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花は輝き月は笑む

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「…伊達様をお迎えする準備はどうすればいいのでしょうか?このような経験は初めてなもので…」
「ご心配召されますな、桃姫様。必要なことは城に残った者共で致します。桃姫様は政宗様がお城に戻られた時に、その愛らしい笑顔でお出迎えなさればいいのですよ。」
「私に出来ることは…」
「政宗様の御無事をお祈り申し上げて下さいませ。あとはお心安らかに、政宗様が御帰還される日までお過ごしいただければ結構にございます。」
「分かりました。喜多さん、鬼庭様、準備の方はお任せ致します。帰ってこられる方々の疲れが取れるよう、充分な用意をお願い致します。」
「畏まりましてございます。」
「家臣共が聞きましたらどんなに喜ぶお言葉でしょう。御心遣い、痛み入ります。」

年の功なのか、桃花を安心させる笑顔を喜多も綱元も浮かべて頭を下げる。
それから城中に指示を飛ばすために二人は部屋から辞した。
しばらくして桃花の耳に聞こえてきたのは、城主一行を迎え入れる準備の為に以前のような活気を取り戻した様々な声だった。



今日か明日には戻ってくる。
そう伝えられた城では、総出で出迎えの支度にとりかかっていた。
桃花も支度の手伝いをしたかったのだが、城主の正室にそんなことはさせられないと断られてしまった。
しゅんとしてしまった桃花を喜多は微笑ましく思う。
手伝いたいと思う程に伊達に染まってきたのだろう。
彼の無事を心配する程に政宗に心を許しているのだろう。
あの政宗がなかなか手を出さないほど大切にしている桃花の心が、ようやく我が主に向けられたのだ。
戻って参られましたら直ぐにお知らせ致しますという喜多の言葉に、桃花は勢いよくお願い致しますと返した。
その懸命さに思わず笑ってしまった。
これなら大丈夫、伊達は安泰だ。
漸く新妻らしい態度を取るようになった初々しい桃花の役に立てるよう、喜多は密かに気を引き締め直した。
桃花は今、大人しく部屋にいるのだろう。
いつ知らせが来てもいいように。
あれこれと差配をしながら女主の様子を思い描いていた喜多の耳に、馬の嘶きとたくさんの野太い声が聞こえてきた。
すかさず桃花の部屋へ侍女を送る。
同時に準備していたものを取り揃え、何人もの侍女を従えて人の気配がある方へ急いだ。

「政宗様、よくぞ御無事でお戻りになられました。」
「喜多か。I'm home.」

存在を際立たせる三日月の鍬形の持ち主に、喜色に満ちた声をかける。
横にいた伊達三傑と話していた彼は、ニヤリと不遜な笑いを浮かべて喜多を見た。

「成実殿も小十郎もよくご無事で。」
「ただ今戻りました、義姉上。」
「ただいまー。」

帰って来た彼等の顔を見る限り、疲れは浮かんでいたが元気そうだ。
そのことに喜多はホッと息を吐く。
気持ちが楽になれば、ついてきた侍女にも戦場から戻ってきた猛者達の受け入れを細かく指示することができる。
あなたはそちらへ、そなたはあちらへ、と迷うことなく素早く分担を決めた。
そわそわと喜多の様子を窺っていた政宗は、彼女の指示が終わると待ち構えていた様に聞く。

「桃は?」
「政宗様が戻られてから直ぐにお知らせ致しました。もうじきお見えになりますよ。」
「梵ってば、まず桃姫の顔を見たかったんだよねー?喜多でざ〜んねん!」
「おいっ、成っ!!」
「それは申し訳ありませんでしたなあ、政宗様?」
「Shit!」

苦々しい表情になる政宗に、ニッコリと喜多は笑う。
けれど桃花を求めて視線をあちこちに流す政宗に、仕方のないお方だと笑みを忍びきれなかった。

「Ah〜、綱元に喜多。留守居役ご苦労だった。」
「勿体なきお言葉にございます。」
「留守中に変わったことは?」
「特にはございません。皆、政宗様の帰りを今か今かとお待ち申し上げておりました。」
「Thanks. それで、桃の様子は…」

ポリポリと鼻の頭を掻きながら政宗が二人に問いかけようとした時、ザッと言う音と共に政宗の前が割れた。


2015.05.11. UP




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夢幻泡沫