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もうキミ以外欲しくない

07



パソコンを立ちあげ、メールに目を通す。
手帳を取り出し、予定の確認をする。
それが終わればひたすら作業に没頭する。
好きなことを仕事として生活をしていけるこの環境がありがたい。
作業用に長時間編集したBGMを流しながら、茉季は手元で作り上がっていく花達に優しい眼差しを向けていた。
茉季の仕事はコサージュ作り。
趣味が高じて活動するようになった。
茉季の作品を見て声をかけた同級生が経営するウェディングサロンのコサージュ作家として、依頼されたものを作っている。
オーダーメイドのドレスに合わせたコサージュは、花嫁を一層華やかにする。
人生に一度と決めた晴れの舞台の演出を自分の作品で手助けできることが、茉季はとても嬉しいのだ。
だが、元々は趣味。
基本的にはウェディングに関連するものを作っているが、時間に余裕がある時は気持ちの赴くままに好きなものを作っては満足していた。
それを見た同級生がネット販売でもすれば?と、サロンのサイトの中に販売コーナーを立ち上げた。
なかなか好評のようで、順調に売り上げを伸ばしているらしい。
愛情を込めて作れば、作品達は応えてくれる。
出来良く仕上がったものを箱に入れ、それを袋に入れると茉季はスマホを取り出した。

『お疲れ様。仕上がったよ。』
『おっ。お疲れ。』
『今からお届けするけど、まだいる?』
『は?今から?』
『うん。』
『おせーだろ!?って翼が隣で言ってる。うるせー。俺も遅いと思うぞ。明日でいい。』
『でも、せっかく仕上がったんだし。大丈夫!気を付けていくから。』
『そーゆーことじゃねー…』
『でも言うほど遅くないでしょ?』
『お前なあ…』
『車で行くから大丈夫だって。』
『…分かった。気を付けて来い。駐車場は空いてるから。』
『ありがとう。』
『夕飯、食ってくだろ?』
『えっ!?いいよ、忙しいんだし。』
『あのなー…それぐらい問題ねーよ。いいから食ってけ。俺達もまだ食ってねーし。どーせ翼が作るし。』
『作るの、翼君なんだ(笑)。ありがとう!じゃあ、今から行くね。』
『りょーかい。気ぃつけてな。』
『茉季〜、気をつけてね〜。』
『あっ、翼君だ。お夕飯、楽しみにしているよー!』
『リクエスト承り中〜。』
『そうだなあ…パスタで!』
『うぃ!』
『じゃあ、行ってきます。変なの(笑)。行きます、かな(笑)。』

LINEを閉じて身支度を整えて茉季は仕事部屋を出る。
時計を見ながらエレベーターを待っていると、1階で停まっていたエレベーターがタイムラグを生んで動き出した。
サンライズ・レジデンスから行くのは初めてだが、何とかなるだろう。
世の中にはカーナビという便利なものもあるのだし。
モーター音を微かに聞きながら、茉季はサロンまでの道を頭に描く。
4階に上がってきたエレベーターのドアがゆっくりと開くと、中から人が出てきた。

「…あ、茉季さん。」
「え?あ、梓君。おかえりなさい。」
「うん、ただいま。…茉季さん、もしかしてこれから出かけるの?」
「はい。」
「もう夜なのに?」
「でもそこまで遅くないですから。」

バッグを片手に、梓が眉を顰める。
どこかでやり取りしたような会話だな、と頭の片隅で感じながら茉季はエレベーターに乗ろうと半身になった。

「女の子が一人で外出する時間じゃないと思うけど。」
「大丈夫ですよ、行き慣れた場所ですから。」
「良かったら、僕が送るけど?」
「いいえ、自分の車で行きますから。」
「…そう。気をつけてね。」
「ありがとうございます。」

ペコリと頭を下げてエレベーターに乗った茉季に、梓は溜息を一つついた。

「『僕が茉季さんのこと、送ってあげたかったのに。』」
「…椿。勝手にアテレコするの、止めてくれない?」
「あーあ。梓、振られちゃったー。」
「椿?」
「こんな時間から出かけるなんて、どこにいくんだろーな。」
「はあ…もう。…ほんと、どこだろうね。」
「梓もつっこんで聞けばよかったのに。」

一緒に帰って来たはずの兄が、含み笑いをしながら階段から登場した。
スマホ片手に、大好きだと公言して憚らない双子の弟に戯れるようにして抱きつく。
そんな兄にもう一つ溜息をつくと、梓は話題転換を図った。

「マネージャーから何の電話だったの?」
「んー?明日の入り時間だった。エレベーターだと切れちゃうことがあるからなあ。階段で来たけど、きっついのー。」
「そう。お疲れさま。」
「マジ疲れたー。って、俺のことはどーでもよくて!梓ー、茉季ちゃんとどーにかなりたくないわけー?」
「どうにかって?」
「そこはさー、いいオトナなんだから察してよ★」
「…はあ。もうすぐ夕飯だよ。取りあえず僕、着替えてくるから。」
「梓、冷てー。」

手慣れたように自分にくっついている椿をベリベリとはがすと、チリと疼いた胸を隠して梓は自室に入っていった。


2016.06.02. UP




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夢幻泡沫