「政宗様、厨をお借りしたいです。」
自室にて寛がれていた政宗様を訪ねる。
「厨?Why?」
「作りたいものがあって…やはり無理でございましょうか?」
「…桃、料理が出来るのか?」
「…ここの厨で作れるかは分かりませんが…私が育ったところで、でしたら人並みには作れました。」
「食ってみたいな。」
「お手伝いして頂けるのでしたら。」
「All right. Honeyの手並を拝見するとするか。」
「あ、それと…出来れば誰も入ってこられないようにしていただきたいのです。」
「…ほう、嬉しい誘いだな。」
「ちっ、違いますからっ!」
「何が違うんだ?俺は何も言ってないぞ。」
「…っ!!」
ニヤリと口端を上げると、政宗様は私の手を引くようにして厨へ向かった。
動きやすい格好をするために打掛を脱ぎ、襷掛けをした私を見て政宗様が驚く。
「本格的なんだな。」
「せっかく作るのですから、失敗はしたくありません。」
「それもそうだな。俺は何をすればいい?」
「今はまだございません。少しお待ちください。」
政宗様にお断りしてから、事前に用意してもらった材料を取り出し準備を始める。
大量に卵を割り始めた私を見て、政宗様が思わず私の手首を掴んだ。
「…一体何を…」
「ふふ、やはり驚かれますね。」
「そりゃこれだけの量の卵は滅多に使わねえしな。何を作るつもりなんだ?」
「まだ内証でございます。お砂糖を少しずつ加えていただいてもよろしいでしょうか?」
泡立て器が見当たらなかったので菜箸を数組使い、今度は割った卵を一気にかき混ぜる。
一緒に砂糖も加えるので、重みが増す。
なかなかうまく混ぜることのできない私を見ていた政宗様が、ちょっと貸せといとも簡単に滑らかなとろみを作っていった。
交代したことで砂糖を加えることとなり、間近で見る彼のその手付きについ見惚れてしまう。
「…お上手ですね。」
「まあな。だが、桃も賢しい技を知っているじゃねえか。と、これでいいか?」
「ありがとうございます。」
「あと何が出来る?」
「では、牛乳を少しずつ入れてください。」
「I got it. …ちょっと待て、牛乳ってなんだ?」
「牛の乳でございます。栄養価が抜群なのですが、ご存知ありませんか?」
「What!?そんなもん口にしたら牛になっちまうだろっ!!」
…聞いたことがある。
世間で飲用が一般的になる前は、牛乳を飲むと牛になってしまうと信じられていたということを。
そんなことはあり得ないのに、大真面目に焦っている政宗様がおかしい。
申し訳ないことだが、クスリと笑いが零れた。
「迷信を信じていらっしゃるのですか?牛乳を飲んでも牛になりませんし、毛深くもなりません。」
「だがな…」
「信じられないのでしたら、私が飲んでみましょうか?」
「No!第六天魔王の真似をするんじゃねえ!!」
「第六天魔王…織田信長、ですか?」
「ああ。アイツも試してみたんだと。」
「ですが、牛にはなっていませんよね?それに、私も幼い頃は毎日のように飲んでいました。」
「…Oh, 手遅れか。」
「問題ありません。さ、入れてくださいませ。」
それでも政宗様は牛乳が入った器を持とうとはしない。
仕方なしに少しずつ注ぎ入れてはかき混ぜて、と一人で作業を進める。
そのうちに政宗様は諦めたらしい。
程良い量で牛乳を加えてくれた。
混ぜ合わさったそれを、茶漉しを通しながら小さな容器に入れていく。
その間に政宗様には、竈に火を起こして湯を沸かしてもらった。
沸騰した湯の中にたくさんの容器を入れ、火を弱める。
少し経ってから火から外し、充分に冷ました。
「…これは?」
出来あがったそれを手にとり、政宗様が鼻を近づける。
「甘い匂いがする。経験のねえ匂いだな。」
「カスタードプディングと申します…プリン、と呼ぶことが多いですが。南蛮の甘味にございます。」
「Amazing!食してみてもいいか!?」
「どうぞ。」
匙をつけながら差し出せば、政宗様は幼子のように目を輝かせながら口に運んだ。
「…うまいな。」
「お口にあったようでよかったです。」
「俺にとっちゃ少し甘みが強いけどな。」
「それならば、次はお砂糖の量を減らしてみましょう。」
「また作るのか?」
「機会があれば。政宗様、いつも善政を布いてくださりありがとうございます。」
「…は?」
「毎日奥州のために細かな差配をしてくださって、感謝申し上げております。これが少しでも政宗様の疲れを癒すことが出来ればよいのですが…」
「どうしたんだ?急にそんなこと言うなんて。」
今日は十一月二十三日。
勤労感謝の日、勤労を尊び、生産を祝い、互いに感謝しあう日なのだから。
「日頃思っていることを形に表してみました。差し出がましいかもしれませんが…」
「…Thanks. それにしても、こんなに大量に作ってどうするんだ?」
「喜多さんをはじめ、私についてくれている人達に気持ちとして渡すつもりです。」
「随分と太っ腹だな。」
「そうでしょうか?いつもしてもらっていることを考えれば本当に気持ち程度のものなので、むしろ申し訳ないと思っているのですが…」
「御正室様直々に御下賜いただけるんだから、有難がるだろうよ。」
「小十郎様や成実様にも受け取っていただけるでしょうか?」
「What!?アイツらにはやらないでいいっ!」
「ですが…」
「桃の手製を食っていいのは俺だけだ、you see?」
2015.11.01. UPIT
2016.11.23. EDIT