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もうキミ以外欲しくない
16
その日から、梓は毎日のように電話をしたりメールをしたりした。
けれど茉季からの返事は一切なく、ただ日々が過ぎていく。
うんともすんとも言わない自分のスマホに、梓の焦りが日に日に濃くなっていった。
それは次第に苛立ちに変わる。
とうとう朝早くから棗を呼び出して、公開説教をすることになってしまった。
椿と棗が居心地悪そうに梓のはす向かいに座っている。
「どうして茉季さんと連絡が取れないのかな?」
「…そんなこと俺に聞かれても…」
「分からないの?」
「分かるかよ。」
「はあ…棗ってほんとにバカだね。」
「あ?」
「キミが茉季さんに失礼なこと言ったからでしょ。茉季さんに謝ったの?」
「連絡先が分からねえのに、謝るも何も…」
「ははっ!棗、おこられてやんのー★」
「そういう椿は、この前の失言を茉季さんに謝ったの?」
「うっ…だって茉季ちゃんの連絡先知ってんの、梓ときょーにーだけ…」
「それで?だから、何?家族だって思っている人達から立て続けに自分のことを拒否するようなことを言われたら、誰だって家を出たくなるんじゃないの?」
「…」
「それなのに、何で2人とも謝らないかな?」
「だから、連絡先が…」
「え?何?」
「何でもねえ…。」
いつも以上に淡々と責めてくるということは、梓が本気で怒っているということ。
椿と棗はごくりと唾を飲み込んで彼から視線を逸らした。
怒られているのは分かるし、原因が自分にないとも言い切れない。
けれど、棗はなぜ梓が怒っているかが分からなかった。
気持ちばかり椿に近付くと、梓に聞こえないようにボソボソと情報を求めた。
「なあ…何で梓のヤツ、あんなに怒ってんだ?」
「梓、ちょーこえー…。」
「何か知ってんだろ、椿。」
「茉季ちゃんが気になってしょーがねーんだよ、梓は…。」
「は?」
「だからー、梓は茉季ちゃんのことが好きなんだってば。」
「…八つ当たりかよ。」
「何か言った?棗?」
「…何も。」
やってらんねえ、とばかりに棗は眉を顰める。
「なにその態度?2人が彼女に辛く当たるから、茉季さんは帰ってこれないんでしょ。悪いと思わないの?」
「…」
「茉季さんは今どこにいるのかな?ねえ、棗、椿?」
「…梓ー、さすがに分かんねーって…」
「あっ!バカ、逆らうなっ!!」
「ふーん、分からないんだ?それで?」
「…」
「分からなければ、それでおしまいなんだ?ふうん?」
「…すみません。」
「どうしろって言うんだよ、梓。」
「…梓、その辺にしておいたらどうです?」
あまりの辛辣ぶりを見かねたのか、右京が口を挟む。
「2人が言ってしまったことは確かにいいことではありませんが、茉季さんもいい大人なんです。彼女のことですから、その辺はきちんと弁えられるでしょう。」
「だけど、京兄。しばらくってどれくらいなの?」
「さあ、それは…」
「茉季さんは女の子なんだよ。何かあったりしたら…」
「…そうですね、確かにこう何日も帰ってこないのは心配です。私も知り合いの弁護士に…」
梓の顔が曇り、それを見た右京も厳しい顔で腕を組んでフローリングを見つめる。
重い沈黙が流れた。
「茉季さん…?」
そんな雰囲気を、ほわりとした声が断ち切る。
「琉生。」
「おはよう、みんな。茉季さん、どうかした?」
「何日も帰ってきていないので、心配だと話していたところです。」
「茉季さん?元気だよ。」
「え!?琉生、茉季さんがどこにいるか知ってるの?」
「梓兄さん、大きな声、珍しい。」
「ねえ、琉生?茉季さんがどこにいるか知ってたら教えてくれないかな。」
「一緒に、仕事する。今日、これから。」
不思議そうに首を傾げた弟に体から力を抜く。
安堵のため息を深く吐き出し、梓は天井を仰いだ。
とりあえず茉季は無事のようだ。
「凪さん達の、ドレスの撮影。僕、ヘアメイク担当。茉季さん、モデル役。」
「…ねえ、琉生。今日のその仕事に、僕も行っちゃダメかな?」
「えっ、梓兄さんが?」
「うん。自分の目で茉季さんが元気な姿を見たいんだ。それから、この2人が直接謝るところも見たいから。」
「…俺らも行くのかよ。」
「行かないの?」
「…ちっ、行けばいいんだろ。」
「琉生、よかったね。棗が車だしてくれるって。」
黒く笑う梓のプレッシャーに椿も棗も肩を落とすと了承をした。
2016.10.27. UP
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夢幻泡沫