし。でも城には…」
「お館様がおいででござるな。あるいはお館様なら何か分かるやもしれぬ。」
「どうかな〜?」

首を傾げながら猿飛佐助は桃花を見た。

「こんな着物を着ているお姫さんがいたら、噂の一つや二つ俺様の耳に入ってくると思うんだけど。」
「とにかく、城に連れて参る。佐助、先に城に戻って報告しておけ。」
「了解〜。ってことでぇ…」

そう言って桃花の顔を覗き込むと、猿飛佐助は例の笑顔を見せた。

「春原…何ちゃん?」
「…桃花、です。」
「そう、桃花ちゃんね。俺様は先に戻るから旦那と一緒に城に来てね。」
「え…?」
「…えっ、聞いてなかったの!?」
「すみません…」
「もう〜、しっかりしてよね!桃花ちゃんには城に来てもらうことになったから。俺様は準備やら何やらあるから先に戻るけど、桃花ちゃんは旦那と一緒に来ればいいよ。」
「…私がお城へ行っていいんですか?」
「城主である旦那が了承しちゃったんだから仕方ないでしょ。あ、この荷物は先に持っていくね。」

腰に手を当てて小言と共に説明した猿飛佐助がひょいと桃花の荷物へ手を伸ばした。
それを慌てて手元に引き寄せ、桃花はギュッと胸に抱いた。

「…何?」
「…大事なものなので、自分で持っていきます。」
「俺様、勝手に見そうだとか疑われてる?」
「そう言うわけでは…。でも、自分で…」

目を細める彼に及び腰になりながらも、桃花は荷物を手離そうとはしない。

「佐助、構わぬ。」
「あっそ。なら俺様もう行くけど…旦那、桃花ちゃんを落とさないようにね?」
「…は?」
「旦那、馬があるでしょ?桃花ちゃんとの共乗り、楽しんできてね〜!」

ニヤリと笑ってからあっという間に姿を消した影の言葉の意味を理解すると、これまでで一番大きな絶叫が辺りに響いた。


2014.01.27. UP




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夢幻泡沫