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花は輝き月は笑む
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「伊達様…ご機嫌麗しゅう存じ上げます。」
「まあな。How about you?」
「え、と…」
「アンタも調子良さそうだな。」
「お陰様で、ありがとうございます。」
入って来た政宗に口上を述べる端で喜多が箏を部屋の片隅に寄せる。
桃花はチラリと箏を見た。
珍しい造りだからこそあまり見られたくはない。
そんな彼女の気持ちをくみ取ったのか、喜多は小さく頷きながら桃花に願い出た。
「桃姫様、御箏でしたら私が片付けます。」
「いえ、自分でできますから…布だけ掛けておいてもらえますか?」
「畏まりました。」
「ありがとうございます、喜多さん。」
「Wait, 喜多。」
早速布を取りだした喜多に、政宗は待ったをかける。
そして楽しそうに目を細めると箏と桃花を見比べた。
「さっき弾いていたのは、桃の国の音楽か?」
「…お耳汚しを。」
「そうじゃねえ、珍しいとは思ったけどな。一曲弾いてみろよ。」
「えっ!?」
「何だ?俺の前じゃ弾けねえのか?」
「あっ、いえ…あの…手遊びで鳴らしている程度ですので…」
「構わねえ。」
「お聴かせできる程ではないのですが…」
「いいから聴かせろよ。」
ニッと笑う政宗に、桃花は困ったように喜多を見る。
こんな状態の彼には何を言っても無駄なのは、共に過ごすようになったことで桃花も薄らと分かってきていた。
視線の先では喜多も苦笑している。
「…何も期待はしないで下さいませ。」
そう言って箏を手元に持ってきた桃花は、口で音を取りながら調弦を始めた。
赤糸を合わせると青糸を、そしてその間の糸を…と初めて目にした方法に、部屋の隅の方で控えていた喜多も体が前に乗り出している。
調弦が終わった桃花は、続けて言葉にもなっていない本当に小さな音を歌いながら旋律を確かめだした。
時々首を傾げながら音を取る彼女を、政宗は穏やかな瞳で見つめる。
こうやって桃花が何かをしているのを見ることが、これまでほとんどなかった。
己が妻の仕草を興味深そうに見ていた政宗の耳にじきに届いてきたのは、かつて聴いたことのある旋律だった。
手探り状態で弾いているのが分かる、儚い音色。
箏などあまり弾いたことがないのだろうと分かる、戸惑いの手つき。
それでも、その音に惹かれた。
「…あの時の歌か?」
「はい。」
「Thanks.」
ほうと息を吐き出し弾き終えた桃花に、政宗は簡潔に問う。
はいと答えが返ってきたのが、どこかこそばゆいが悪くない。
また聴きたいと言った己の言葉を覚えてくれていたようだ。
素直に礼を言えば、曖昧に笑い返される。
異国語が分かっていないのか、礼をされる意味が分からないのか…。
どちらでもいい、そう思う。
「箏はよく弾くのか?」
「いえ…上田でお世話になっていた時からですので、まだまだ弾けるという状態では…」
「手ほどきが受けてえんなら、箏の上手い奴をつけてやるぞ?」
2014.12.08. UP
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夢幻泡沫