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もうキミ以外欲しくない

12



やっぱりしてもらいっぱなしは悪いわ、と美和が事前連絡なしにサンライズ・レジデンスへ大きな荷物を抱えてきた。

「母さん、すごい荷物だね…」
「かなちゃん!ちょうどいいところに。これ、5階まで運んでくれるかしら?」
「いいけど、俺1人はちょっと無理かなあ。悪いけど先に5階に行って、助っ人を呼んで来てくれない?」
「いいわよ。ちょっと待っててね。」

浮かれたように鼻歌を歌いながら美和がエレベーターに乗ったのを見て、要は苦笑する。
そのまま少し待っていれば、あがったエレベーターが双子の弟を乗せておりてきた。

「あ、来た来た。つばちゃん、あーちゃん、こっち。」
「げー!かーさん、いっぱい持ってきたなー。中身なに?」
「さあ?とにかくこれを持っていかないと。一人1箱ね。」
「分かった。ほら椿、持って。」
「ちぇーっ。リビングで待ってるヤツらも来いよなー。」

よいしょ、と掛け声をかけた割にはあまり重くなかった段ボールを抱えあげる。
大人の男3人と段ボール箱で窮屈になったエレベーターに乗って5階まで行けば、美和は右京の入れたコーヒーを優雅に啜っていた。

「つっくん、あっくん、かなちゃん、ご苦労様。助かったわ。」
「思ったより重くなくて助かったよ。これ、中身なに?」
「うふふ、茉季ちゃんへのプレゼント。ところで茉季ちゃんは?」
「たぶん部屋にいるんじゃないかな?」
「たぶん?…あなた達もしかして、まだ茉季ちゃんと一緒に食事してないって言うんじゃないでしょうね!?」
「わー、やぶへびー。」
「茉季ちゃんも私の大切な子なのよ!仲間外れは止めてちょうだい!」
「うーん…って言ってもねー、妹ちゃんがねー…。それより母さん、プレゼントって何?」
「会社で作っている洋服よ。あら、そうだわ。あなた達、コーディネートしてみない?」
「コーディネート?」

母親の提案に兄弟達は首を傾げる。
思いついたように笑みを深めた美和は、自分の横に置いたバッグから細長い紙を2枚取り出した。

「これ、いま話題の映画のチケット。貰ったはいいけど、私は行く暇がないのよね。」
「えー、欲しい欲しい★」
「そうよね?だから私が持ってきた服を各自コーディネートして、その中から茉季ちゃんに選んでもらいましょ!このチケットは、選ばれた人にあげるわ。コーディネートした服でデートでもしてきたら?」
「マジで!?俺、参加する!」
「あ、俺も俺もー★」
「…僕も。」

リビングが一気に騒がしくなった。
参加すると手を挙げた兄弟達が段ボールに群がる。
ガムテープをビリビリと剥がし、中から洋服を取り出すと思い思いにコーディネートを始めた。



やはり洋服を選ぶにも個性が表れる。
兄弟達がそれぞれのセンスを打ち出したコーディネートに、美和も満足そうに頷いた。

「それじゃ、茉季ちゃんを呼びましょうか。」

スマホを取り出し電話をかける。
すぐに出た茉季にリビングに来てちょうだい、とだけ言って美和は電話を切った。

「…美和さん、こんばんは。」
「うふふ。こんばんは、茉季ちゃん。」

ラフな格好で現れた茉季に、美和は楽しそうに微笑む。
その様子に、不思議そうに首を傾げて茉季は美和に聞いた。

「どうしたんですか?いきなりいらっしゃって。」
「茉季ちゃんにプレゼントをしたくてね。」
「プレゼントですか?…もしかしてここにあるお洋服、とか?」
「そうよ!」
「そんなっ!いただけませんよ!」
「まあ、そう言わずに。取りあえず選んでみてくれるかしら、茉季ちゃん。この中で着るとしたらどれ?」
「もらえませんからね?この中ですと、そうですねえ…」

右に左に目移りをしながら茉季は洋服を眺める。

「…どういうシチュエーションで着るんですか?」
「そうねえ…映画デートってところかしら。」
「え…、みなさんがいる前でデート服を選べ…と?」
「うふふ。みんな気になってしょうがないみたいだし、いいじゃない。」
「…恥ずかしいです。」
「まあ!可愛いわね。でも逃がしてあげない!さあ、茉季ちゃんならどれを着る?」
「…もし美和さんが流行調査されているとしたら、私は世間の参考にはなりませんからね。」

そう言ってもう一度クルリと見渡すと、茉季は近くにあったセットを選んだ。
途端に聞こえてくる力の抜けた声の数々。

「え…えっ…?」

茉季が焦って周りをキョロキョロしていると、美和がへえと納得するように感嘆した。

「茉季ちゃんってお洋服の好み、割と落ち着いた感じなのね。自分の雰囲気をしっかりと知っているというか…とてもよく似合いそうだわ。」
「雰囲気と言うか…まあ、そろそろいい年なので。」
「そんなことないわよう。もっと攻めてみてもいいと思うわ。その方が彼氏さんも喜ぶでしょうに。」
「彼氏さん?」
「そうよ!茉季ちゃんのような女の子だったらいいヒトの一人や二人や三人、いてもおかしくないわ!!」
「…ええと、同時に複数ってよくないと思います。そもそもそんな相手はいませんし。」
「あらっ!?そうなの!?」
「残念ながら。浮いた話の一つでもできればよかったのですけれど。」

