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もうキミ以外欲しくない
09
「ゲームのファンの人も、俺達とは初めましての人も、それからいつも会いにきてくれるみんなも、こんにちは!朝日奈椿です!」
「朝日奈梓です。今日は皆さん、最後まで楽しんでいってくださいね。」
「あっくーん!!」
「ありがとう。まずは、このゲームの主題歌にもなっている、僕達の新曲から聴いてください。」
という歌あり、トークショーありのイベント。
このイベントはたくさんの歓声に包まれて、大盛況のままあっという間に終幕となった。
…らしい。
どうやら茉季のすぐ下にいる弟達は相当な人気を誇るようだ。
現に、目の前にいるファンが興奮して熱弁をふるっているのだから。
「…ふうん…椿君も梓君もそんなに人気なの。」
「そーなんですよー!二人ともイケメンだし、声もイケボだし、つっくんはハデチャラだし、あっくんはクーマジだし、もー最高ー!!」
「…よかったね。」
「というわけでー!これ、つっくんとあっくんのキャラソンデータです。ちゃんと覚えてくださいね!?」
「え?覚えるの?」
「そーですよー!私、茉季さんとカラオケ行きたいんですから!」
「…えー…」
「一緒に行きましょうよー!!なんならイベントも今度一緒に行きませんかー!?」
「うるせーぞ、円香!」
サロンの2階で作業をしながら熱い滾りを見せる仕事仲間に、茉季は若干ひいていた。
オーナーである凪に怒鳴られてもどこ吹く風でさらに語り始めているのは、円香という名前の少女だった。
まだ高校生ながらサロンの経営者たる凪と翼も認める手先の器用さで、ここのバイトをしている。
人懐っこい性格で、茉季ともあっという間に打ち解けた。
「いいから手を動かせ。ウチは他の人を雇うほど余裕はねーんだ。それぞれがしっかり働かねーと、仕上がんねーんだぞ!?お客様も時間も待っちゃくれねーんだからな!!」
「そんなの分かってますよー。でもー…」
「『でも』も『クソ』もあるかっ!手を動かせ!!」
「凪、汚い言葉を遣わないの。」
「うっせー!!」
「あ〜、もう!忙しいからって女の子に当たんないの。円香ちゃんも茉季ちゃんもかわいそうでしょ?」
「茉季はともかく、円香はこの程度じゃ痛くも痒くもねーよ。」
「ダメだよ、女の子には優しくしてあげなくっちゃ。それより、凪。お客様が見えてるよ。」
「んだとっ!?それを早く言えっ!!」
このサロンは、1階がオーダーメイド注文兼貸衣装店で、2階がオーダーメイドドレスの製作所となっている。
そこまで大きくはないが、洗練されたデザインときめ細やかな対応で口コミを中心に客足が絶えることがなかった。
下で客対応をしていた翼が凪を呼びに来れば、円香にしっかりと釘をさして彼は降りていった。
汚い言葉遣いとは裏腹に、縫製中のドレスをそれはそれは丁寧に置いて。
「…でもホント、茉季さんには憧れるなー。」
「え…?」
「いや、ホントですって!」
「…ええと、いつからそんな話をしていたっけ?」
男性陣が降りて行き女性だけとなった2階で、円香はうっとりとした目で茉季を見た。
「だって茉季さん、凪さん達とは同い年に見えないし。あーいや、凪さん達も年齢より若く見えますよ?だけど茉季さん、すっごく綺麗だし、髪の毛もサラッサラだし、お嬢様ってかんじですよねー!!」
「そ、そうかしら…?」
「そーですよー!!スタイルもいいし、いつも女子力の高い服を着てるし、かわいいのいっぱい持ってるし、コサージュ作るの神だし、自立してるし、優しいし、私のことかまってくれるし、ホント憧れる!茉季さんになりたい!!」
「あ…ありがとう。でもね、円香ちゃんも充分魅力的だよ?」
「えー、そうですかー?」
「もうね、まず女子高生って言うだけで眩しいわ。それに可愛いし、変に擦れていないし、人懐っこいし、お裁縫は上手だし。円香ちゃんが着ているお洋服って、自分で作るんでしょ?すごいなあ。」
「えへへー、褒められたー!!」
「今度、私にも作ってほしいぐらいわ。」
「私も、茉季さんにコサージュ作ってほしいですー!」
互いに褒め合い、照れ合っていた2人の視線が交わる。
驚いたように見つめ合った後、それぞれの口が弧を描いた。
