Main



花は輝き月は笑む 番外編

甘露の日和 05 



「Good boys. 全部洗ってきたか?」
「だっど!きれいになったぜ!」
「そうか、そうか。ほら、褒美だ。食ってみろ。」

早速とばかりに洗った板に乗せられたのは、鶯色の餡がかかった餅だった。
わあっと歓声を上げて口に入れた二人の頬が上気する。

「だっど!うまいっ!!」
「お侍様!おいしいですっ!!」
「だろ?」

『うまい』『おいしい』と連呼しながら食べている二人に満足気な顔をした政宗は、桃花にも板に乗せて差し出す。

「…いつの間に。」
「屋台にあるもんを少し使わせてもらったんだよ。変わり種があった方が評判を呼ぶだろ?」
「そうですね。いただきます。」

伊達政宗のお膝元で、鶯色の餡がかかったお餅と言えば…
一口食べた桃花は予想通りの味に、緩やかに口角を上げた。

「ずんだ餅にございますね。美味しいです。」
「口に合うか?」
「ええ。甘さが控え目で、まろやかで、とても上品な味です。」
「そうか。」

子供達だけでなく桃花にも上々の評判に、政宗の笑みが濃くなる。
わいわいと食べていた桃花達がふと周りを見ると、夜市に来た人々が少し遠巻きながら集まっていた。

「…藤次郎様。」
「Ah〜, 余計な事しちまったか?」

頭を掻いて困った素振りを見せる政宗に、桃花はクスリと笑うと立ち上がった。

「源吉くんのお兄様。」
「はい。」
「このままご商売を始めては如何でしょうか?私達も手伝いますので。」
「はっ!?い、いえ…これ以上、御侍様の御手を煩わせるわけには…」
「いや、面白そうじゃねえか。やらせろよ。Hey, boys. 食い終わったら手伝えよ。」
「やーっ!」
「はい!」

源吉の兄から襷を借りて袖を押さえると、政宗はニッと笑って準備に取り掛かる。
桃花も自分の食べていたものを片付けると、遠巻きにいる人々にいらっしゃいませと声を掛けた。
徐々に伸び始める行列を捌くのは桃花の役目。
勘定計算は虎菊丸と源吉の役目。
虎菊丸の勉学を見ているので、己が子に対してそこまで心配はなかった。
驚くべきは源吉だった。
素早い計算はほぼ間違いなく、虎菊丸に小銭の種類や換金相場を教えながらのやり取り。
政宗も桃花も舌を巻くばかりだった。
下拵えは源吉の兄の役目。
そこからの調理は政宗の役目。
各自が己の役割をしっかりとこなしたおかげか、源吉の屋台の行列は途切れることがなかった。
気がつけば原材料もすっかり無い。
残念がる客に丁寧に詫びを入れて、桃花は販売を打ち切った。



「兄上っ!今日は一段と売れましたね!!」
「…ああ。これも御武家様のお陰と言うものだろう。さあ、御礼を申し上げねば。」
「はいっ!!」

ありがとうございますと弾んだ声で礼を言う源吉の頭を、政宗は乱暴に掻き撫でる。

「きっと母上も喜ばれるだろうぜ。」
「はいっ!」
「桃、悪ぃが虎菊と源吉を少し見ていてくれねえか?」
「はい。」

桃花が頷くのを見て、政宗は源吉の兄とその場を離れた。

「御武家様。今日の事、何と御礼申し上げてよいやら…まことにありがとうございます。」
「いや、気にすんな。それより…アンタ、町人の生まれじゃねえな?」
「っ…」

鋭くなった政宗の視線に、源吉の兄の雰囲気も鋭くなる。

「俺と同じ…武門の出、だろ?」
「…」
「どうしてこんなところで商売なんかしているんだ?」
「…」

政宗の鋭い視線に屈服することなく、源吉の兄は見返す。
しばらく睨み合ったような感じになった後、政宗は肩を竦めて視線を緩めた。

「言いたくないってんなら別にいい。だがな、これでも俺はアンタに感心してんだぜ?」
「…と、申されますと…?」
「アンタの立ち居振る舞いは、こんなところじゃ身につかねえ。どこで身に付けたかは知らねえが、アンタはそれを忘れずにいる。源吉も頭が回りそうだし、年嵩の者の言うことをしかと聞くじゃねえか。ちょっとやそっとじゃ手に入れられるもんじゃねえぞ?」
「…高く買っていただいているようでございますが、拙者は…」
「『拙者』、『母上』、『兄上』…なんて言葉は、町人は使わねえよな?」
「っ!」
「暮らしは落ちても心は捨てねえ、ってか。…アンタ達、武士に戻る気はあるのか?」
「…」
「これも縁だ。少しくらい手助けしてやれるかもしれねえ。」
「…手助け、とは…」
「その気があるなら、城に来な。」
「…」
「源吉も共にな。虎菊の相手がほしかったところだ。」
「貴方様は、一体…」
「It's a secret. アンタ、名は?」

楽しそうにクツクツと笑う政宗を、源吉の兄は戸惑ったまま見つめる。
その目が段々と大きくなっていくことで政宗の笑みが深まった。

「奥州の地におられる…片目の御侍様…」
「…」
「異国語を、操られる…御方…ま、さか…」
「名は?」

再度問われた事に、源吉の兄は平伏して答える。
足元にひれ伏す彼に邪魔したなと告げると、政宗は桃花と虎菊丸に帰るぞと促した。


2017.01.16. UP




(33/42)


夢幻泡沫