Main



花は輝き月は笑む 番外編

越鳥南枝胡馬北風 卯月 



「佐助さん、苗木ってありますか?」

私の唐突な質問に、佐助さんは眉を顰めて聞き返した。

「苗木って何の?」
「何でもいいですけど…椿はありますか?」
「椿?椿を植えるの?う〜ん…旦那が許すかなぁ?」
「なんで…」

と、途中まで言って気がついた。
椿という花は花弁を散らさずポトリと落ちる。
それはあたかも首を落とすかのように…。

「…縁起が悪いから駄目、でしょうか?」
「知ってた?好んで植える武家もあるし、茶花として愛でられてはいるんだけど、散り際がね〜。俺様は潔くて好きなんだけどなぁ。」
「私も華やかな雰囲気で好きです。あの、椿ではなくてもいいです。何か苗木を…」
「あ、でも旦那も茶を嗜んでいるから気にしないかも。少し待っててくれる?旦那に聞いてくるよ。」

シュンと消える佐助さんは相変わらず心臓に悪い。
この世界に来て何度も見たはずなのに、慣れることはできそうにない。
こういう時は、息を吐き出し気分を変えよう。
さて…苗木がダメならどうしようかな。
別に木じゃなくてもいいのだから…
ぼんやりと考えていると、ダダッと廊下を走る足音が聞こえてきた。



「桃殿、失礼致す。幸村でござるが…」
「はい、どうぞ。」

私の返事にスッと襖が開いた。
執務をされていたのであろうか、袴姿の幸村様が若干戸惑うような顔で入ってくる。
その後ろには佐助さんが苦笑いながらついてきた。

「椿の苗木を所望されていると聞き申した。この城に植えられるのでござろうか?」
「許されるのであれば、ですけれど。あっ、いえ!もちろんお城ではなくても…」
「いや、植えられるのは構いませぬ。いかほど必要でござるか?」
「一本で充分です。ありがとうございます、幸村様。」
「容易いことでござる。佐助、調達して参れ。」
「よく言うよ…『容易い』って、用意するの結局俺様じゃん…」

ブツブツと言いながらもすぐに苗木を持ってくる佐助さんには驚くばかりだ。

「すみません、佐助さん。余計な仕事を増やしてしまって…」
「あは〜。いいんだよ、気にしないで。」

はい、と渡されたそれは細くて弱々しい。
しっかりと植えてあげないとすぐに枯れてしまいそうだ。
第三者に面倒を見てもらわなければ生きていけない椿は私のようで…。
フッと鼻で笑うと、私は与えられた部屋に面した庭に下りた。



手ごろな枝はない。
しかたなく手で掘り始めた私に、後ろから焦ったような声が止めに入った。

「ちょっ…ちょっと!桃姫ちゃん、何やってんの!?汚れちゃうでしょ!!」
「え…でも、植えるなら地面を掘らなければ…」
「そんなの俺様がするから!終わるまで旦那のそばで待ってて!」
「いえ、これは自分でしたいです。着物は汚さないようにしますから。」
「だ〜め!俺様が掘る。」
「桃殿、佐助の申す通りでござる。終わるまで待たれてはいかがか。」
「…自分で掘りたいです。幸村様、駄目でしょうか…?」
「ぐっ…」
「お願いします…」
「…桃殿という方は…仕方ありませぬ。佐助、申される通りにせよ。」

観念したように溜息をつきながら幸村様は佐助さんに言ってくれた。

「ありがとうございます。幸村様、佐助さん。」
「…桃姫ちゃんってさ、結構策士だよね…」

佐助さんも肩を竦めながら場所を譲ってくれる。
彼の言葉にアハハ…と乾いた笑みが零れた。
幸村様は女の人と接することが極端に少ない。
だから頭を下げられるとどう対処していいのか分からないらしく、いつも固まった挙句に許してくれる。
あまり乱用しないようにはしているが、どうしてもの時は私もこの技を使わせてもらっていた。

「すみません、自分でしたかったので。」
「無理そうだったら直ぐに言うんだよ。それから、終わったらきちんと手を洗うこと。」
「はい。やり方があっているか見ていてもらえますか?」
「了〜解。終わったら八つ時にしようね。」
「八つ時!?某、みたらし団子がよい!!」
「…ハイハイ、用意してあるから。それにしてもさ、どうして椿を植えたいと思ったの?」
「おお、某もお聞きしようと思っていたのでござる。何故このようなことを…?」
「…椿でなくてもよかったのですが、今日は…」



それは…
私がいた世界では、今日が四月二十九日だから。
『昭和の日』という特別な日だから…。



「この木がしっかりと成長すれば、椿油が取れますよね?」
「よく知ってるね〜。因みに葉は止血薬になるんだよ。」
「へえ!そうなんですか!?椿って多用できていいですね。それなら、椿油が取れたら幸村様の髪の毛に塗らせて下さいね?」
「あっ、桃姫ちゃんやってくれるの?俺様、助かっちゃう!」
「っ…なっ、何を言って…破廉恥でござるぅううう!!」


2014.04.01. UPIT
2016.04.29. EDIT




(4/42)


夢幻泡沫