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花は輝き月は笑む
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また余計なことを言ってしまったかと桃花が後悔していると、突然顎を掬われる。
その勢いに拾った眼帯がまた桃花の手から落ちてゴトリと音を立てた。
強い独眼が桃花を捕らえて放さず、射抜かれるような感覚に思わず目を瞑る。
その途端、唇に甘い刺激が降りてきた。
角度を何度も変えられ、飲み込まれそうな勢いで降り注ぐそれに抗う術を桃花は知らない。
手近にあるものを必死に掴んでいるだけで精一杯だった。
「…アンタはどれだけ俺を溺れさせれば気が済むんだ?」
桃花の息が乱れてあえかになった頃、苦笑するような声が頭の上から聞こえてきた。
淡い霞がかかった頭でその声を聞いていると、桃花の頬に節くれ立った手が添えられる。
逆らう気力もないまま顔を上げれば、今度は慈しむような眼差しが目の前にあった。
左目しかない分、その優しさを強く感じる。
「ったく、竜が溺れるなんざ洒落にもなんねえ。」
「…伊…達、様…」
「右目を誇りにしろと言われたのは初めてだ。俺にとってココは忌まわしいだけの存在だったからな。」
「そんな…」
「アンタにもっと早く出会いたかった。そうすりゃ俺も、こんなに捻くれずにすんだろうよ。」
クツクツと笑い覗き込んでくる綺麗な顔に、己の顔が熱をもっていることが分かり隠してしまいたい。
だが夫の手がそれを許さず、楽しそうな声が更に桃花を追い詰める。
「俺に縋りついてくるってことは、覚悟を決めたってことか?」
「え?」
縋りつく?
そんなことをした覚えはないのだが…
桃花が首を傾げていると、政宗はトントンと彼女が握りしめている手を突いた。
その先を辿っていくと、寛げられた逞しい胸元が見える。
声にならない悲鳴を上げて離された手を、政宗は壊れ物を扱うかのように優しく包んだ。
「桃が嫁いで何月も過ぎた。もう我慢も限界だ…。」
呟くように言うと目の前で呆けている唇を塞ぎ、素早く姫抱きにする。
あの…あの…とうろたえる桃花を敷かれたままの褥に下ろし、いとも簡単に覆いかぶさった。
「…身体、冷えてんな。」
「伊達様…」
「Ha, 赤ぇ顔。」
「…あ、の…」
「桃、野暮な言葉は聞きたくねえ…」
低い声が甘く響き、桃花の身体がうち震える。
ゾクリとした背中が怖くなり、目が潤む。
桃花の様子にフッと口角を上げると、政宗は逃げようのない紅唇を絡め取った。
徐々に組み敷かれた体が熱を帯びてくる。
ぎゅっと固く目を瞑っている己が妻はきっと初めての経験なのだろう。
息を継ぐために薄く開けられた場所に舌を入れれば、ビクリと肩が跳ねた。
逃れる己より小さい舌を絡め、舐り、堪能する。
洩れてくる密やかな吐息と甘美な声に気をよくし、寝間着の上から柔らかな膨らみに触れた。
「あ…やぁ…」
遮ろうと動いた桃花の手を抑え込み、重ねていた唇を首筋へ移動させる。
紅い華を咲かせるようにきつく吸ったり甘噛みをしたりする度に、空気までも色濃く染められるようだ。
「…い、や…」
「No.」
「…お…許しを…」
「止めるわけねえだろ…?」
「おねがっ…で、す…」
「…もう黙れよ。」
「やっ…許して…」
終いには涙声になってしまった桃花に、政宗は愛撫の手を止めた。
2015.03.09. UP
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夢幻泡沫