「交換会…する?」
「ナイスアイディアですっ!」
「ワンピース、作ってくれるの?」
「茉季さんのコサージュ、貰えるんですかー!?」
「やだ、どうしよう。嬉しい!」
「茉季さんのコサージュ!やったーっ!!」
「おいっ!茉季まではしゃぐんじゃねー!!」
「…ごめん、凪君。円香ちゃんがお洋服作ってくれるのが嬉しくて。つい、ね…」
ダカダカと上ってきてドアを開けるなり怒鳴った凪に、茉季は肩を竦めて謝った。
「ったく…下まで響いてたぞ。お客様が帰った後だったから良かったようなものの。気をつけろ。」
「はぁい。」
「…と、もうこんな時間か。帰るだろ?」
「あ、本当だ。いい時間。」
「茉季、今日は電車だったよな?送ってく。」
「いいよ。まだ電車動いているし、大丈夫よ。円香ちゃんを送ってあげて?」
「円香も送ってく。」
「えっ!?いいですよー。うちは歩ける距離ですから。茉季さんを送ってあげてください。」
「2人とも送ってけばいいんだろ?最初っからそのつもりだ。円香んちの後に茉季んちに送るから。早く支度しろ。」
「はーい。ありがとうございまーす!」
茉季さんも一緒ですね!と嬉しそうに笑ってくる円香に、茉季もついつい顔が緩んでしまう。
2人でキャッキャッしながら支度をしていれば、凪に遅いと一喝されてしまった。
「随分と懐かれたもんだな。」
「うん?」
「『茉季さん、茉季さん』って子犬みてーにあとからついてこられてるじゃねーか。」
「円香ちゃんのこと?」
「そー。」
円香を送った後、車を運転しながら凪が疲れたように零した。
「ふふっ。高校生の頃の凪君とは正反対よね。あ、翼君には似ているかな。」
「…うっせー。俺よりもお前だよ。茉季があそこまではしゃぐの、久し振りに見たよーな気がする。」
「そうね。だって円香ちゃんのお洋服を着られるんだもの。嬉しいと思わない?」
「まあ、アイツの物作りに関する才能は俺も認めてるつもりだからな。」
「まだ高校生なのにすごいよね。羨ましいわ。」
「なに言ってんだよ。茉季も高校の時からコサージュ作ってただろ?だから俺は声をかけたんだし。」
「私の場合は趣味程度だったけど。」
「円香も同じだぜ。アイツのお姉さんがさんざん自慢してたから、興味本位で連れてきてもらったら…アイツから食いついてきたからなー。」
「『キラキラワールドが好きなんですー!!』ってものすごい勢いだったらしいじゃない。」
「そーなんだよ。勢いに負けてついバイトの許可を出したが…」
「正解、だったね。」
「…まあな。」
苦笑する凪に、茉季もクスクスと笑顔を見せる。
しばらく他愛もない会話を続けていると、凪がサンライズ・レジデンスの前で車を停車させた。
「ほら、到着。お疲れさん。」
「ありがとう、凪君。」
助手席から降りた茉季は運転席側に回る。
窓を開けた凪がそこに肘を掛けながら、茉季とマンションを見比べて意地悪く笑った。
「いいとこに引っ越したな。」
「…広さはあまり変わらないけどね。」
「仕事が捗っていいだろ?」
「ふふっ。家賃が高くて困っちゃう。」
「バリバリ働けよ。」
夜だからあまり大きな声は出せない。
凪と茉季は自然と顔を近づけて話した。
「前に比べて店から少し離れたけど、まあ問題はなさそーだな。」
「うん。していることは変わらないし、私も車を使えるし、電車だってあるからね。ただ、通勤ラッシュは避けたいかな。」
「だな。」
「送ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね。」
「分かってる。ほら、早く入れ。」
「お見送りぐらいさせてほしいんだけど。」
「…ちっ。俺が出たらすぐに入れよ?」
「分かっているって。」
「んじゃ、次は…夏休みの後か?楽しめるといいな。」
「ありがとう。凪君達も適当に休んでね。」
「おー。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
安全な場所まで離れた茉季に軽く手を上げると、凪はスーッと車を運転して遠ざかる。
それを見送った後、茉季はマンションに入った。
2016.06.16. UP
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夢幻泡沫