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花は輝き月は笑む

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甘い首筋から唇を放して距離を取ると、緩んだ胸元を隠すように桃花は寝間着の合わせを掴んだ。

「…桃?」
「…申し訳ありません。お許しを…」
「理由は?」
「…」
「黙ってたら分かんねえだろ?言ってみろ。」

己の下にいる桃花は体を固くして泣きそうに浅い息を吐いている。
淡く色付いた顔にかかる髪を掻き上げながら政宗は促した。
気持ちも体も十分にその気になっている健康な青年が途中で止め相手を気遣うなど、そう容易くできるものではない。
逸る心を抑えた努力を誉め称えて欲しい。
根気強く優しい手つきで髪を梳き続ける政宗に、桃花は潤んだ目に涙を溜めて彼を見上げた。

…拒むならそんな顔をするな。

政宗は桃花に気付かれない程度に体の熱を逃すべく息を吐いた。

「…国の違いは十分に理解しています。私が奥州へ参った意味も、正室の意味も理解しているつもりでございます。」
「そこまで言うのに何故拒むんだ?」
「…他の女の方と関係を持っている殿方と深い仲になるな、と教え育てられました。夫婦になるのはただ一人と誓い合った殿方だけだと。」
「…側室のいた俺とは肌を合わせたくねえってか?」
「そうではなくっ!」

政宗の言葉に思わず声を上げた桃花を、政宗は驚いたように見る。
桃花は離れた隙間から這う様に身体を起こし、褥の上に座って真っ直ぐな目を政宗に向けた。

「伊達様云々ではなく、そういった殿方と…と言うことを、心が受け入れられないのでございます。」
「…俺を拒んでいるわけではねえんだな?」
「はい。」

間を置かずに頷いた我が妻に、無意識に入っていた体の力が抜ける。
本当に桃花に惚れているのだと己を呆れる様に笑い、政宗は恥ずかしさに染まった彼女の頬をそっと撫でた。

「桃の気持ちは分かった。無理強いはしねえよ。アンタの心が決まるまで待っててやる。だが…」

そう言って政宗は褥に入り込むと御衣をまくり促した。

「入れよ。腕枕は拒んでくれるな。」
「…一緒に、寝るので…ございますか?」
「Ya. 俺と桃は夫婦だ、当然だろ?心配すんな、何もしやしねえ。」
「ですが…」
「寒ぃ。早く入れよ。」

傍らで戸惑う桃花の手を引くと、思いの外勢いよく倒れ込んでくる。
柔らかい身体を事もなげに受け止めると、頭の下に腕を差し込んだ。
あっと小さく悲鳴を上げる桃花の額に唇を落とし、腰に手を回して己のすぐ傍まで引き寄せる。

「アンタは俺のモンだ。絶対に手放さねえ。他の女など、もう視界の端にすら入らねえよ。…俺にここまで言わせるんだ、しっかりと責任を取れよ?」

あやすように桃花の背中を撫でながらなおも口説く政宗に、桃花はどうしていいか分からなかった。
そのうち温かい手の規則正しい移動にまどろみが生まれ、次第に意識が薄れていく。
それが途切れる寸前に聞こえてきたのは、掠れ気味の切ない I love you。
Me too. と返せない己がとてももどかしく思えた。


2015.03.16. UP




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夢幻泡沫