灯りをつけましょ 雪洞に
「こんな早くからか?」
お花をあげましょ 桃の花
「奥州にゃ、まだ咲いてねえな。」
五人囃子の 笛太鼓
「Ah, 小十郎でも呼んでくるか?」
今日は楽しい…
「…楽しそうだな。」
呆れたような笑いにふと現実に戻る。
「政宗様…失礼致しました。」
「いや、my honeyは随分とご機嫌だと思っただけだ。」
「ふふっ、お雛様が豪華なものでつい…」
「奥州一の人形師に作らせたからな。」
「お内裏様がどこか政宗様に似ていて、端正で魅力的です。」
「お内裏様…?男雛と女雛で内裏だろ?」
「え?お内裏様が男の子で、お雛様が女の子ではないのですか?」
「…No, その認識は間違ってる。一対で内裏、雛は全てを合わせた呼び方だろ?番がいなけりゃ祝いにならねえだろうが。」
「なるほど。」
「俺とアンタも同じだろ?俺の番は桃だし、またその逆だ。隣にアンタがいないなんて考えられねえぞ。」
「ま、さ宗様…」
「なあ、アンタは?アンタはどう思ってる?」
「…政宗様と同じように思っております。」
「…足りねえな。」
「え?」
「桃の言葉で聞きたい。『俺と同じ』と言うが、一体何が同じなんだ?」
ニヤリと笑いながら近づいてきた政宗様に顔が赤くなる。
けれどどこか不安そうな色が瞳に隠れていて、私の夫君は仕方のない方だと頬が緩む。
いくら言葉にしても足りない。
いくら聞いても満足できない。
それは、彼が育ってきた環境が過酷なものだっただからで。
しつこいと言っていいほど繰り返し聞かれるのは、それをしても許されると分かっているからで。
…私を信頼してくださっているからで。
「なあ、honey?」
「…同じです、全て。政宗様以外の方の隣にいるなど、私も考えられません。政宗様が許してくださる限り、私はあなたの隣に居とうございます。」
「…」
「I take all of me and love you.」
「っ…!」
普段は恥ずかしくて言えない言葉を素直に口にすれば、グラリと視界が揺れた。
背中の痛みに思わず目を瞑ると、唇にも何かがぶつかってくる。
角度を何度も変え、食まれ、舐られ…
「まっ、待ってくださいっ…!」
「我慢できねえ。抱かせろ。」
「まだっ…陽が…」
「可愛いことを言った桃が悪い。」
「ぁ、ゃあっ…」
「くそ…っ、さっきの言葉は卑怯だぞ。」
「…ま、さ…むね、様っ…」
「優しくできねえが…許せ。」
陽が高いうちから背徳的な行為をすることに、頭がクラクラする。
いつもより激しい衝動を受け止めるので精一杯だった。
「無理させたな。」
「…いえ…」
政宗様に背を向けて身支度を整えていると、苦笑と共に髪を掬われる。
「…俺が男雛なら、アンタは女雛だ。負けねえぐらいに綺麗に整えてやるよ。」
器用に髪を梳く政宗様にくすぐったい思いでいると、後ろから忍び笑いが聞こえてきた。
「政宗様?」
「Sorry. 俺達が内裏だってんなら、小十郎達は何だろうとふと思った。」
「片倉様は五人囃子の一人…でしょうか?」
「いや、五人囃子は子供だぞ?随臣だろうな。」
「随臣?」
「左大臣と右大臣だ。」
「ああ、なるほど。すると、もうひとかたは成実様ですか?」
「成は若すぎるだろ。アイツは仕丁で充分だ。」
「政宗様のおそば近くにいる成実様には合っていますね。」
「そんないいもんじゃねえよ、アイツは雑用係だ。」
「まあっ!」
「もう一人は綱元だな。」
「そうなると左大臣が鬼庭様、右大臣が片倉様、でしょうか?」
「だな。」
「喜多さんは三人官女の一人ですね。」
「一番年増の、な。」
「まあっ!喜多さんに言ってしまいますよ。」
「No, it's a secret!」
お互いが洩らすクスクスという音が心地よい。
今日は三月三日。
上巳の日、女子の幸せと健やかな成長を祈る日なのだから。
「よし、綺麗に梳けたぞ。」
「ありがとうございます。」
「Honeyの一年の健勝を雛人形に託すか。」
「きっと見守ってくださいますね。政宗様、用意していただきありがとうございます。」
「夕餉は久し振りに俺が腕を揮うとしよう。が、その前に…」
「…?」
「アンタをもう一度…な?」
「えっ!?せっかく綺麗にしていただいたのに…!?」
「分かんねえか?己が綺麗にしたものを乱したくなるのも男ってモンなんだよ、you see?」
2016.03.01. UPIT
2017.03.03. EDIT