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花は輝き月は笑む
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あちこちで笑い声が響く場所の上段に陣取ったものの、桃花はどうしていいか分からずに情けなく視線を彷徨わせていた。
片倉様がお酒を飲むところを初めて見たな。
鬼庭様に会うのは久しぶりだな。
成実様は相変わらずお元気そうだな。
など数少ない知っている顔を探していると、政宗が不意に話しかけてきた。
「伊達の新年の宴はどうだ?虎のおっさんのところとは違うだろ?」
「…武田で新年を迎えたことがないのでよく分かりませんが…伊達様のところは華やかでございます。」
「そうか。それなら桃のところではどんな正月の迎え方をしたんだ?」
「私のところですか?」
どう説明したものかと政宗から視線を外そうと顔を動かすと、政宗が手酌をしているのに気付く。
漆塗りの豪華な銚子を貴公子然ながら節くれ立った手よりそっと取り、酌をする仕草をすれば目を大きくして見られてしまった。
「…手酌をする人は出世できないと聞いたことがあります。…不慣れですけれど、私の酌でよろしければ…。」
「Ha!桃の酌で飲めるとはな。新年早々ついてるぜ。」
持っていた盃をずいと桃花の方に出しながら、政宗は嬉しそうに歯を見せる。
それに微笑み返してから真剣に酒の流れを目で追った。
「Stopだ。それくらいでいい。」
少しずつ慎重に注ぐ妻を穏やかに見ながら指示を出せば、慌てて銚子を持ち上げる。
心配そうに見つめてくる桃花の視線を受けながらグイッと一気に飲み干すと、彼女は安心したようにホッと息を吐き出した。
「上手いぜ。Thanks.」
「溢さなくてよかったです。」
「アンタも飲むか?」
「いえ、二十歳までは飲みません。」
珍しくきっぱりと言い切る桃花に、政宗の眉が顰められる。
酒好きの彼が信じられないようなことを桃花は口にしていた。
「Ah?何だ、その拘りは?」
「…私の育ったところではそういう法が定められているので。」
「面倒くせえな、それ。ここは奥州だ、破っちまえ。」
「国の違いは分かっているのですが…申し訳ありません。」
「まあ、楽しみは先に取っておくか。それで、桃のところの正月ってのはどんな感じなんだ?」
胡坐を掻いた己の太腿の上に頬杖をつきながら、政宗は桃花を見上げるように見た。
身長が高い政宗が見上げてくるなど初めてのこと。
加えて口元が笑みの形を作っているものだから、桃花の心臓がドクリと存在を主張する。
パッと目を逸らし、少し記憶を辿ってから桃花は答えた。
「…親族が本家に集まってゆっくりと過ごしていました。年齢の近い子供もいたので、一緒に遊びもしました。楽しかったですよ。」
「宴はしないのか?」
「大人達はここぞとばかりに飲み食いしていました。子供も甘味を好きなだけ食べていました。 みんなと久しぶりに会えるのはもちろんのことですが、嬉しかったのはお年玉がもらえたことです。」
「…太刀を貰って嬉しかったのか?」
思い切り眉を顰めながら政宗が桃花を見る。
武家の世界でのお年玉は太刀が贈られることが多い。
政宗も、幼い時分には父から太刀を貰って喜んだものである。
彼の中ではお年玉とは太刀のことで、桃花が喜んだと言うことを不思議に感じた。
「太刀、ですか…?」
「Ah?太刀じゃねえのか?」
「私のところでは金子(きんす)をいただきました。欲しいものはそれぞれ違うから、自分で買い求めるようにと。」
「…俗物的だが、確かにありがたいな。桃は何に使ったんだ?」
「使っていませんでした。欲しいものは親が揃えてくれたので、お年玉は貯めていましたよ。」
それももう役には立たない。
ふと現実的な考えが頭をよぎり、桃花は苦笑を洩らした。
2015.01.05. UP
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夢幻泡沫