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もうキミ以外欲しくない

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「茉季さん、茉季さん!私、すっごく楽しみにしてたんです!!」
「私もよ。」

車内で興奮する円香に同調しながら、茉季は自宅に向けて車を走らせる。
だいぶ前に約束した交換会。
2人とも準備ができたので、茉季の家で交換することにしたのだ。
家、というより仕事場が正しい。
円香が常々『茉季さんの仕事場にお邪魔してみたいですー!』と訴えていたので、誘ってみたら想像していた以上に食いついてきた。
終始笑顔の絶えない円香に、茉季も嬉しく思った。

「着いたわ。ここが自宅兼仕事場よ。」
「わあっ!オシャレなマンションですねー!」
「ふふ。オーナーさんがオシャレな方だから。」
「そうなんですかー!楽しみです、茉季さんのお仕事場!!」
「見かけ倒しじゃないといいけれど。」

期待に胸を膨らましている円香に苦笑しつつ、茉季は彼女を案内した。
エレベーターで4階まで着くと、仕事場の鍵を回す。
カチャリとしてドアを開けて中に円香を招き入れようとした時、奥の方からあれー!?と元気な声が茉季を呼びとめた。

「茉季ちゃんじゃん★お客さん?」
「…椿君。こんにちは。」
「こんにちはー★だれ?茉季ちゃんの友達?」
「一緒に働いている円香ちゃんです。円香ちゃん、こちら…」
「えっ!?あっ…つ、つっくん!?」
「え?ああ、俺のこと知ってる?そーでーす★朝日奈椿でーす!」
「えっ!?ええっ!?茉季さん、知り合いなんですか!?」
「うん…まあ…」
「えーっ!?うそっ、やだっ、すごいっ!!あの、私!つっくんのファンです!あっくんと一緒にいるつっくんが大好きで!!」
「ありがとー★俺も梓が大好きだぜ。最近は茉季ちゃんにとられちゃってるけど、なー!?」

意味ありげにニヤリと笑った椿は、茉季を見ながら最後の一言を強調して言った。
椿の言葉に茉季の顔がボッと赤くなる。
その反応に、椿はニヤニヤと笑いを重ねた。

「かーいい反応だねー★」
「…」
「いやー、ここに梓がいないのが残念…」
「ちょっと、椿。うるさいよ。」
「梓ー★」
「えっ!?あっくんも!?」
「…どちら様?」
「茉季ちゃんと一緒に働いてる円香ちゃん。俺と梓のファンの子★」
「…初めまして、朝日奈梓です。」
「円香ですっ!!えっ、ちょっ…茉季さんっ!!こんなサプライズ聞いてませんよ!?」
「…私も知らなかったし…」
「ちょーうれしー!!つっくんとあっくんに会えるなんて!!えっ!?もしかして一緒に住んでいるんですか?」
「…」
「一緒に住んでるんですね!?彼氏いないとか言っといて、茉季さんしっかりいるじゃないですかー!しかも一緒に住んでいるとか、すごいっ!!同棲ですね、同棲っ!!」
「…ええと…」
「えっ、ちなみにつっくんとあっくんとどっちですか!?はっ、まさか2人ともっ!?」
「…お2人ともすみません。後できちんと誤解を解いておきますから。」
「そんなことないってばー★茉季ちゃんと俺の仲じゃん!ウェルカムだよ!」
「茉季さん、気にしなくていいよ。僕達、上にいるからごゆっくり。ああ、そうだ。京兄に言っておくから、円香ちゃんも一緒に夕飯たべていったら?」
「梓ナイス!円香ちゃんも一緒に飯くってこーぜ★」
「ええっ!?そんな!恐れ多いっ!!」
「『恐れ多い』ってなんだよー。かーいいなー★食ってってね。」
「…お言葉に甘えちゃう?円香ちゃん?」
「えーっ!えーっ!?いいんですかー!?そりゃ、私としては土下座して頼みたいくらいですけど。」
「面白い子だなー。夕飯が楽しみだぜ。なっ、梓?」
「うん。それじゃ、僕達は行くから。ごゆっくり。」
「ごゆっくりー★」

ひらひらと手を振る椿にキャーっと興奮した円香を、茉季は何とか仕事部屋へ押し入れた。



他の兄弟達が先に食事を取ってから、4人で夕飯を取ることになったようだ。
梓から連絡が入って5階へ行ってみたら、食べ終わった兄弟達はソファで寛いでいた。
弥が『いいなー』と口を尖らせていたので茉季が隣に誘ってみると、効果音がつくのではないかと言うぐらい嬉しそうに笑っていそいそとテーブルに着いた。

