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花は輝き月は笑む

05



「…見えてきたでござる。」

度重なる押し問答の末、桃花を己の前に乗せて手綱を握った真田幸村は終始顔を赤くしたまま馬を進めた。
聞こえてきた彼の声にそっと腕時計に目を走らせれば、思ったより時間はかかっていない。
ビバ、ソーラー電池。
これが狂わない限り、日にちと時間に関しては大丈夫そうだと胸をなでおろす。
電波時計じゃなくて良かったと変なところに安心しながら、桃花は遠目に見える城を眺めた。
立派な石垣に、大きな木でできた門。
実際に見たことはないけれど…

「上田城…ですか?」
「いかにも。某がお館様よりお預かりしている城でござる。」
「すごい、ですね…」

桃花が思わず零した感嘆の声に、真田幸村の表情が緩む。
城門には真田の昇り旗が掲げられていた。
同時にもう一つ、見たことのある家紋の昇り旗も桃花の目に入ってくる。

「あれは…武田菱…」
「…ほう、存じておられるのか。」

驚いたように声を上げる真田幸村に、桃花は見上げるような体勢で聞く。

「何故、あの旗印を掲げているんですか?」
「なぜと申されましても…我が城には今、お館様が滞在しておられる故にござる。」
「お館様って、真田様が仕えている方ですか?」
「そうでござる。」
「…因みにお名前は?」
「これは異な事を。お館様と言えば『甲斐の虎』として名高い武田信玄公にござる。」
「武田…信玄、様…ですか…」

…おかしいよね?
真田幸村と武田信玄が同時に生きているなんて。
武田信玄に仕えたのは、真田幸村のお祖父さんとお父さん…だったはず。
真田幸村が仕えたのは…豊臣家、じゃなかったかしら?

黙り込んでしまった桃花に、真田幸村は不思議そうに首を傾げる。

「…某、おかしなことを申したでござろうか?」
「あ、いえ…武田信玄と言う名前に驚いただけです。」
「おおっ!お館様までご存知なのか!?」
「…名前だけ、ですけど。」
「流石はお館様っ!某っ!お館様が天下をお取りになられるよう、手足となりて働く所存でございますればっ!!」

お館様ぁあああと雄叫びをあげながら、真田幸村はぐんぐんスピードを上げて馬を走らせてしまう。
桃花にはたまったものではない。
真田幸村に必死にしがみついて振り落とされないようにするのが精一杯だった。



開門、開門ー!!
よく通る彼の声に、門番達も心得たように城主を迎え入れる。
先程見えた門を潜ると、馬を何騎も揃えられるような大きな広場があった。

「旦那、おかえり。あんなに飛ばしちゃったら、桃花ちゃん振り落とされちゃうでしょ〜?」
「ぬっ…」
「桃花ちゃん、大丈夫だった?」
「…はい…」
「ほら!旦那のせいで、ぐったりしちゃってるよ?かわいそうに、降りておいで。」
「…分かりました。そこ、どいてくれますか?」

肩に荷物を掛けて地面との距離を測る桃花に、猿飛佐助は驚いたように慌てて近づく。

「はあっ!?飛び降りる気!?女の子がそんなことしちゃいけません!!…俺様に掴まりなよ。」

彼女を受け止めるように両手を向けながら、猿飛佐助はどこか疲れた声で降りるように促した。

「春原殿、某が荷を持っていましょうぞ。」
「ありがとうございます。」

真田幸村の言葉に感謝の意を述べて、荷物を預ける。
そして、馬上から猿飛佐助の肩に掴まるようにして体を降ろした。

「旦那、大将が待ってる。」
「うむ、直ぐに参ろう。」
「桃花ちゃんは俺様についてきて。」
「…分かりました。」
「春原殿、悪い様には致しませぬ。佐助、丁重に案内致せ。」
「御意〜。」
「では春原殿、また後程。」

直ぐに返事をしなかった桃花の心を感じ取った真田幸村は、彼女に荷物を渡した後で猿飛佐助にそう命じる。
緩く返事をした彼に頷くと、ヒラリと馬首を転換させてその場を離れた。


2014.02.03. UP




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夢幻泡沫