短冊をいくつか並べ、あれやこれやと想いを巡らす。
短冊と言っても五色の檀紙を適当な大きさに切ったもので、その中に文字を書くのは中々に大変な作業だと思われた。
「…後回しにしよう。」
小さく息を吐き出すと、私は傍らに置いた箱の蓋を開けた。
そこに入っていたのは、通常より厚く漉き様々な文様を凝らした和紙。
いわゆる『千代紙』と呼んでいたもの。
喜多さんにお願いをして城下にある紙屋に作ってもらった。
「ふふっ、綺麗。」
手にとって眺めれば同じ文様は一つもなく、職人技に惚れ惚れする。
たくさん用意してくれたそれらを同系色に分け、一つずつ細工を始めた。
紙衣は裁縫の腕が上がりますように。
巾着はお金が貯まりますように。
投網は豊漁に恵まれますように。
吹流しは織姫のように機織が上手になりますように。
折鶴は家族が長生きしますように。
提灯は心を明るく照らしてくれますように。
星飾は星に願が届きますように。
屑籠は整理整頓ができ、ものを粗末にしない人になりますように。
一つ一つに意味のある飾りを作っていくうちに童心に帰る。
気づかないうちに周りが見えなくなっていたのか、急にかけられた声に私は驚いて肩を大きく揺らした。
「…随分と器用なことをしているな。」
聞き慣れた低い声に後ろを振り返ると、政宗様が作り上がったものを摘まみながらくるくるとまわしていた。
「…驚きました。散らかしていて申し訳ありません。」
「いや、気にするな。それにしても、桃が手に持っているのは…鋏、だったか?」
「はい。」
「よく使いこなしているな。俺には難しかったぞ?」
「そうでございますか?コツさえつかめば案外簡単なものですが。」
「俺は小刀の方が合ってる。で、何を作ってるんだ?」
後ろに音もなく座り、私の顔の横から覗き込んでくる政宗様に頬が熱を持つ。
「あのっ…!お、お顔が…」
「顔?」
「お顔が近いです…」
「気にすんな、俺とhoneyの仲だろ。」
ニヤリとした笑いでひっつけられた頬から慌てて逃げて抗議の視線を送ると、逆に政宗様から何で離れるんだと咎められてしまった。
恥ずかしいからですと返す声が小さくなってしまった私を、政宗様はクツクツと笑いながら彼の膝に乗せる。
「政宗様っ、お戯れを!」
「いいじゃねえか。これくらい、いい加減慣れろよ。」
「…慣れませぬ。」
「Ha, so cute. で、何してんだ?」
「…七夕飾りを作っておりました。」
「Ah?七夕?まだ早いだろ。」
「いえ…私が育ったところではこの時期にしていましたので。」
「どんな風にしていたんだ?」
「特別なことは何も…笹竹に作った飾りをつるし、短冊に願い事を書き、それを軒先に立てて置きました。海や川などで水浴びをすることもあるそうです。想い人がいる人達は織姫様と彦星様に己を重ね合わせ、逢瀬を楽しんでいました。」
「なんだ、そんなもんなのか。奥州の七夕祭りは派手だぜ!そうだ、桃。時期になったら城を抜け出して観に行かねえか?」
「まあ、素敵ですね。ですが、片倉様に叱られてしまいませんか?」
「固いこと言うなよ、honey。バレなきゃ問題ねえだろ?」
少年のような屈託のない笑みを見せる政宗様に、私もついつい顔が綻ぶ。
「…楽しみです。それより政宗様、短冊にお願い事を書かれませんか?」
「願い事?」
「はい。実は短冊を用意したのはいいのですが、何を書こうか迷っていました。ですから、短冊が残っているのです。からとりの葉から採った水で墨も磨りましたし、いかがですか?」
「手蹟が上達するっていう謂われか。いいぜ。」
政宗様の返事に筆を用意してもらうように頼んでから、五色の短冊を渡す。
何を願うんだ?
秘密です。
Ah!?なんで秘密なんだよ?
ふふっ、政宗様は何を願われるのですか?
なら、俺も『秘密』だな。
まあ!
そんな会話が楽しかったりする。
今日は七月七日。
七夕、一年に一度だけ遠く離れた恋人同士が会える日なのだから。
「Hey, honey. 何を願ったんだ?」
「琴の上達にございます。政宗様は何をお願いされたのですか?」
「俺は願いと言うか…宣言だな。天下統一、これだろ?」
勢いがありながら繊細な筆遣いで書き上げた四文字を見せながら政宗様が歯を見せる。
他にも奥州の平穏や五穀豊穣など筆頭らしい願いが書かれる中、一枚だけ政宗様の袖に隠れているものを見つけた私は何気なく手を伸ばした。
「あっ、桃!それは…っ!!」
「如何されましたか?書き損じでも致しまし…た、か…」
言葉が続かなかったのも仕方ないと思う。
そこに書かれていたものは異国語で綴られた甘い言葉だったのだから。
「…勝手に見るんじゃねえよ。」
「申し訳…ございません…」
油断をしていたためか、顔を赤くしながら政宗様はひったくるようにして問題の短冊を私の手から奪う。
それからゴホンとわざとらしく咳払いすると、私が書いた短冊を覗き込んできた。
「Ah〜、桃は…っと、箏の上達に五穀豊穣、豊漁か。俺と大して変わらねえな。」
「政宗様っ!勝手に見ないでくださいませ。」
「Honeyだって見ただろ?それで、最後の一枚は…what!?なんだ、コレ!なんて書いてあるんだ!?」
「…教えられませぬ。」
私が書いたのは、あの時代で使われていた文字。
その内容すらも政宗様と同じ…だなんて。
I wish you, and love me more than ever that of me.
政宗様のおそばにずっといられますように。
2015.07.01. UPIT
2016.07.07. EDIT