「ってことはー、円香ちゃんは俺達がデビューしたぐらいからファンでいてくれてるわけ?」
「そうですっ!」

緩みっぱなしの頬をさらに緩ませ、円香は力説を振りまく。

「どの役も好きなんですけど、最近はお2人が一緒に出ている芸能学園恋愛ゲームがとっても好きなんですっ!」
「えっ、ゲーム!?つっくん!僕、そのゲーム知らないよー?」
「弥は知らなくていーんだよ。女の子向けのゲームなんだから。」
「むー!…おねーちゃんは知ってるの?」
「タイトルだけね。私もしたことはないよ。」
「そっかー。おねーちゃんが知らないなら、僕も知らなくていいもん。」
「えーっ!?茉季さんもやってみましょうよー!ちなみに私は、堅物真面目御曹司もあざと可愛い王子様も攻略済みですっ!!」
「そうなんだ、ありがとう。」
「こっちこそ『ありがとうございます』ですよー!ゲームも好きですけど、歌もすごく好きで!茉季さんにもいっぱい聞いてもらってるところなんですー!!」
「そうなの?」
「はい。前に言ったことがありませんでしたか?梓君も椿君も、歌もお上手なんですね。」
「ああ、そういえば言っていたね。…歌、褒めてくれてありがとう。」

隣に座っている梓を見ながら茉季が素直な感想を言えば、梓は照れて視線を逸らす。
普段ではあまり見られない姿に、円香が一段と興奮した。

「茉季さん、羨ましいですー!つっくんやあっくん達と一緒に暮らしてて。いろんな2人が見られますもんね!」
「ふふ。誰にも言わないでね?」
「もちろんですよっ!好きな人に迷惑をかけるようなことをする人は、ファンとは言えないと思いますっ!!私はつっくんとあっくんのファンですからっ!!」
「俺達からもお願いするねー。」
「はいっ!茉季さんのことも大好きですし、ここに住んでいる人達の迷惑になるようなことはしません。絶対に誰にも言いませんから!」
「ありがとう。」
「円香ちゃんっていい子だねー★円香ちゃんが妹として来ればよかったのになー。」

椿の一言に、梓は自分がピシリと固まるのが分かった。
面白いくらいに頭が真っ白になっている。

…一番初めに注意したのに。
すっかり忘れているんだろうな、椿は。
今の一言がどれだけ茉季さんに対して失礼なのか分かっていない。
茉季さんが傷ついていなければいいけど…。

そう思って梓は目だけ茉季に向けた。
何かフォローを入れたいが、咄嗟にいい言葉が浮かんでこない。

「…私も円香ちゃんが妹だったらとっても嬉しいです。」
「だろー★」
「円香ちゃん、よかったね。椿君にそう思ってもらえて。」
「はいっ!嬉しいです!!でも、私も茉季さんが本当のお姉ちゃんだったらすごく嬉しいなーっていつも思ってるんですよ!」
「あら、ありがとう。嬉しいわ。」
「ダメー!おねーちゃんは僕のおねーちゃんなのー!それでー、円香ちゃんも僕のおねーちゃんになってくれるのー。それだと僕もうれしいなー。」
「わっ、嬉しいな!弥くん、ありがとう!!」

ニコニコと笑いながら楽しそうに会話する3人を、椿が気持ちの悪い笑顔で見ている。

椿、本当に分かってなさそう…。
…茉季さんも気を遣ってくれているのかな。
話題に乗っかってくれて、やっぱり僕なんかよりも大人なんだろうね。
この場の空気をしっかり読んでる。

「さあ、円香ちゃん。もっと椿君や梓君とお話ししたいだろうけど、そろそろお家に帰らないと。」
「えっ!?…ああ、本当ですね。もうこんな時間だ。つっくん、あっくん、今日はどうもありがとうございました。」
「いーえー★またおいでね。」
「気をつけて帰ってね。」
「はいっ!本当にどうもありがとうございました。」

ペコリと頭を下げた円香は、最後まで楽しそうに茉季にピョコピョコついていく。
茉季も食器だけ片付けると、円香を促してリビングを出た。

「…椿。僕が言ったこと、忘れた?」
「え?なんだよ、梓ー。怖い声なんか出しちゃって。」
「さっきの言葉…なに?」

自分で思っていた以上に怒っているようだ。
梓は自分の声がいつもより低くなっていることに気がついた。
それなのに椿は分かっているのか分かっていないのか、いつもと同じ軽い調子で聞き返す。
梓の不機嫌さが更に増したことが、椿には分からなかった。

「さっきの?」
「…」
「梓?」
「…円香ちゃんが妹だったらとか、妹として来ればよかったとか、っていうの。」
「え?別にー。てか、梓も円香ちゃんが妹だったら良かったと思わねー?」
「思わない。僕、椿に言ったよね?『彼女の前でそういう言葉を言うな』って。」
「彼女?」
「茉季さん。茉季さんが来る時に言ったよ。忘れた?」
「あー…うん?そうだっけ?」
「そうだよ。失礼だからねって言ったはずだけど?」
「大丈夫っしょ!茉季ちゃんだって円香ちゃんが妹だといーなーって言ってたんだし★」
「それは椿の話に合わせてくれたんでしょ。…茉季さん、傷ついてなければいいんだけど。」
「なんだよー!梓ってば茉季さん茉季さんって。俺をほっとくなー★」
「椿?」

梓の背後が一気に黒くなる。
また一つ低くなった梓の声に椿は軽い調子を一気に引っ込め首を竦めた。

「…さーせん…。」
「まったく、もう。謝るのは僕にじゃないでしょ。ちゃんと茉季さんに謝っとくんだよ。いいね?」
「はーい。」

小さな声で承諾をした椿に、梓は大きく息を吐いた。


2016.09.29. UP




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夢幻泡沫