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もうキミ以外欲しくない
02
「…というわけで、母さんが再婚をするそうです。お相手は冒険家の日向麟太郎さんと言う方です。」
「有名な冒険家さんだね。」
「ええ。彼には娘さんが1人いるそうなので、このマンションで一緒に暮らすことになったと母さんから連絡がありました。」
右京の説明に、リビングに集まっていた兄弟達は驚いて目を大きくする。
「僕達の妹になるのは茉季ちゃんという名前だよ。弥、よかったね〜。お姉ちゃんが来てくれるんだって。」
「おねーちゃん?」
「そう、お姉ちゃん。」
「わーい!ぼくにおねーちゃんができるんだー!!」
「ちょっ、ちょっと待った!まさにー、どーゆーこと?」
「どういうって、そのままだけど。」
「ええと…母さんが再婚して、僕達に姉か妹ができるってことだね?急な話でびっくりした。」
「その子は光と同い年って聞いているから、要までは妹だね。椿からはお姉さんになるのかな。」
「え〜!?どうせなら妹がよかった!!」
「椿は妹萌えだからね。」
「そー!俺って妹属性好きだから。」
「でもね、椿。それを、ええと…茉季さん?の前で言っちゃダメだよ。失礼だからね。」
「それと、椿。彼女の部屋を用意するために、棗が以前使っていた部屋を片付けなさい。お前の物置と化しているのですから。」
「えーっ!?ひかにーの部屋に入ってもらえばいいじゃん。」
「在宅の仕事をしているそうですから、2部屋用意することになりました。いいですね、彼女が越してくる前までに片付けるのですよ。」
「ちぇー…ずっこいのー。」
「椿。僕も手伝うから、片付けようね。」
「梓ー!ありがとー!!ギュー★」
「はいはい。重いからどいて。」
扱い慣れたように椿をどかすと、梓は席を立つ。
「ほら、始めるよ。僕は別に椿がいなくてもいいけど、片付けられて困るのは椿じゃないの?」
「あっ、ちょっと待ってー!梓ってば先に行くなよー!」
ため息をつきながらも梓が椿の部屋を片付ければ、綺麗になる。
そうして朝日奈家では新しい兄弟を迎える準備を終えたのだった。
それからしばらくして茉季がサンライズ・レジデンスへ入居する日。
リビングでは集まれるだけの兄弟達がソワソワしながら彼女を待っていた。
「ねーねー、きょーにー。彼女いつ来んの?」
「椿、少しは落ち着いて。」
「えー、俺おちついてるよー?」
「と言うわりには、さっきからうろうろしているように見えるけど?」
「だってさー、妹じゃないって言っても男ばっかの兄弟に女の子が増えるんだよ?テンションあがるって!」
「はあ…落ち着きなさい、椿。約束の時間まではもう少しあるのですから。」
「ぼく、おねーちゃんとなかよくなりたいな。」
「きっとなれるよ、弥。だって弥はいい子だもん。」
「えへへー。おねーちゃん、早くこないかなー!!」
「雅臣兄さん…。彼女の前ではそう言うことを言わない方がいいですよ。」
「えー、何で?」
「何でって…」
落ち着きのない兄弟達に右京が頭を抱えていると、インターフォンが鳴らされた。
画面に映っているのは、光と同い年とは見えない女性。
けれども今日は他に来客予定はない。
この人がきっと新しく兄弟となる人なのだろう。
「…来たようですね。私が対応しますから、ここで待っていてください。」
「はーい。」
何重奏にもなった返事に一つ息を吐き出すと、右京は玄関へ向かった。
そこにいたのは、手土産を持った軽装な姿の茉季。
メイクも薄くされているだけなのにハッとするほど綺麗な女性に、右京は目を見開いて固まった。
「…」
「…あ、の…」
「…失礼しました。母から聞いていましたが、その…随分とお綺麗な方なので、つい凝視してしまいました。」
「…ありがとうございます?」
「ああ、お世辞ではありませんよ。本当にお綺麗な方だ。」
右京の言い分に茉季はクスリと笑う。
「美和さんにも同じことを言われました。さすが、親子ですね。」
「そうでしたか。初めまして、ようこそいらっしゃいました。私は次男の朝日奈右京と申します。」
「初めまして、茉季と申します。今日からこちらでお世話になります。」
「母のことですから、きっと強引に決めたのでしょう?申し訳ありませんね。」
「あ、いえ…気になさらないでください。美和さんのお気持ちは嬉しいですので。」
「そう言っていただけると、こちらとしてもありがたいです。ここでずっと話しているのもなんですので、どうぞ中へお入りください。」
「はい、お邪魔致します。」
「今日よりあなたの家にもなるのです。どうぞ、気を楽にしてください。中で兄弟達も待っています。」
「よろしくお願い致します。」
互いに成人して何年も経つ。
茉季と右京は、初対面の営業マン同士が挨拶するような畏まった態度で接していた。
エレベーターを待っている間、茉季はこの家の仕組みを簡単に聞く。
1階と2階は賃貸になっていて、3階以上を朝日奈家の兄弟達が1人1室使っているのだとか。
5階は共有スペースになっていて、食事をしたり家族で過ごしたりする大切な場所になっているらしい。
そこで右京以外の兄弟が茉季を待ちわびていると聞き、彼女は苦笑を洩らした。
「…待っていていただかなくてもよかったのですが。」
「そんなことありませんよ。あなたは私達の大切な妹となる方。兄弟達には挨拶をしっかりとしてもらわなければなりませんし、あなたにも兄弟達を覚えていただきたいです。母から聞いているかもしれませんが、うちは兄弟の数が多いものですから苦労するかもしれませんね。」
「…はい。頑張ります。」
「すぐに覚えろ、とは申しません。ですが、早いうちに覚えていただけると私達も嬉しいです。」
「ええ、右京さんはしっかりと覚えました。」
綺麗な笑みを浮かべる茉季に右京も優しい眼差しを見せる。
「それは光栄ですね。こうして出迎えの役を買って出ただけのことはありました。」
エレベーターが開けば、そこには扉が一つ。
「さあ、リビングへ行きましょう。騒がしくなるかもしれませんが、どうかお付き合いのほどを。」
「よろしくお願い致します。」
右京が先導して扉を開く。
ガチャリとなった音に、茉季は深く息を吸い込んだ。
2016.04.14. UP
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夢幻泡沫