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もうキミ以外欲しくない

03



「あっ、きょーにー。やっと戻ってき…」
「椿。落ち着きなさいと何度いえば分かるのですか?」
「…」
「椿…?」
「えーっ!?なにこの子!ちょーキレー★えっ、この子が新しい兄弟?マジでっ!?」

真っ先に立ちあがったのは銀髪が特徴の、派手な外見をした椿だった。
ぱあっと目を輝かすと、隣に座っている黒髪の兄弟を勢いよく見る。
よくよく見れば、2人は顔のパーツ、特に目がよく似ていた。

「なあ、梓ー!すっげーキレーだと思わねー!?」
「…」
「梓ー?」
「…」
「梓?驚いて声も出ねーとか?」
「…ああ、うん。すごく綺麗で驚いた。」
「なんだよー、ビックリさせんなよー★でも、梓のほーが美人だぞー!」
「そういうのはいらないから。というか、椿。少し落ち着いたら?茉季さん、確実に引いてるよ。」
「えー、マジでー!?そうなの?」
「あ、いえ…」
「なんだ、違うじゃんかよー。梓、おどかすなってば。」

思わずかぶりを振った茉季に、椿は満面の笑みを見せるとダッと近寄った。

「はじめましてー。朝日奈椿でーす。茉季ちゃん、ちょーキレーだねー!彼氏いる!?いなかったら俺とイケナイ関係にならない!?」
「は…?」
「わっ、そのキョトン顔もチョーかーいい★どお?俺、すっげー大切にするよ?」
「椿、いい加減にしな。」

茉季の手を取り自分に引き寄せると、囁くように耳元へ顔を寄せた椿の頭から鈍い音が聞こえてきた。

「いってー!殴ることないだろー、梓。」
「はあ、もう…。椿がごめんね、嫌な思いしなかった?」
「…まあ…」
「朝日奈梓です。茉季さん、よろしくね。」
「茉季です。よろしくお願い致しま…す?」

常識的な対応をする梓に、同じように挨拶を返した茉季の動きが止まる。
それから首を傾げた後でチラリと梓を見上げた。

「っ…どうかした?」
「え、あの…朝日奈椿、と…朝日奈梓…って?もしかして…声優さん、ですか?」
「ああ、知ってた?そうなんだ。僕達、声優をやっているんだよ。」
「なになにー!茉季ちゃんってば俺達のファンなの?」
「あ、いえ…知り合いが好きって言っているので、名前だけですけど。すみません、本人を前にこんなこと言ってしまって。」
「ううん、気にしないで。」
「そーそー。声優やってまーす!茉季ちゃんも今度聞いてみてねー★」
「はい。」

ニコッと笑った椿と梓に、茉季もふわりと笑ってみせる。
途端に目元が赤くなった梓がそっと視線を逸らした。

「茉季さん、この2人は一卵性の兄弟なんですよ。」
「…ああ、そう言えば聞いたことあります。今売り出し中の若手人気声優で、双子なんだって。」
「おっ、そーなんだよ★アニメやゲーム、CDに洋画の吹き替えなんかもやってるんだ。きょーみがあるならいくつか貸したげるよ★」
「じゃあ、そのうちに。」
「ちょっとちょっと、そっちばっかり盛り上がってずるくない?早く俺にも紹介してよ、京兄。」
「…また問題児が…」
「右京さん?」
「ようこそ、朝日奈家へ。初めまして、妹ちゃん。」
「初めまして。ええと…」
「こいつは私のすぐ下の弟で、3男の要です。」
「ホントすっごい美人さん。ねえねえ、俺ともイケナイ関係にならない?」
「こらっ、要!」

紫の袈裟姿から想像するに、要は僧侶なのではないだろうか。
そんな立場の人があんな発言をするなんて…と茉季は肩を竦めた。

「こいつの言うことは無視して構いません。」
「えっ…ですが…」
「京兄ってばひどいなー。」
「行儀の悪いクソ坊主で困ったものです。さ、他の兄弟を紹介します。どうぞ、こちらへ。」
「…はい。」

右京に案内されるままに他の兄弟達の前へ行けば、長男の雅臣から末弟の弥までそこにいる兄弟達を次々に紹介される。
そんなことをしているうちに再びインターフォンがなった。

「おや、引っ越し業者が来たようですね。茉季さんの荷物が届けられたようです。梓、すみませんが茉季さんを部屋へ案内してくれますか?部屋の鍵はこれになります。」
「ああ、うん。分かった。」
「茉季さん、2部屋空けてあります。どちらもお好きなように使ってください。」
「ありがとうございます。それで、これなんですが…」

そう言って茉季が取り出したのは茶封筒だった。

「今月分の家賃です。吉祥寺の相場を私なりに調べたのですが…少なかったら申し訳ありません。」
「いえ、受け取れませんよ。」
「ですが、2部屋も借りてしまっていますし…」
「在宅の仕事をされていると聞いていますので、問題ありません。」
「それでしたら、仕事場の家賃として受け取ってください。これでも一応社会人ですから、礼儀としてよろしくお願い致します。」
「しかしですね…」
「申し訳ありませんが、家賃分しか払えませんので食事は私の分は要りません。極力気をつけるようにはするつもりですが、電気や水道を使いすぎていたら教えてください。では、改めまして…本日よりどうぞよろしくお願い致します。」

右京の手に押しつけるようにして茶封筒を渡すと、茉季は兄弟達に会釈をする。

「…梓君、案内してくれませんか?」
「え?あ、うん。じゃあ、下に行こうか。」

茉季に名前を呼ばれた梓は驚いたように彼女を見たが、すぐに穏やかな笑顔で茉季を案内し始めた。


2016.04.21. UP




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夢幻泡沫