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もうキミ以外欲しくない

17



着いた先は立派な庭園のある日本家屋だった。
広々とした空間に数人が撮影用の準備をしているのが分かった。
その中で梓も見たことのある顔がいた。
琉生はその人に気づくと、楽しそうに近づいていった。

「凪さん、おはようございます。」
「おっ、朝日奈。おっす。」
「今日は、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。茉季、もう準備はじめてるぞ。」
「すぐに、セットします。茉季さんが終わったら、凪さんの番。」
「おー、頼む。茉季、綺麗にしてやってくれ。」
「大丈夫。茉季さん、そのままでも、綺麗だから。」
「はは、まあそうなんだけどな。」
「それで、凪さん。この人達、僕の兄さん。」
「ああ…電話で言ってた人達のことか?俺らは別に構わねーけど、茉季が嫌がるんじゃねえ?」
「うん、そうかも。でも、どうしてもって、梓兄さんが言うから。僕から、茉季さんに、言います。」
「それは助かる。今日の撮影は茉季にかかってるからな。」

そう言って苦笑する凪に、琉生は大丈夫とふわりと笑った。
ドレスのイメージを琉生に伝え、琉生が茉季のところへ向かうと凪は梓達の方へ来た。

「初めまして。朝日奈のお兄さん達と伺っていますが。」
「急に押しかけてすみません。こっちから朝日奈椿、梓、棗です。」
「…ああ、円香がよく言ってる声優さん達ですか?」
「へー、円香ちゃんも知り合いなんだ。」
「円香はうちのバイトですよ。それで、今日は急にどうしたんですか?」
「茉季ちゃんが全然帰ってこないから、梓が心配してー★」
「違うよね?椿と棗が茉季さんに謝らなくちゃいけないから、でしょ。」
「へーへー。」
「訳あり、みたいですね。まあ、ここまで来るんだからそれもそうか。」

クックッと笑うと、凪は居心地悪そうにしている椿と棗に目を細めた。

「何があったかは知りませんけど、撮影の邪魔だけはしないでください。俺達も真剣なんですから。」
「…しねえよ。それよりもアンタ、随分とめかし込んでいるようだが?」
「俺もモデル役なんですよ。自分で作ったものだからこそ、責任もって輝かせなくちゃいけないでしょう?なんせ、相手は茉季だし。」

小っ恥ずかしいけどごゆっくりどうぞ、と言い残して凪も撮影の準備に戻る。
梓達は所在なげに邪魔にならなさそうな位置に移動すると、キョロキョロと辺りを見回した。

「…ここ、すげえな。」
「料亭かなんかかな?」
「ここ、僕の先輩の家。」
「琉生。終わったの?」
「うん。」
「お疲れさま。」
「ありがとう、梓兄さん。茉季さん、綺麗だよ。アレンジ、楽しかった。」

ようやく帰ってきた弟に三つ子は明らかに安心した。
腰に仕事道具をセットしたままの琉生は、まだ出番が残っているために腕まくりをしたまま撮影場所を確認している。

「それで琉生ー、茉季ちゃんはどこにいるのー?」
「うん。もうちょっとで、来ると思う。あ、ほら。」

そう言って琉生が指した方向を見た3人は瞬時に言葉を失った。
赤い打掛生地を基調とした上に幾重にも生絹の生地を重ねたドレスを身に纏い、シンプルかつ清楚なサイドテールに生花を惜しみなく使った飾りで纏めた姿。
その横に挿された豪華な簪が彼女の存在をひときわ高雅にしている。
凛とした表情を作っているのは琉生の化粧の効果もあるのか。
時代絵巻物から現代に合わせて飛び出してきたような、とても華やかでいて近寄りがたい雰囲気の茉季がゆっくりと現れた。

「…はー、すげーなー…」
「…こんな嫁さん、欲しいもんだな。」

椿がぽかんと口を開けて固まる。
棗もごくりと唾を飲み込んで目が釘付けだった。
呆気にとられたまま彼女のことを視線で追っていれば、凪が側に寄った。
2人が揃うと更に圧巻だった。
日本庭園に馴染むような豪華なドレスやフロックコートを纏っている彼女達は、そこだけ世界が違う。

「…茉季ちゃん、お姫様みたい…」
「物語の世界だな。現代版かぐや姫…ってところか?」

トレインが長めのドレスを着ている茉季は若干動きづらそうで、それを凪が慣れた手つきで助けていた。
茉季もリラックスをした感じで受け入れているのが見て取れる。
梓の胸はチリチリと焼けついていた。

「凪さん、昔、モデルやってた。茉季さんは、頼まれてやってる。2人とも、とってもキレイ。撮影、楽しいよ。兄さん達、ゆっくり見ていってね。」

嬉しそうに言った琉生は、撮影に参加するために三つ子から離れるとスタッフの集団に加わった。
彼らの顔はどれもが明るく、楽しんで参加しているのが分かる。
茉季も堂々としたもので、求められるポーズを恥ずかしがることなく提供していた。
その一つ一つがどこに載せても文句をつけようがないようなもので、梓達は思わず魅入ってしまう。

「…茉季ちゃん、すげーなー。てか、本業はモデルなんじゃね?モデルでも食ってけそう。」
「あ?モデルじゃないのかよ?」
「茉季さんはコサージュ作家だよ。」
「コサージュ作家?嘘だろ…」
「いやー、茉季ちゃんきれーだなー。俺、オトナな関係になっちゃおっかなー★」
「…椿。」
「だって梓、いかねーんだろ?だったら俺が…」
「椿…?」
「待て!お前ら、アイツは兄弟なんだろ?普通に考えてマズいだろうが!」
「じゃー棗は、あんな綺麗な子が側にいて平気なんだ?なんにも思わないんだ?」
「そ、それはっ…」
「ほら見ろー!棗だってヤらしいコト考えてんじゃん!」
「うるせえ!大体にして、あんだけの女なら男ぐらいいるだろうが!あの凪ってヤツ辺りじゃねえのか?」
「茉季ちゃん、彼氏いないっていってたもーん★」
「マジかよっ!?」
「…椿、棗?いい加減にしてくれないかな…?」

横でぎゃあぎゃあ騒いでいる低俗な争いがむなしく聞こえる。
目の前の風景には、まったくもって似合わない。
花嫁役の茉季だけのショットはとてもまばゆく、凪と2人でのショットは見ている側が赤面するほどの甘い雰囲気で、梓は正視するのが苦しいぐらいだった。


2016.11.17. UP




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夢幻泡沫