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花は輝き月は笑む
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褥の中から溜息ばかりが聞こえてくる。
桃花はすっかり温もってしまった御衣に包まりながら、何度目か分からなくなってしまった息を深く吐き出した。
政宗の意図が分からない。
若くして奥州筆頭になり大きな混乱なく領土を治め、臣下からも尊敬され慕われている彼。
地位も名誉も金も権力もあり、何より容姿が極上なのだ。
下世話かもしれないが、女性を虜にする要素は全て持っていると言っても過言ではないと思う。
側室もいるのだし、他の女も放っておかないだろうに…。
桃花とて異性と付き合ったことぐらいはあるし、恋心を抱いて胸をときめかせたなんて少女らしい経験もある。
けれど、政宗を過去と比べてはいけないような気がした。
…いやいや、比べちゃダメでしょう。
それぞれに対して申し訳なさすぎる…。
誰にも相談できずに一人で悶々と考え込む日々を桃花は過ごす。
結果、新年早々熱を出してしまった。
政宗や喜多に大袈裟だと思うくらい心配され、大丈夫だと言ったのに褥に押し込められた。
今日は新年を祝う宴が催されていて、主だった家臣が一堂に会する。
人手が必要だ、と宴に桃花の侍女も駆り出されていた。
目出度い日に一人で寝込むのは虚しくもあったが、これ幸いと桃花はゴロゴロと褥の中で寛いでいた。
…本当に伊達様の考えが分からない。
あの時のキスはからかい…でしょう?
格好いい人にあんなことをされたら、誰でもドキドキしちゃうって…。
でも、あのじっと見つめてくる瞳から目を逸らすことはできなかった。
あの少し掠れた『政宗と呼べ』が胸を締め付ける。
思い出してそれまで以上に火照った頬を桃花は己の両手で覆った。
はあ…本当に一人でよかった。
絶対に今、顔が赤くなっているから。
こんな顔、見られたくない…。
桃花が一人でジタバタしているところへ、襖の向こうから聞き慣れぬ声がした。
己の侍女の声はすっかり分かるようになっていた。
と言うことは、この人は違う。
そんな人が何故この城の最奥まで入れるのだろう。
ここは城主である伊達様の私的空間であるのに。
「御方様、殿がお呼びにございます。」
「…伊達様が?」
「はい。宴の場に参れとの仰せにございます。」
事務的なその声に桃花は首を傾げる。
寝てろと言った本人が宴に出ろと言うのだろうか?
それとも大丈夫だろうと判断し直したのだろうか?
それに、どうして知らない人を遣わしたのだろうか?
「…御方様?」
「あ…承知致しました。着替えますので、喜多さんを呼んで来ていただけますか?」
畏まりました、と下がっていった声にグッと伸びをする。
起き上がった桃花の身体に、冷えた空気が纏わりついた。
「妙でございますね。」
喜多は呼ばれた理由を聞くと首を捻ったが、直ぐに打掛を用意した。
政宗自らが選んだ菊で溢れた花の本や扇や鼓の柄が華やかなそれは、深縹の地色のためかしっとりと上品な雰囲気を漂わせている。
「まあ、よくお似合いでございますこと。政宗様もきっと御喜びになられることでございましょう。」
着付け終えた喜多は嬉しそうに目を細めて頷くと、鏡の前に桃花を座らせた。
彼女が化粧を好まないのは重々承知の上だが、新年の目出度い宴の席。
少しくらいはしないと、かえって桃花にとってよくない。
なにせ、側室達は己を政宗の目に留まらせようと過剰なくらい化粧をしているのだから。
申し訳程度に白粉をはたき、紅を注す。
それから髪を梳り、宴の場へ向かった。
2014.12.22. UP
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夢幻泡沫