茉季が肩を竦めて首を振る。
その言葉に兄弟達の表情が明るくなったり、驚いたように彼女を見たりしているのは気のせいだろうか。
驚声をあげたのは兄弟達だけではなかった。

「ちょっと!聞いた、あなた達!?このチャンスを掴み取りなさいっ!」

息子達に発破をかける美和の意気込みに、茉季は苦笑った。

「なにも手近で済まさなくても…。これだけいい男が揃っているんですから、自分が望む相手ぐらい自分達で見つけられるのではないですか?」
「茉季ちゃんはもっと自分を評価した方がいいわ!あなたみたいな子、中々いないわよ?茉季ちゃんがこの子達の誰かと一緒になってくれたのなら、私はとっても嬉しいんだけど。」
「一緒って…飛躍しすぎです…。それより…」

周りを気にせずにマイペースに話を進める美和に、茉季もさっき聞いた声の原因を聞いていいものか躊躇われる。
だが、その話題に戻したのは他でもない美和だった。
ポンと手を打つと思い出したように息子達を見る。

「それはそうと、このコーディネートをしたのは…」
「僕。」
「ああ、あっくんね。うーん、流石だわ。正統派キレイ目を意識しているだけあるわね。はい、優勝賞品。」
「ありがとう、母さん。別に僕自身はそんなにこだわりがあるわけじゃないんだけどね。」
「え、と…あの…梓君、美和さん?一体なんのお話を…?」
「うふふ、実はね。」

そう言って種明かしをする美和はとても楽しそうだ。

「この組み合わせ、この子達が考えたの。その中で、茉季ちゃんが選んだ人に映画のチケットをあげることになっていて。」
「えっ!?」
「それがあっくんだったわけ。」
「…ああ、それでがっかりした声が聞こえてきたんですね。梓君、おめでとうございます。」
「どうもありがとう。茉季さんのおかげだよ。」
「そうだわ、あっくん!コレを着た茉季ちゃんを撮って、画像送ってちょうだい!!」
「え?」
「茉季ちゃんだけとあっくんとツーショットの、合わせて2枚よ!コレを着た茉季ちゃんにあっくんがどう合わせるかも興味あるわー!!」
「…ということらしいんだけど。茉季さん、どうかな?一緒に映画、観に行かない?」
「え?」

照れたように手を頭にやりながら梓が尋ねる。
どうかなとチケットを茉季に差し出したが、内容を確認して困惑したように母親を見た。

「…と言うか、母さん。これ、明日までなんだけど。」
「あら?そうだったの?」
「うわ、急だな。…えっと、明日の予定はある?茉季さん。」
「…ごめんなさい。明日は出かける用事があって。」
「僕も仕事があるんだけど、夕方からなら空いているんだ。それでも無理かな?」
「夕方から…なら大丈夫です。でも、私ではなくて椿君と行ってきたらどうですか?お2人、仲がいいですし。」
「それがさー。俺、明日は夜まで仕事が入ってて。いやー、残念だにゃー★」

ニヤニヤと笑いながら椿が断る。
面白がって片割れを見ていたのが、梓の癇に障ったようだ。
ボカリと拳骨が落とされた。

「いってー!殴らなくたっていいじゃん!梓の鬼ー!」
「椿?僕が言ったこと、覚えているよね?」
「う…ハイ…」
「じゃあ黙ってて。…茉季さん、僕は茉季さんと行きたいんだ。ダメかな?」
「うわー!あーちゃん、積極的!」
「…かな兄?」
「なに〜?」
「黙っててくれないかな?」
「…ハイ。」
「はあ…まったくもう。2人が言ったことは気にしなくていいから。どうかな、茉季さん?」
「…分かりました。それなら、梓君の仕事が終わってから待ち合わせませんか?」
「うん。じゃあ、アドレス交換しよう。」
「あ、はい。スマホ持ってきます。」
「えー!?梓、ズルい!!俺も茉季ちゃんと交換するー★」
「俺も、俺も!」
「なに言ってるの、椿、かな兄?これは僕の特権でしょ?茉季さんが選んだのは僕なんだから。」

上機嫌な様子で兄達の主張を却下する梓は、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だった。
ねえ?と微笑みながら小首を傾げられ、茉季の胸が小さく反応を示す。
彼女が選んだのは『僕が選んだ洋服』であって梓自身ではない。
けれど、こうも嬉しそうな顔をされてしまえば勘違いしてしまいそうになる。

「まあ、お母さん感激だわ。あっくんがつっくん以外に、こんなに興味を示すなんて…!」
「母さん…。いくらなんでも、その言い方は僕に失礼だよ。」

いいから行こう、と梓は茉季を誘って下に降りる。

他の兄弟達にはアドレスを教えなくていいからね。
全力で仕事を終わらせるから。
明日、楽しみだね。
僕が選んだ服を着てきてね?

そんな声が梓の背中越しに聞こえてきそうだった。


2016.08.04. UP




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夢幻泡沫