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花は輝き月は笑む 番外編
甘露の日和 11
「政宗様。」
次の日。
今日こそは甲斐へと少し早めに走らせている馬の上で、桃花は政宗を見上げた。
「何だ?」
「…私は甘いのでしょうか?」
「An?」
「昨日の事です。」
「…そうだな。」
濁すことなく『甘い』と言われ胸がずきんと痛んだが、返ってきた柔らかい声になぜか安心する。
曇ってしまった桃花の顔をちらりと見ると、政宗は肩を抱き寄せて囁くように耳元に口を近づけた。
「桃はそれでいいんだよ。そうやって育ったんだろ…桃花?」
「政宗様…」
「アンタの世界がこことはだいぶ違うってのは知ってんだ。無理にこっちに合わせる必要はねえ。…きつい言い方しちまって悪かったな。」
「そんな…。こちらで生きていくと決めた以上、私はこちらのルールを身に付けなければなりません。ですが…」
「人命尊重はアンタの世界の根底観なんだろ?」
「…はい。」
「さっき桃が言ったように、戦は終わった。これからは武力よりも知力で国を治める事が重要になる。アンタのruleを漸く広められるんだ。しっかり浸透させてくれよ。」
「…ありがとうございます。」
「それから…」
そう言うと政宗は肩を抱いている手にぐっと力を込め、もう片方の手を桃花の頬に添えた。
「政宗様…手綱っ…!」
「何度俺と馬に乗ってんだよ?手綱を握ったままなんてcoolじゃねえ。」
「そういう事ではありません。安全の為に…」
「Hey, ちょっと黙ってな。」
憮然とした顔がいきなり迫ってくる。
驚いている桃花の眼前で、その顔は緩やかに笑い唇を重ねてきた。
「…っ!」
「…虎菊に先を越されちまったけどな。I love you, more than anyone in the world.」
「政宗様…」
「無事で本当に良かった。桃がいなくなると一瞬でも考えると、生きた心地がしなかったぜ。」
「政宗様のお顔を見た時、私もとても安心致しました。探してくださってありがとうございます。」
己の頬にある大きな手と同じように、桃花も政宗の頬に手を添える。
「怖い思いもしましたけれど…家族でこうして旅ができた事、とても嬉しく思います。」
「ああ、そうだな。」
「虎菊にとっても、学ぶことは多かったのではないでしょうか。私も、虎菊があそこまで逞しくなっているとは思いもしませんでした。子供は日々成長しているのですね。」
「桃が連れ去られた時、アイツすごく悔しそうにしてたぜ。」
「ふふっ。それだけ愛されているのですね、私。『あいらぶゆー』と、久し振りに虎菊の口から聞きました。それから、久し振りに共に寝ることもできました。嬉しいです。」
「I love you, too.」
「ありがとうございます。政宗様はこの旅、いかがでしたか?」
桃花の問いに政宗はふと考える。
家族なんてもん、俺は期待なんてしてなかった。
伊達の宗主だからいつか室を娶る。
だが、どうせ俺の右目を見て室も子も避けるのだろう。
…と。
母上のように。
家臣のように。
けどな、桃は違った。
くすぐってえ時もあるが、こんなに穏やかに過ごせるとは思いもしなかった。
家族というものはいい、大切にしたい。
もう一度そう思わせてくれたのが桃だからな。
だから、大事にしてえ。
俺の全てを懸けて。
「…悪くなかったな。」
政宗は嬉しそうに笑んで再度ゆっくり唇を重ねた。
「信玄公、無沙汰している。」
「おお、政宗殿。遠路はるばるよく来られた。それに、桃。久し振りじゃのう、会いたかったぞ。」
「ご無沙汰致しております、父上。私も父上にお会いできて嬉しいです。」
「ますます美しゅうなったようじゃ。どれ、近くで顔を見せてくれないか?」
「ええ、もちろんにございます。ですが、まず…虎菊丸、挨拶をしなさい。」
「おはつにお目にかかります。伊達政宗がちゃくし、虎菊丸にございます。こたびは上田へのおまねき、まことにありがたくぞんじます。」
「おお、おお!何と賢い子じゃ。虎菊丸、儂が武田信玄じゃ。そなたの母の義父だぞ。」
「おじい様にお会いできて、とてもうれしいです。」
「儂も嬉しいぞ。どれ、こちらへ参れ。」
あの威厳漂う顔はどこへ行ったのか。
眦を最大級に下げ、信玄は虎菊丸を呼び寄せ膝へ乗せた。
初めて会う義祖父に虎菊丸も興味津々だ。
じっと顔を眺めたり、体をぺたぺたと触ったりしている。
「こら、虎菊。」
「よいよい。桃もそう構えずにもっと楽にせい。」
「…ありがとうございます、父上。遅くなってしまい申し訳ありませんでした。」
桃花が苦笑しながら謝罪を述べていると、背後から大丈夫だよ〜と声がした。
「大体の事はかすがから聞いてるから。」
「佐助さんっ!」
「桃姫ちゃん、お久し振り〜。ついでに竜の旦那も。虎菊丸、大きくなったね。」
「ええ。」
「桃殿、お久しゅうござる。上田へよう参られましたな。」
「幸村様、お久しぶりです。お会いできて嬉しいです。」
「いかがでござるか、久方振りの上田は?」
「はい、本当に久し振りで…。また来る事が出来て嬉しいやら、懐かしいやら、胸がいっぱいです。」
「それはようござった。ゆっくりとして行かれよ。」
「ありがとうございます。後ほど、奥方様ともお話がしたいです。」
「おお、それはようござる。御方も喜ぶであろう。政宗殿、某達も一つ手合わせといきませぬか?」
「受けて立つぜ!」
「ちょっと二人ともっ!いい加減落ち着いたら!?俺様、修繕するのはもう勘弁だからね〜!!」
「どれ、虎菊丸。儂もそなたの稽古の相手をしてやろう。」
「いえすっ、ぐらんぱ!」
「父上っ!虎菊はまだ幼い故、是非とも手加減をお願い致しますっ!!」
「行くぞ、虎菊丸!」
「やーはーっ!!」
「Hey, 俺達も行くぞっ!」
「漲るぅぁあああっ!!」
「あ〜、もうっ!!何か壊しても俺様もう知らないからねっ!!」
誰からともなく笑いが起きる。
久し振りに会っても変わらない関係に、それぞれの顔は綻んでいた。
2017.03.06. UP
99999HITS記念リク。
なお様より『花は輝き月は笑む番外編、3人で武田まで挨拶に行く』です。
旅の途中色々な街や村に寄るたびに起こるトラブルやハプニングを3人で解決し、絆を深めてたどり着く。
と、ご要望いただきました。
実際、トラブル・ハプニングだらけの旅ってどうなのだろう…。
だけど政宗様やその子は、そういう事に強そう(笑)
ちなみに夢沫は激ヨワですよ…。
なお様はとても優しい方で、『政宗様に幸せになって欲しい〜!!』といつも気にかけてくださっています。
今回の旅で3人の絆と愛情が深まっているといいなぁ。
それから、申し訳ありません!
リクエストで『甲斐までたどり着く。奥州帰還まで。』といただいたのですが…。
この夢主ちゃんは甲斐にいたことがなかったんですよね。
ですので、武田の地で思い入れのある上田を目的地にしました。
帰途もハプニングだらけ…は流石に政宗様達に申し訳なくて、たどり着いたところでhappy endとさせていただきました。
なお様、リクエストをどうもありがとうございました。
勝手にご希望の設定を変更してしまい申し訳ありませんでした。
政宗様は幸せになれた…でしょうか?
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夢幻泡沫