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もうキミ以外欲しくない

08



問題、13人兄弟の誰とも会わずに生活するのはどうしたらよいでしょうか。
答え、その考えを諦めましょう。

在宅の仕事をしているので、茉季は基本的には家にいることが多い。
すなわち、兄弟達と接触する可能性もそれだけ多くなる。
初日に梓に言われたように、右京は茉季の分の食事を作ることを止めなかった。
勝手に、と言っては聞こえが悪いが…茉季の分の食器を一揃えし、食事の時間になると兄弟の誰かが迎えに来た。

「こんばんは、茉季さん。」
「こんばんは。どうかしましたか?」
「『どうかしましたか』って、このくらいの時間に僕が来たってことは…用事は一つだってもう分かってくれてもいいと思うけど。茉季さん、夕飯ができたって。」
「…今日はまだ仕事が…」
「え?世間一般では就業時間はとっくに終わったでしょ?」
「…梓君だって、これ以上に遅い時間までお仕事する時もあるはずですけど。」
「僕達は不規則な仕事だからね。」
「私も…」
「茉季さんは自分で不規則にしてるだけ。茉季さんの生活の邪魔はしたくないけど…そんなに僕達と食事するのは嫌なの?」
「そんなことは…」
「よかった。じゃあ、一緒に上に行こう?みんな待ってるよ。」
「でも…」
「行こう?…ね?」

大抵は梓で、彼の穏やかながらどこか反論を許さない口調に茉季が折れざるを得ないことの方が多かった。
今日も敗戦の数を1つ増やし梓の隣で食事を取った後、兄弟達は長いソファに腰掛けて思い思いに寛いでいた。
茉季がそろそろ部屋に…と頃合いを見計らっていると、椿が間の抜けた調子で右京に話しかけた。

「そーいえばさー、きょーにー。今年ってどうなってんのー?」
「…ちゃんと主語を付けてしゃべりなさい、椿。」
「はいはーい。」
「島のこと、だよね?」
「さっすが、梓♪よくわかってんね!やっぱ俺らって一心同体?」
「…椿の考えていることなら大体わかるよ。」
「ちょうど、私もその話をしようと思っていました。」

椿や梓の言葉に兄弟達が一斉にカレンダーを眺め出した。
『島』という単語に茉季は首を傾げる。
それに対して、右京が丁寧に説明をした。

「ああ、あなたは初めてでしたね。私達は毎年夏休みになると、母所有の別荘へ行くのが恒例になっているんです。」
「別荘ですか?さすが美和さん…」
「ええ、離島にあるんです。ここからは少し遠いのですが、そのぶん静かでいいところですよ。」
「ああ、それでさっき梓君が『島』って言ったんですね。」
「そーなの♪その島には海もあってねー!とーってもきれーなんだよ!」
「その島の一部をプライベートビーチとして、母さんが所有しているんだ。きっと姉さんも気に入ると思うよ。」

弥や受験勉強の前に一息ついている祈織も、楽しそうに茉季に島の素晴らしさを説明してきた。

「プライベートビーチまで…スケールが大きい…。」
「というわけで、旅行の日程をみんなで調整しようと思います。あなたのご都合はいかがですか?」
「え?」
「『え?』って…行きますよね?」
「私も…ですか?」
「何を言っているんですか。当然でしょう。」
「茉季さん、行かないの?」
「…梓君?ええ…と…」
「一緒に行こうよ。」
「うわー、あーちゃんってば積極的ー!」
「かな兄は黙っててね?」
「…ハイ。」
「でもさー、俺と梓…夏休みはイベントだなんだって、スケジュールがかなり埋まっちゃってるんだよなー…。どーする、梓?」
「マネージャーに調整してもらおう。」
「えっ!?難しいかもしんないよ?」
「大丈夫だよ。僕達のマネージャーは敏腕だから。」
「わー…リエちゃん、かわいそー…」

ニッコリと笑う梓に、椿は自分達のマネージャーを憐れむ。
梓がニッコリと笑う時は…。
ゾクリと椿の背中を悪寒が走った。

「それで、妹ちゃんの夏休みの予定は?」
「元々いつとは決まっていませんので、合わせることは可能ですけど…」
「けど?」
「私、お留守番で構いませんよ?」
「ううん。茉季さんも一緒。…ね?」
「琉生君…分かった。行ける日程だったらね?」

茉季の承諾に、兄弟達の顔が明るくなる。

「梓ー。マジで調整してもらおーな。」
「もちろん。マネージャーに頑張ってもらうから。楽しみだね、茉季さん。」

そう言って優しく笑った梓に、茉季も小さく頷いた。


2016.06.09. UP




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夢幻泡沫