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花は輝き月は笑む

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「桃姫様のお越しです。」

騒がしい場でも喜多の声はよく通る。

「…入れ。」

桃は熱を出して寝ているはずでは?
何か急用でもできたのか?

訝しがりながらも政宗は入るように促した。
開いた障子の向こうに待っていたのは、深い青に身を包む桃花。
頭を一つ下げてゆっくりと政宗の前に歩いてくる姿に、家臣の間から溜息が漏れる。
それを聞けば、どこかつまらないと思っていた気持ちが高揚してくる。

楽しい宴なのは間違いないが、やはり桃がいると違えな。
俺が選んだ打掛がよく似合っているじゃねえか。
家臣達から溜息が聞こえてくるのも分かるってもんだぜ。
ほとんど化粧もしてねえのに、あいつらよりも綺麗なぐらいだ。

目をチラリと横に流すと、側室達は突然現れた正室に面白くないと顔を歪めている。
それを腹の中でクツクツと笑いながら、政宗は桃花へ労わるように声をかけた。

「具合はもういいのか?」
「はい、大分よくなりました。」
「そうか。それで何かあったのか?」
「いえ、伊達様がお呼びだと伺ったものですから…」
「An…?俺は呼んじゃいねえぜ。桃に寝ているように言ったのはこの俺だぞ?」

政宗の言葉に、桃花は喜多を振り返りながら首を捻った。

…やはり何かがおかしい。
伊達様が床に臥せっていることになっている私を呼び出すはずがなかったのだ。
でも…そうだとすると、一体誰が何の目的で?

戸惑いを隠せないまま視線を落とすと、政宗の方へ顔を戻す。
そこには鋭利な雰囲気になった背の君がいた。

「…すみません、私の聞き間違いかもしれません。新年の宴に水を差すような真似をしてしまい、申し訳ありません。」
「…いや、kittyの顔を直接見て安心した。」

己の変化に気づいた妻が頭を下げている間に、喜多に視線を送る。
政宗の言いたいことを瞬時に読み取った彼女が一つ頷くのを見て、政宗は言葉を濁した桃花の話に合わせることにした。
その様子に安心したのか、うっすらと微笑むと桃花は膝の前に手をついた。

「お邪魔して申し訳ありませんでした。私はこれで…」
「Hey, wait!具合は良くなったんだろ?折角の新年の宴だ、桃も参加しろよ。」
「私が、ですか?」
「いいだろ?さあ、こっちに来い。」
「…では、少しだけ。」

ニッと口の端を上げて己を呼び寄せる政宗に、桃花は助けを求めるように喜多と小十郎を見る。
双方が穏やかに頷いたのを確認してから、ゆっくりと政宗の隣へ移動した。
元から設けられていた上段の敷物の上に腰を下ろせば、左右にズラリと伊達の家臣達が居並ぶ。
正装してなお屈強な様が見て取れる彼等に尻込みしそうになってしまう。
俯きがちでいた桃花は気が付かなかった。
誰も動き出そうとしないことに。

「桃、アンタの言葉をあいつ等は待ってるんだ。何か言葉をかけてやれ。」
「え?」
「滅多に表に出てこない御正室様が宴の席に現れたんだ。あいつ等だって緊張ぐらいするぜ?」

苦笑しながら下段を見渡す政宗の言葉に、桃花も顔を上げて様子を窺う。
その途端、己を見る一斉の視線にさらされ頭が真っ白になってしまった。

「…昨年は大変お世話になりました。まだまだ奥州に不慣れで、迷惑をたくさん掛けてしまうと思いますが…今年も精進して参りますので、どうぞ宜しくお願い致します。」

上手く働かない頭を必死に回転させ出てきた言葉と共に頭を下げれば、一瞬にしてそれ以上に深く平伏されていたたまれない。
正室とは言え何もせずにいる小娘なのに大の男の大人達に畏まられることを、常日頃から心苦しく思っているのだ。
桃花は小さくなりそうな声で頭を下げている大勢にかけた。

「あの…新年の宴です。堅苦しいことは抜きに、どうぞ楽しんで下さいませ。」
「てめえ等!桃もこう言ってるんだ、派手に盛り上がっていこうぜ!!」
「Yeah!!」
「OK! Are you ready, guys?」
「Yeah!!」
「Let's party!!」
「Yeah!!」
「せっかくのpartyだ、派手に楽しめよ!!」

政宗の音頭に威勢のよい合いの手が返ってくる。
宴の場は元の賑やかしさを取り戻した。


2014.12.29. UP




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夢幻泡沫