
Main
花は輝き月は笑む 番外編
甘露の日和 10
「まずは おわびいたします。おくがたをかどわかしたのは えちごのたみでした。まことに もうしわけありませぬ。」
「どういう事だ?」
「わたくしのしらぬところで かしんがむりなようきゅうを むらびとたちにかしたようです。むらびとたちは きゅうしながらも したがっていたのですが、どうにもならなくなり このようなしょぎょうに でてしまったようです。」
桃花が城に来てから、謙信は例の男達から事のあらましを問い質した。
問題の名主も、急遽引っ張ってこられた。
その結果、判明した事が謙信を深く落胆させた。
名主が女を集めていたのは、その周辺の管理している武将が要求したから。
その武将は古くから謙信に仕えていて、謙信も頼りになる一人だと認識していた。
だからこそ、知らぬところでそのような事をしているとは思いつきもしなかった。
「このようなことになってしまい、もうしひらきのしようもございませぬ。いかようにも しょばつなさってください。」
「処罰など決まっているだろ。その家臣とやらと男達は晒し首だ。」
「政宗様っ!」
思わず桃花が割って入る。
怖い思いはしたものの、なにも人の命を奪う事など望んでいない。
「… Honey, アンタは黙ってな。この程度で済むんだから安いもんだろ?え、軍神さんよ?」
「いかにも。」
政宗の声が低い。
それは、彼が憤っている証拠に他ならない。
謙信も反論せずに黙って受け入れる姿勢だ。
「ですが、政宗様…」
「桃姫、お前は越後が服従している国の正室だ。あいつ等はその御方を拐かしたんだ。原因を作った者と首謀者のみで済むのは、かなり寛大な処遇だぞ。」
桃花達のさらに後ろに座っていたかすがも受け入れる様子だ。
被害者である桃花が割って入ったことに驚いて、一般的な処遇と比較して説明する。
「かすがちゃん…だけど、人の命は何よりも尊いものだから…」
「桃のその考えは立派だ。だがな。戦国の世では、真っ先に己を滅ぼすぞ。」
「…戦国の世は終わりました。だからこそ、これからは人を大切にする政を布いていかなければならないのです。此度は未遂に終わりました。ですから…」
「No. 俺は何よりも桃が大事なんだ。誰かがアンタに何かしようと考えただけでも、俺にとっては死に値するってこと…覚えておくんだな。」
「政宗様…」
「おくがた。おきもちはたいへんありがたいものですが、どくがんりゅうやつるぎの いうとおりでございます。」
「上杉様まで…。ですが、信頼されていた家臣の方なのでございましょう?」
「だからこそ、ゆるされぬのです。ぶしとは おのれをりっし つねにしょうじんせねばならぬのです。おのれがてほんとなり たみにしめさねばならぬところを、あろうことか たみをくるしめるなどごんごどうだん。わたくしも おなじようにかんがえておりましたゆえ、なさけはむようです。」
「…では、せめて村人達の処遇は減じてくださいませ。あの人達はしたくもないことを強要されていたのと同じです。もちろん此度の事はしてはいけない事でございますが、上がきちんと政を行えば民も安心して暮らせます。処遇の軽減をお願い致します。」
嫁いできた頃と変わらねえな。
この優しさがいつか桃の身を滅ぼさねえといいんだが。
…だからこそ、俺はそばにいるんだ。
俺が守ってみせる。
低く伏して頼む桃花に、政宗は深く息を吐いた。
「…軍神。」
「はい。」
「村人の処遇はアンタが決めろ。きつく灸を据えてやれ。」
「…いたみいります。きまりしだい おしらせにうかがいましょう。」
「ああ。」
「おくがたも かんだいなおこころを ありがとうございます。」
「いえ…差し出がましい事を致しました。申し訳ありません。」
「えちごのたみのことを おもっていただき、かんしゃいたします。さて、どくがんりゅう。いま しゅったつしては、じきにくらくなってしまうでしょう。おいそぎでなければ、こよいはこのしろにとまっては いかがでしょう?みょうにち しゅっぱつすればよろしい。」
「Ah〜、そうだな。言葉に甘えるとするか。」
「それは よかったです。おくがた、えちごのしょくも おいしいですよ。うでによりを かけさせましょう。」
「ありがとうございます。楽しみです。」
温和な顔付きになった政宗と謙信にほっと息を吐き出し、桃花も微笑む。
柔らかくなった雰囲気に、虎菊丸の体からも力が抜けたようだ。
謙信も名立たる戦国武将の一人だ。
虎菊丸を見なくても、その気配で様子を察することができる。
すっと体の向きを入れ替え虎菊丸を見ると、謙信は頷きながら竜の子の目を真っ直ぐに見た。
「おのれのすべてでかんじとり、しっかりとうけとめることが できたようです。どくがんりゅうに そのおくがた。おふたりはおこに よきしつけをされているとみうけます。おうしゅうは あんたいですね。」
にっこりと微笑むと、謙信は城の侍女に政宗達の部屋の用意や晩餐の準備を命じた。
2017.02.27. UP
← * →
(38/42)
夢幻泡沫