空を見上げながらポツリポツリと口ずさんでいた私に、通りがかった幸村様は不思議そうに首を傾げた。
「桃殿、失礼致す。今のは…」
「あ、幸村様。私が育ったところで歌われていた歌です。」
「歌でありましたか。『ちまき』というのは、あの食べる粽のことでござるか?」
「そうですよ。」
すると、途端に幸村様の目が輝く。
「某、粽も好きにござる。」
「私も好きです。甘くておいしいですよね。」
「甘い!?粽が甘いのでござるか?」
「え…それなら、上田の粽は中華の方ですか?」
「中華?申し訳ござらぬ、中華というのは?」
「えっと、具入りのおこわのようなものです。」
首を捻る私以上に捻り返しながら幸村様は眉を寄せた。
「某の知っている粽は、黄粉をつけて食すのでござるが…」
「黄粉…をつけるんですか?初めて聞きました。」
互いに聞いたことのない食べ方にどのようなものだろうかと想像してみる。
けれどやはり経験のないものは想像できなかった。
「…口惜しゅうござる。甘い粽やら中華…でござっただろうか、某、思い描ませぬ。ぬう…食べてみとうござる。」
「私も黄粉を付けて食べる粽がどんなものか知りたいです。」
「なれば、今日の八つ時は粽にいたしましょうぞ!佐助ぇ!!」
幸村様が高らかに呼べば、瞬時に佐助さんが現れる。
その顔は思いっきり嫌そうに歪められていた。
「…旦那〜、白米って高いんだよ。そう簡単に粽を作れなんて言わないで。」
「ぬ。なれど上田の粽を知りたいと申される方がいれば、ご覧に入れたいと思うのも城主としての役目であろう!」
「旦那はかこつけて食べたいだけでしょ!」
「そ…のようなことはっ…!」
「ないって言い切れるの?だったら俺様、桃姫ちゃんの分だけ作ればいいよね?」
「ぐっ…」
言葉に詰まって黙ってしまった幸村様を放っておいて、佐助さんは私を見た。
「ここの粽を食べたい?」
「はい!」
「しょうがないなぁ。俺様、作ってあげちゃう!」
「佐助!某の時とずいぶん態度が違うではないか!」
「そりゃねえ。女の子に笑顔で食べたいなんて言われちゃったら、俺様はりきっちゃうもん!」
「…減給。」
「ちょっ…そりゃないぜ、旦那。分かった、旦那の分も作るから…」
「うむ!」
途端に機嫌がよくなった幸村様に佐助さんはハアと深い息を吐き出した。
「…まあ、でも俺様も桃姫ちゃんの言う甘い粽やら中華粽に興味あるな。どんなんだか詳しく教えてくれない?本当は実物があれば一番なんだろうけど、流石にね〜。」
「材料があれば作れますけど…」
「まことにござるか!?用意致します故、是非に!!」
「だから、旦那!」
「佐助、言われたものをすぐに用意するのだ!!」
「…ハイハイ。」
幸村様に急かされる様に材料を言ってみると、すぐに用意すると佐助さんは大手を振るった。
そして待たずに厨へ案内された。
「うわっ、ずいぶんと長細いね。」
私の手元をしきりに見ながら佐助さんが驚く。
「何でこの形なのかは知らないんです。きっと由来はあるのでしょうけれど。」
「由来ねえ〜。」
出来あがったものを手にとっていろいろな方向から眺めながら佐助さんは苦笑した。
「旦那は気にしなさそう。」
「ふふっ。そうかもしれませんね。」
「これで出来上がり?」
「いいえ、もう一度蒸して笹の香りを粽に移します。口に入れた時にふわっと香っておいしいですよ。」
「ふ〜ん。じゃあ俺様、蒸籠の用意するね。」
「ありがとうございます。佐助さんは出来あがったんですか?」
もちろん、とにっこり笑う姿に私は思わず尊敬してしまった。
「早いですね。お料理が上手って羨ましいです。」
「お任せあれってね。」
「やっぱり毎日ご飯を作っていると違うんだなぁって改めて思いました。幸村様が自慢されるのも分かります!」
「あは〜、あまり褒められてるような気がしないけど…ありがとう。蒸し上がったらお茶と一緒に持ってくから、桃姫ちゃんは先に旦那のところへ行ってて。」
「蒸し過ぎると固くなってしまうので2、3分…え、と…少しゆっくり目に百数えるぐらいでいいと思います。」
「了解。」
佐助さんにお任せすれば間違いない。
目安を言えば分かってくれたようだ。
出来あがりを楽しみにして私は幸村様が待つ部屋へと向かった。
「おいしゅうござる!」
「ありがとうございます。よかったです、失敗しなくて。」
「この控えめな甘さもさることながら、笹の香りが何とも上品で…。味は団子と似てなくもないが、これもまた食べたくなりますな!」
「気に入ってもらえましたか?」
「もちろんにござる!」
それならば、と私の側に置かれた粽も差し出せば、幸村様は目を大きくされた後に慌てて首を振った。
「いやいや、そのようなつもりで言ったのでは…っ!」
「幸村様に褒めてもらえてとても嬉しいんです。私は上田の粽を食べたいので、よかったら食べてもらえませんか?」
「…では、ありがたく。」
「こちらこそ。」
「それにしても、先程は何故あの歌を歌われたのだろうか?『五月五日』と言えば端午、まだ先にござる。」
「そうですね、でも…」
それは…
私がいた世界では、今日が五月五日だから。
『こどもの日』という特別な日だから…。
「幸村様も背くらべをされるんですか?」
「今はもういたしておりませぬ。なれど、まだ童だった頃は父上や佐助に測ってもらったでござる。」
「幸村様の小さい頃、ですか…可愛かったのでしょうね。」
「なっ…、何てことを申されるのでござるっ!」
「柱の傷はもう残ってないですか?」
「…いや、確かまだ残っていたはず。懐かしいでござるな。八つ時を終えたら、共に見に行きませぬか?」
「わぁ!楽しみです!」
2014.05.01. UPIT
2016.05.05. EDIT