
Main
花は輝き月は笑む 番外編
三秋の思い 01
「…んっ…は、ぁ…あっ…」
「は…ここ、か…?」
「ま、っ…あぁっ…まっ…むね、さ…あっ…」
「桃…すげえな、飲み込まれそうだ…」
「ん…やぁ、っ!…あ、あっ…も、むり…」
「…ぅ、く…」
「あっ、やっ…やっ…!あぁっ、まさ…ねさま、ぁあっ…だめ…やっ、あっ…!」
「…出す、ぞ…っ…!」
「ん…ふぁ…まさ、むっ…ぅあ、っだめ…あっ…あぅ、ぁ…んっ…ぁあ、ああっ!!」
「くっ…桃…っ!」
愛される喜びを知った。
満たされる温もりを覚えた。
大切に想う尊さを学んだ。
肌を重ねたあと政宗の腕の中で抱かれて眠る時間が、桃花にとって心が落ち着く時間となって久しい。
全てを預けて深く眠る桃花を腕の中に閉じ込めて眠る時間が、政宗にとって安らげる時間となって久しい。
政宗が桃花を手放す刻はなく、仲睦まじい二人に周囲の期待はいやが上にも高まっていた。
「あれ?」
そう言って首を傾げたのは成実だった。
「どうした?」
「んー、いま気付いたんだけど…最近、桃姫あまり見てないなあって。」
「…」
「なんかずっと梵が離さない状態だったはずなのに、ここんとこ一緒にいるとこを見かけないよねー。」
「ああ、まあ…」
「桃姫に嫌われた?」
「No!」
くわっと瞳を見開いて叫んだ従兄に、成実はニヤニヤと気味の悪い笑いを浮かべる。
「じゃあ、どうしたの?」
「何でもねえよ。ここのところ、微熱が続いてるって臥せっているだけだ。Honeyは問題ないと言ってるんだが、喜多が聞かなくてな。」
政宗が溜息をついて苦笑う。
喜多が目を光らせていれば、同衾してもただ眠るだけ。
すべらかな肌に触れているのに、我慢し続けなくてはいけないのが…。
その現状が非常にツラい。
「…喜多に敵う猛者はいないよね。」
「まあな…」
「桃姫、早く治るといいね。」
「…」
「…どうしたの、梵?まだ心配事でもあるの?」
「…」
「何だよー、俺と梵の仲だろ?言ってみなってば。」
「Ah〜…桃のやつ、ちっと食が細くなった。」
「え!?それ、本当に大丈夫?梵が喜多の知らないところで無理させてんじゃないの?」
「してねえよっ!出来るもんなら疾うにだっ!!」
「…ははっ…だよね…」
同情の視線を寄こしてくる成実を軽く睨んだ政宗は、その感触を思い出すように手指を動かす。
つられてだらしなく緩んだ頬に、成実は眉を顰めた。
「梵ちゃん、やーらしい!」
「Shut up!話を振ってきたのはお前だろ!?」
「奥州筆頭がそんなんじゃ困るんですけど?」
「うるせえっ!!」
「…でも、真面目な話。桃姫、心配だな。」
成実の言葉に、その場がしんと静まる。
それを破ったのは、バタバタと近づいてくる慌てた足音だった。
「政宗様っ!」
「…小十郎、どうした。」
「失礼致します!」
逼迫した様子で襖を開けたのは竜の右目だった。
「…何かあったか?」
腹心の態度に政宗の声色が固くなる。
成実も何事かと先程までの軽薄な雰囲気をかき消し、即座に動けるように小十郎を注視した。
「桃姫様がお倒れになったと義姉上からの言伝にございます!」
「What!?」
「梵っ!」
「…詳しく教えろ。」
「御庭に出ておられたところ、急に倒れられたとの由にございます。今は御部屋にて…」
小十郎の言葉に政宗は席を蹴る。
そのまま桃花の部屋に飛び込もうとしたのだが、襖の前に控えていた喜多に止められた。
「Get out!」
「何と仰られているのか分かりかねます。政宗様、どうぞ落ち着きなされませ。」
「退けっつったんだよ!桃はっ!?」
「休まれておいでにございます。僭越ながら侍医殿をお呼びいたしておりますので、じきにお越し下さるでしょう。」
「…一つ聞く。なぜ桃は庭になんて出た?今日も休んでいたはずだろ?」
「申し訳ございませぬ。桃姫様におかれましては、御加減もよろしいようにお見受け致しました。また近頃は伏せておられてばかりでしたので、御気分を変えていただきたく御庭に出たいとの仰せに従いました。御叱りは喜多が受けます。」
「I see. 桃の顔を見たら戻る。…それくらい構わねえよな?」
「畏まりました。」
すっと襖を開けた喜多を一瞥すると、政宗は褥に収まっている桃花のそばへ足早に寄る。
今朝よりも蒼白いのは血が通っていないためだろうか。
するりと撫でた頬は温かく、それだけで強張っていた思考が少しほぐれた。
「桃…」
返事はない。
だが規則正しい寝息に深く息を吐き出して、政宗は閉じられた唇に己のそれを寄せて部屋を後にした。
2016.01.07. UP
← * →
(25/42)
夢幻泡沫